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本格レース漫画「眠らぬ虎」の裏側に迫る 第3回
マンガ"眠らぬ虎"ができるまで

マンガ眠らぬ虎ができるまで

グランドジャンプPREMIUMで連載中の「眠らぬ虎」。トヨタ・レーシングのル・マン挑戦をライブで描くこのマンガは、そのリアルさでレース好きからもマンガ好きからも注目を浴びています。「眠らぬ虎」スペシャル最終回は、そのマンガを生み出す現場、作画担当の千葉きよかず先生のスタジオに訪問し、マンガの制作過程を見せていただきました。普通のマンガ以上に難しいと言われるモータースポーツマンガを描くテクニックが分かる秘蔵原稿の数々をご紹介します。

"眠らぬ虎"ができあがるまで

第3回の原作が届き、トビラページ(タイトルが入るページ)を描き始めた千葉きよかず先生 ちょうど原作者の村上もとか先生から連載第3回の原作が届き、トビラページ(タイトルが入るページ)を考えていたという千葉きよかず先生。すでに読み込んでいた原作を頭の中でイメージし、シャープペンで大まかな構図とタイトルが入る位置を決めます。

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『ネーム』と言われるラフ原稿 この時の紙は本番用のマンガ原稿用紙ではなく、普通のコピー紙を使っていました。今回は作例と言うことで、さくさくと進めていましたが、実際はもう少し描き込んで、台詞なども加えた『ネーム』と言われるラフ原稿にするそうです。これを編集者や原作の村上先生に見せて、アイディアや意見をもらって、本原稿に進むそうです。

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マンガ原稿にシャープペンで人物を描き始める千葉きよかず先生 この日は、同席していただいた編集者に確認をもらって、トビラページの本原稿に入りました。ネームを見ながらマンガ原稿にシャープペンで人物を描き始めます。マンガ家によっては位置決めの仮線などを入れる人もいますが、ベテランの千葉先生はシャープペン1本でスッスッとヘルメット姿の主人公を描き始めました。

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資料写真を見ながらレーシングスーツのロゴの内容や位置を確認して書き加える千葉きよかず先生 大まかなシルエットが描き込めたら、資料写真を見ながらレーシングスーツのロゴの内容や位置を確認して書き加えます。資料写真を見る前からヘルメットに装着されたHANS(ハンス。ヘルメット後方の黒い板状の安全装備)を描いていたのを見て、同行のモータースポーツライターも「さすが。分かってますね」と感心しきり。

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ヘルメット姿のドライバーの輪郭が見えてきた原稿 いくつも線を引いては消し、そして決めていきます。すると、ヘルメット姿のドライバーの輪郭がはっきりとしてきました。「ヘルメットやレーシングスーツ、グローブなど特殊な装備を付けるキャラクターは書き慣れていないと大変みたいです。非常に時間が掛かるマンガ家さんもいるんですよ」とはマンガ雑誌の編集者。千葉先生はここまで、わずか30分ほどだ。さすがレース漫画の巨匠・村上先生が認めるテクニックの持ち主です。

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1時間ほどでここまで原稿が出来上がった 1時間ほど作業して、ちょっと休憩が入りました。シャーペンで人物を描き終えたところです。ここまで取材陣数人が周りでバタバタするなか、一言も発せず凄い集中力で描いていました。

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シャープペンからインクペンに持ち替えて、最終的な線を書き込む千葉きよかず先生 シャープペンからインクペンに持ち替えて、最終的な線を書き込んでいきます。最後の仕上げの段階で消しゴムを掛けると下書きのシャーペンの線が消えて、きれいなインクの線が残るというわけです。それだけにここからさらに真剣度が増します。

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資料のTS040 HYBRIDのミニカーを見ながら背景を描き入れる千葉きよかず先生 ドライバーが書き込めたら、背景のTS040 HYBRIDを描き入れます。何度も資料のミニカーや写真を見ながら構図、見え方を確認して描いています。

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トビラページのメインになる人物と背景のTS040 HYBRID トビラページのメインになる人物と背景のTS040 HYBRIDにペンが入ったところで、ページの枠線にもペンを入れて、完成......。
では、ありません。この日は2時間ほどの取材だったため、途中ですが一端終了となりました。この後、さらにペン入れが進むはずです。そして、アシスタントさんのサポートを受けながら、下書きを消しゴムで消したり、墨ベタ(黒く塗りつぶす部分)を塗ったり、スクリーントーン(線や編み目の模様が付いた効果を出すシール)を貼ったり、ホワイト(白のインクで修正やベタやトーンの部分に効果を出す)を入れたりと、まだまだ作業が続きます。絵が完成すると、今度は編集者が台詞の文字を入れ、最後に間違いがないか、校正作業をして。ここまで掛かって、やっと完成原稿となります。インタビューでも村上先生や千葉先生が、マンガ制作をレースチームの分業に例えることがありましたが、本当に行程の多い作業なんですね。

