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2014年スーパーフォーミュラ新型エンジン
開発チーム インタビュー

レースを通じて、市販車の性能に直結する技術を開発する

第1回 環境性能とパワーを両立したエンジンへ(2/2)

レースの世界でもダウンサイジングに

 近年、欧州の量産車にはターボ過給エンジンが増えている。いわゆるダウンサイジングターボという考え方がひろがっているのだ。これはエンジン本体をコンパクト化して無駄なロスを廃し、不足したパワーを、ターボチャージャーにより過給で補おうという発想で作られた新時代のターボエンジンである。同じターボ過給をするにしても新しい素材や新しい制御技術を盛り込んで、かつてのターボエンジンがパワーを引き出すために無駄にしていた部分を改善し、効率化を重ねて全く違う「ターボ過給」に生まれ変わった。その結果、省燃費車としてターボチャージャーを搭載した市販車が増えてきたのである。
 ヨーロッパで始まったこの流れは今後、日本でもハイブリッドカーの普及と並んで、日本の自動車社会でも大きな流れになっていくだろう。

 今回、SF14のために開発されたエンジンの仕様を見てみよう。排気量2000cc直列4気筒。これにターボチャージャーで過給を行う。注目したいのはシリンダー内に直接燃料を噴射するいわゆる直噴式を採用している点だ。このエンジンは、設計時点の理論値では、550馬力以上を発生し、SF14を現行のSF13よりラップタイムにして1周3秒近く速く走らせると予想されている。このラップタイムは、F1グランプリカーにも匹敵する速さなのである。

 搭載された新型エンジンは、従来のレーシングエンジンのように、単にレースの順位を争うためだけにレースに突出した技術を詰め込んで開発されたものではない。あくまでも新しい技術の流れの中、市販車エンジンの未来の形を想定し、環境性能、燃費性能とパワーを両立させた、新世代ターボエンジンなのである。

 一方、新型エンジンは、パーツ数も少なく構造も単純化されているので、汎用エンジンとしての使用も考慮されていることにも注目が必要だ。現時点では2014年度のスーパーフォーミュラ及び2014年のSUPER GTのGT500クラスで用いられることになっているが、その後はスポーツカーレース、フォーミュラカーレースに広く流用できるように考えられて設計されている。
 現在のレース界は、カテゴリーに合わせたエンジンの入手が困難になっているが、この日本発の新エンジン登場によって、レース界の裾野が大きく広がっていく可能性についても期待は膨らむのである。

新時代のレーシングエンジン開発に挑む

2014 スーパーフォーミュラ新型エンジン開発チームの4人 左から宮川淳、宮島直希、田中淳哉、佐藤真之介
2014 スーパーフォーミュラ新型エンジン開発チームの4人
左から宮川淳、宮島直希、田中淳哉、佐藤真之介
 今回は、トヨタ自動車東富士研究所で新エンジン開発に携わったスタッフの中から4人の技術者に取材した。
 田中淳哉は、1998年にトヨタ自動車に入社後、CART、IRL、F1、F3とレーシングエンジン開発に携わり、一旦本社で量産エンジン開発を行った後、今回の新エンジン開発担当になった。吸気系の設計とエンジンの性能を予測するシミュレーションとあとはムービング系の挙動解析を担当したという。
 佐藤真之介は、TMGから2010年に帰ってきてからスーパーフォーミュラのトラックサポートとして現場のまとめ役を担当してきた。新エンジンについては実験と実走テストを担当する。
 宮川淳は、ベンチで最高性能と信頼性を確かめ評価するテストを担当する。
 宮島直希は、ピストン、コンロッドなどエンジン内部で動く部品の設計を担当する。

 レーシングエンジンのスペシャリストとも言えるこの4人が異口同音に語るのは、「F1では量産エンジンには必要ないと思われる2万回転回す技術を追求していた。それに対し、この新エンジンは、今後の市販車の性能に直結する技術をレースを通して開発できる。それはとてもやりがいがある」ということだ。

次回以降では、彼らが新エンジン開発に対してどんな思いを抱いているのか、どんな苦心を重ねているのかを、存分に語ってもらう。また、開発現場の雰囲気や新エンジンの進捗状況、来季スーパーフォーミュラに向けての展望など、興味深い発言も続出。新時代エンジン開発に挑むエンジニアたちの熱き想いに耳を傾けてほしい。(07.18掲載)