メニュー

2014年スーパーフォーミュラ新型エンジン
開発チーム インタビュー

新レギュレーションの1年目。それは技術者の力の差が1番出るタイミングです

第3回 そのエンジンは新しいレースの扉を開く(1/2)

2014年シーズンからスーパーフォーミュラとSUPER GTで使用される新エンジンは、環境性能を求め、同時に競技性も高めるという難しい課題を背負っている。開発現場ではどんなやりとりがなされ、エンジニアたちは来年に向けていかなる手応えを得ているのか? 新エンジン開発に携わる4人のエンジニアのインタビューも、いよいよ最終回。彼らからどんな言葉が飛び出すのだろうか?

対立ではなくデータと検証で決める

SF14のエンジンカウル この中に新世代ターボ過給エンジンが搭載されている
SF14のエンジンカウル
この中に新世代ターボ過給エンジンが搭載されている
 新たに開発された、燃費の良い新世代ターボ過給エンジンが戦う場となる、2014年からの全日本選手権スーパーフォーミュラとSUPER GTシリーズ。どちらのシリーズにしろ、あくまでも速さを競う競技であって、燃費そのものを競うわけではない。新開発エンジンを「燃費ターボエンジン」として競技の中で機能させるためには、使用する燃料の総量ではなく、レース中の瞬間燃料消費量を管理する必要がある。
 もしレース中の瞬間燃料消費量を管理しなければ、旧来のターボエンジンのように燃料をより多くシリンダーへ送り込むという安易な方法でパワーを引き出すことが可能になってしまうからだ。だが、ある瞬間にシリンダーの中へ送り込める燃料の量を一定量に規制すれば、ターボチャージャーを使って過給してもそれ以上シリンダーへ送り込めるのは空気のみとなる。この環境からいかにパワーを引き出すかによって、燃費ターボエンジンによる速さを競うレースが成立するのだ。

宮川淳と田中淳哉
宮川淳と田中淳哉
 しかしこれまでは、レースで用いる燃料の総量規制はあっても、レース中、瞬間的に燃料流量を管理する機構は存在しなかった。燃費ターボによる新世代のレースを実現しようとしたプロジェクトリーダー永井洋治は、瞬間燃料リストリクターという機構を考案した。だが、このコンセプトを聞いた流体の専門家でもある田中淳哉は、当初「危険なのではないか」と直感したという。
 エンジンのパワーを規制するために流入空気量を一定の径を持つフランジ(管に付けた板状の出っ張り)で絞り込んで規制する手法は一般的だが、液体の燃料を同様の形で絞り込んで流量を規制すると、ある領域で燃料は気化して流路を塞ぎ、燃料が途切れてしまう可能性がある。もしレース中にこうした状況に陥ればフルパワーからエンジンが失火してマシンは急減速、追突事故を招くことになる。
 上司でもある永井に田中は「このアイデアは(レースにおいて)危険ではないか」と指摘した。すると永井は反論や否定をするのではなく、「シミュレーションをして確かめてみよう」とその意見を受け入れた。
 そこで意見が対立することはなかった。技術者にとってはデータがすべて。より良いデータが正しいのだ。様々な意見があるのであれば、実際にモノを作って試し、何が優れているのかを確かめる。それがトヨタのレースエンジン開発部隊に根付いた空気であり手法である。そして瞬間燃料リストリクターのアイデアが成立することが確かめられた。

レースエンジン開発部門ならではの風土がある
レースエンジン開発部門ならではの風土がある
 宮川淳は、こうした雰囲気をこう表現する。
「所帯が小さくて席も近いので、個人レベルで情報をやりとりして共有し物事を決めて物事を進められるんです。量産の組織に比較したら、こういうスピードで物事を進める事はできないと思います。所帯が小さいのでスケジュールの調整も比較的楽で、後れが万が一生じてもそれに合わせて柔軟に対応ができます。永井は『何か困ったことがあったら、早めに表に出せ』と言います。ひとりではどうにもならないことがあるのは当然で、それを抱え込んでいてもしかたがないからです。(レースエンジン開発部門には)そういう風土がありますね」