秘蔵のネーム原稿と完成原稿を見比べる

第1回のネーム原稿を見比べる 千葉先生が引き出しの奥から出してきたのは、第1回のネーム原稿です。『ネーム』とはいわゆる下書きで、ざっくりと絵と台詞が描いてあるものです。これを基に原作の村上先生や編集者と再度打ち合わせをして、千葉先生が本番原稿に掛かります。そのため、完成原稿とは所々変わっていたりします。
右側のページは"中路選手"のドライビングシーン。「目を印象的に描きたかった」と千葉先生。この前に中路選手のオフの表情があり、"虎"となった中路選手を目の描写で描いています。千葉先生も力が入ったと言う1ページで、下書きとほとんど同じでした。その先となる左ページは、いくつか変更点がありました。上のコマではクルマの動き出したりと構図を工夫したり、下のページでは次のページとの流れを考え、クルマの位置を変えたりしているそうです。

見開きページを使ったTS040 HYBRIDの疾走シーン 見開きページを使ったTS040 HYBRIDの疾走シーン。写真やテレビではあり合えない、マンガならではの迫力満点な構図です。
原作者であり、千葉先生の師匠である村上先生は「原作者と言っても、僕が構図を指定することはありません。原作は文章だけで、あとは千葉先生が作っています。このTS040 HYBRIDがハイブリッドを効かせて1000馬力でバッと加速するシーンなんですが、普通は加速感を効果の線で表すことが多いんです。でも千葉先生はクルマを縦に延ばして描いたんですね。これ凄い、すごくいい。これは写真でできないマンガの技ですね」と絶賛。同行したレース取材歴30年以上のカメラマンも「クルマとレースが分かってないと描けない絵だよね」と感心しきりでした。

迫力満点の連載第2回の完成原稿

そして現在発売中のグランドジャンプPREMIUM4月号に掲載されている第2回から、完成原稿をちらりとお見せします。マンガ原稿は、実際の誌面(B5サイズ)より二回りくらい大きいサイズ(A4サイズ)で描かれています。なので、実際の原稿は一層迫力があるんですよ。なお、台詞は印刷の過程で加えられますので、ここでは空いたままなんです。

第2回の山場シーンの完成原稿 ここは第2回の山場シーンだけに迫力ありますが、それだけにまた悔しさも甦ってきます。もの言わぬTS040 HYBRIDの感情が伝わってくるような......。
千葉先生は言います。
「多くの人が関わって、走るべくして、勝つべくして生まれたクルマには、人間ドラマが詰まってます。そういうクルマは描き応えがあります。時にどう猛にも見えるし、時にクールにも、悲しげにも見えたり。そんなクルマの表情を、この作品で描きたいんです」

この2014年ル・マンの悔しさを糧にトヨタ・レーシングの挑戦も「眠らぬ虎」の展開も、2015年でのリベンジに向け進行していきます。そのワクワクドキドキの展開に皆さんも、ぜひご期待ください!

3回に渡ってお届けした「眠らぬ虎」スペシャル。モータースポーツ漫画の巨匠、村上もとか先生の取材によって深く練られた原作を基に、クルマやメカを描かせたらトップクラスの千葉きよかず先生の作画力で、この作品が作られているのがおわかりかと思います。そして、トヨタ・レーシングのル・マン挑戦をリアルタイムで追いかけるという新たなマンガ手法とも言えるライブ感。村上先生、千葉先生の「眠らぬ虎」を今後もご愛読ください。
そして、両先生へのメッセージ、「眠らぬ虎」へのご感想やご意見がありましたら、グランドジャンプPREMIUMの巻末にあるアンケートハガキで編集部までお送りください。


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目次ページ

  1. 第1回:中嶋一貴選手を見て、この人なら主人公に描けると感じました(2015年3月12日公開)
    1. 1. ル・マンはメーカーごとに空気感が違う
    2. 2. 中嶋選手に"ギャップ萌え"を感じました(笑)

  2. 第2回:"眠らぬ虎"は描いている僕らもおもしろい(2015年3月19日公開)
    1. 3. 僕の作風はモータースポーツマンガで作られたんです
    2. 4. 村上先生とマンガが描きたくて、ありったけの絵を送りました

  3. 第3回:マンガ"眠らぬ虎"ができるまで(2015年3月26日公開)
    1. 5. 人間ドラマが詰まっているクルマは描き応えがあります