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2014年スーパーフォーミュラ新型エンジン
開発チーム インタビュー

新レギュレーションの1年目。それは技術者の力の差が1番出るタイミングです

第3回 そのエンジンは新しいレースの扉を開く(2/2)

量産部門からレース技術へ、そして量産技術へ

 もちろん、だからといってレースエンジン開発部門がトヨタの中で孤立しているわけではない。特に今回の直噴燃費ターボエンジン開発に際しては、量産部門から関連情報を提供してもらうなど、いつにも増した交流がなされた。今後、完成して熟成が進み、サーキットでの戦いを通してさらに進化したレース用燃費ターボエンジンは、逆に量産部門へ先進技術を還流させることになるかもしれない。レース用燃費ターボエンジンを開発しつつあるスタッフの胸の中には、将来の自動車社会に貢献できる予感が膨らんでいる。

 この瞬間燃料リストリクターには、一定時間だけ流量規制を解除してシリンダーへ流入する燃料量を増やし、出力を約50馬力増大させる機能も組み込まれる予定だ。これは、レース中に前のクルマを追い抜くためのツールとして用意される「オーバーテイクシステム」で、観客席でレースを眺めるファンに向けてレースをショーアップする目的で考えられた。技術者の自己満足に終わらず、モータースポーツをより楽しいイベントになるよう、開発スタッフたちは願っている。モータースポーツの楽しさを通して、それを眺めるファンは改めて自動車を走らせる楽しさを確認するに違いないからだ。

TRDでSUPER GT用のエンジンを担当してきた宮島直希
TRDでSUPER GT用のエンジンを担当してきた宮島直希
 地味な存在ではあるが、新開発の瞬間燃料リストリクターは、様々な方向からモータースポーツの在り方を変えていく可能性を秘めている。宮島直希は言う。
「自分はこれまでTRD(※)でSUPER GTを担当してきました。どちらも同じエンジン(RV8K)ですが、GTは吸気制限を行う(エアリストリクター)ということで違った仕様で、TRDではGT向けの吸気リストリクタに合わせた吸気系やピストンを作っていたんです。でも今度は(スーパーフォーミュラと)まったく同じ仕様のエンジンになります。燃料リストリクターになって基本は全部同一になるので、開発やメンテナンスは楽になります。ただ、車両の重さも違うし流量制限の回転数も違うので、使われ方は違ってくるとは思います。それでも、当然コストも大幅に低下して、将来的には広く普及するようになると思います」
(※):TRD(トヨタ・レーシング・デベロップメント)は、トヨタ テクノクラフト株式会社にあるレース車両開発を行う部門。SUPER GTのSC430の開発・製造を担当。

来季は環境性能が高いメーカーが勝つ

来季はまったく新しいレースが始まると語る佐藤真之介
来季はまったく新しいレースが始まると語る佐藤真之介
 さる7月10日。新開発エンジンは富士スピードウェイでシェイクダウンテストを無事済ませた。今後国内サーキットで数回にわたって実走テストを繰り返しながら熟成を進め、来年ついに全日本選手権スーパーフォーミュラとSUPER GTシリーズで実戦デビューする。日本のレースの方向が変わる節目、それどころか日本発のレーシングテクノロジーが世界のレース界に影響を及ぼすきっかけになるかもしれないシーズンの開幕である。開発陣は、来季に向けてどんな展望を持っているのだろうか。

 佐藤真之介は「来季は僕らが圧倒的な優位で勝つ予定です(笑)。新たな時代の幕開けを見に来ていただきたいですね。まったく新しいレースが始まる。トヨタはハイブリッドもすごいけど、エンジンそのものもすごいんだなとファンの皆さんに感じていただけたら嬉しいです」と言う。
来季に向け技術競争のデッドヒートはすでに始まっている
来季に向け技術競争のデッドヒートはすでに始まっている
 宮島も自信満々だ。「GTもスーパーフォーミュラも、まず初戦は両方勝ちます。それで年間チャンピオンを獲ります」続いて、宮川は言う。「シャシーもエンジンも新開発のもので始まるシーズンです。これは技術者の力の差が一番出るタイミングなので、技術の違いに注目して、ファンの皆さんにはその方向からもレースを楽しんでいただきたいです。もちろん来年は、トヨタが全勝優勝する予定にはなっていますが(笑)」
 そして田中はこう結んだ。「自分は今度のレギュレーションでは『環境性能が高い技術を持ったメーカーが勝つ』という内容になっていると思っていますので、レースに勝ち続けてトヨタの環境技術が高いことをアピールできたらなと思います」

2013年シーズンは佳境に入ろうとしている。しかし来季に向け舞台裏では、すでに技術競争のデッドヒートが始まっているのだ。