2014年スーパーフォーミュラ新型エンジン
開発チーム インタビュー
第2回 ゼロからスタートした新エンジンの開発(2/2)
課題を見つけることから始まる
佐藤真之介
排気量は、スーパーフォーミュラとSUPER GTでの共用を考慮し、特にSUPER GTで車重が1t近くなる車体をそれなりのスピードで走らせることを考慮して決められたという。ではなぜ直列4気筒なのか。
佐藤は言う。「マルチシリンダーは高回転を回すための技術なんです。NA(自然吸気)エンジンは高回転にしないと出力は得られません。でもターボ過給するのであれば低回転からでもトルクが出せるので回転を上げないでもスピードは出せます。それならば、気筒数の少ない4気筒がいいと考えました」
開発に取りかかろうとした開発スタッフの前にまず立ちはだかった課題は、なんと「最初の課題がどこになるかわからない」という課題だった。ターボ過給エンジンとひと口で言っても、昔のようにパワーを出すため燃費を悪化させるわけにはいかない。逆に、燃費を良くするためのターボ過給エンジンを作ろうというプロジェクトなのだ。そのための技術は、スタッフの手の内には存在しなかった。
かつてのターボエンジンは、ターボチャージャーを使ってできるだけ多くの燃料をシリンダーの中に押し込み、燃焼させてパワーを引き出すというコンセプトで設計されていた。言い換えれば多くの燃料が燃焼したからこそパワーが出た。しかし新しいターボ過給エンジンは直噴と組み合わせて、燃料ではなく空気をより多くシリンダーの中に押し込んでパワーを引き出そうという考え方に基づいて開発される。
宮川淳
ガソリンエンジンは、ガソリンが燃焼する力だけで働いているわけではない。シリンダー内にある空気が、ガソリンが燃焼した際に発生する熱によって急激に膨張する力もパワーの源になる。直噴により燃焼さえ成立させれば、空気を押し込むことでパワーを増大させることができる。これが「燃費ターボ」の仕組みである。
「量産部門から直噴ターボについて情報は集めましたが、まずは作って見ないとわからない、ということになりました。そこで昨年、現行のV型エンジンの片バンクだけを使って実験用のエンジンを作って走らせてみました。その辺がモータースポーツの良いところで、少ない人数でとりあえず作って試してみようということができるんです。それがゆくゆくは人材育成にもつながっていくんだと思います」と宮川は言う。
V8エンジンを使ってのテストへ
開発陣は昨年後半、スーパーフォーミュラで用いられている排気量3400cc自然吸気V型8気筒RV8Kエンジンの片側バンクを利用して4気筒直噴ターボ過給の実験エンジンを製作し、サーキットを走らせてテストを行った。従来のポート噴射と異なり、直噴では燃焼の状況が大きく変わり、適切な設計が為されないと途端にうまく作動しなくなる。事実この実験エンジンは、当初思うように燃焼すらしなかったという。それほど開発スタッフたちは新しい世界へ踏み込もうとしていたのである。
開発スタッフが解決しなければならない課題は、直噴ターボ過給ばかりではなかった。この"燃費ターボ"をモータースポーツの中で成立させるためには、競技中の燃料消費量を管理する技術が不可欠だ。開発スタッフたちはそれを、瞬間燃料リストリクターという考え方で解決しようと考え開発にとりかかった。
次回は、7月10日のシェイクダウンテストに向けての開発チームの様子。技術的な意見のやりとり、来季スーパーフォーミュラへの決意など、新たなレーシングエンジンにエンジニアたちが注ぐ熱意を紹介したい。(07.25掲載)