●今年の2レース1エンジンというルールはどのくらいきついものだったのでしょうか?
「これに関してはどのチームも素晴らしい結果だったが、タフだったことは間違いない。レースの合間に解決しなければならない問題はどれも今までにない新しいもので、しかも予想外のことだった。われわれが実際にどれほど長い時間仕事をしなければならなかったのか、周囲には想像がつかないほどだと思う。あれはまるで統制下の緊急事態みたいだったよ!」
●今シーズンの結果を振り返ってみて、特にハイライトというと?
「純粋に結果という意味であれば、マレーシアとバーレーンのレースは最高だった。トヨタのクルマがフロントローに並んでいるのを見るだけでも十分特別なことだったのに、表彰台に上がったわけだからね。あれはチーム全体にとって本当に嬉しい瞬間だった」
●そういったシーズン序盤の成果は、チームのモラルにも影響をあたえましたか?
「レースを終えて月曜日にファクトリーに戻ると、みんなの表情に表彰台獲得によってモチベーションが高まっている様子を見て取ることができた。われわれは結果がどうあれ常に最高の力を注いでいるが、表彰台を獲得できると一層大きな力を注ぎ込むのも難しくなくなる」
●オーストラリアとマレーシアでは初めて1基のエンジンで2レースを走らなければならなかったわけですが、何か不安はありましたか?
「正直に言うと、あったね。最初の2戦に向けて、私の担当チームは信頼性と性能の両方を可能な限り高めることができたという自信はあった。しかし、マレーシアGPの終盤になってヤルノが2位、ラルフが5位を走っているとき、私はちょっとナーバスになってしまった。残りの数周は複雑な気持ちでレースを見ていたよ。でも2人がチェッカーを受けた瞬間にそのすべてが消し飛んで幸せな気分になれた」
●シーズン中に何か大きな問題に突き当たったことはありましたか?
「詳しくは話せないが、今年はエンジンの寿命を長く保つためには各パーツの品質が非常に重要な問題になる、ということを学んだ。今までの場合、新しい部品を使うとなれば、まずは設計し、それをテストすればそれでOKだった。エンジンライフが400キロの場合、それでも十分だった。だがそれよりも遙かに長い距離を走らせなければならないとなると、各パーツの品質をもっと高いレベルで保たなければならないことに気づいた。実際のシーズンで1500キロ以上のロングランをこなすためには、大きな努力が必要だった。今までなら走行後に1基のエンジンをチェックするのに必要なのは1日だけだったが、今は1週間必要になる場合もある。それに1基のエンジンだけでは統計的に意味のあるデータにはならないので、すくなくとも2基をテストしなければならない。そのためフィードバックする時間が長くかかることになる。これは大きな変化だった。また、これが生産性のスピードを緩めることにもなった。今までなら新しいパーツの導入にもっと積極的だったからね。また、シーズン当初から使っていたあるパーツに関しては、それまで何も問題がなかったにもかかわらずある時点で問題が起こり、そのためそれの対策にかなり苦労してしまった」
●スティントを長くすると有利になるわけですが、これに関して、エンジンの燃費はどのくらい大きな要素だったのでしょうか?
「これについてはかなり時間を割いて取り組んだ。いくつかのレースでは、スティントの最後にあと1~2周余分に周回するため、かなり極端なマッピングを行った。エンジン開発時に行う(燃費の)最適化の作業では、特定の状況における燃費向上が基本になる。この場合の1~2パーセントという数字はかなり大きい数値だ。われわれはもっとわずかな数値レベルで開発を行っているが、実際には1周当たりのエンジンの使い方のほうが影響は大きい。場合によっては10パーセントほど節約できることもある。したがって、燃費テストに関してはほとんどの場合コース上で測定を行う。ダイナモ上では信頼性に何か影響があるかどうかをチェックするだけだ。われわれが常に追求しているのは純粋な燃費の向上だ。エンジン開発者なら誰もがそれを目標にしている。だが、それ自体が大きなアドバンテージをもたらしてくれるわけではない。10周のスティントで1周余分に走れるという場合なら、つまりは10パーセントの改善ということになる」
●燃費に関するマッピングにはどれくらい種類があるのですか? また、馬力にはどんな影響があるのでしょう?
「マッピングには実にさまざまな種類がある。通常はまず回転数とパフォーマンスを最大にしたパターンを用意して、そこから燃費を考慮しながらじょじょに数値を下げていくやり方だ。その幅としては、たとえば燃料をほんのすこしだけ節約してラップタイムを10分の1秒犠牲にする、というパターンから、逆に燃料を10パーセント節約してラップタイムの犠牲を大きくする、という極端なものまである。たとえば前のクルマに迫っていながら追い越しは無理という状況のとき、スティントを1周長くすれば抜ける場合はそういうマッピングをすることがある。パターンは数種類あって、すべてドライバーがコントロールできる。ラルフもヤルノもこれのマネージメントがとても優れていて、たとえば燃料をセーブするモードの時は特にそうだ。ある瞬間にどのくらいのパフォーマンスが必要なのかを彼ら以上に理解しているドライバーなんていないんじゃないかな?」 |