大切なのは精神的な財産
● 当時トヨタのエースドライバーだった北原さんの目からご覧になって、その後、現在のF1に至るまでのトヨタのモータースポーツ活動についてどういった印象をお持ちでしょうか。
「60~70年代の日本の自動車メーカーというのは、世界の中では隔離されたような状態でした。つまり高い関税をかけて安いものが入ってこないようにしていた時代でしたから。ですから、外国がどうこうというのはあまり気にしないで、国内のライバル同士がしのぎを削っていましたね。それよりも乗用車が売れるのか売れないのかといったそんな時代でしたからね。レースはそのためのPR活動の部分もあったようです。若い人たちにアピールするためにね。最初にレースに誘われたときには、私としても“まずはどういうものなのか、様子を見させてほしい”という気持ちでした。だから第1回のレースは見学でしたね(笑)。当時のメーカーは本当に命運をかけていましたね。」
● つまりレースに出ることの意味合いも今とは全然違ったわけですね。
「そうなんです。スポーツがどうのこうのではなかったです。最初はやはり販売促進のための活動でした。その後、スポーツの部分がついてくるわけです。当時はレースを統括する団体もありませんでしたし。JAFができたのものそれからなんです」
● 40年の時を経て、イギリスのこうしたフェスティバルに参加されて、そして身体の方から自然に反応してくれるというのは、とても感動的な体験なのではないかなと思います。
「確かにね、お金という意味での財産は失ったりもしましたけど、そういった自分の精神的な財産というのはね、消えずに残っていますし、身体も動きますからね。だからまだまだそういった分野で役に立てることがあれば、手を貸していきたい、という思いはありますよ」
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真横から見ると、車体のコンパクトさがよくわかる。 |
● ドライバーの皆さんはお年を召されてからも闊達な方が多いような気がします。
「そうかもしれませんね。ある程度のレベルを極めてきたドライバーは、肉体の面でも精神の面でもやはり強いものを持っていると思います。そうじゃなかったらここまで来ませんからね。勝負の世界は勝つことばかりではなく負けることもあるわけで、それが日常ですからね。そうすると強くなっていくわけです。つまりは、それが好き、勝負が好き、レースが好きなんですよ。自分の手でなんとかできる、何とかしよう、という世界だからいいんですよ。自分の手で自分をトップへ持っていこう、というね。それができるからこそ意義があるんです。それに尽きますね」
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