5年前に偶然ピットをシェアしたふたつのチームの交流は年を追う毎に加速し、堅い絆と友情が育まれて行った。レースを通じた“クルマの味づくり”という共通のテーマを持ってニュルブルクリンクへ挑むGAZOO Racingとアストンマーチン、夢のコラボレーションに密着した。
互いの“味づくり”をレースで感じる
GAZOO Racingとアストンマーチンのドライバーが、同じレースの中で互いのマシンをドライブしながら互いのクルマづくりの“味付け”を体感する。レース直前に大会公式サイトへアップされたエントリーリストを見た自動車関連メディアは、驚きと共にその第一報をトップニュースとして報じた。今年6月の「ニュルブルクリンク24時間レース」では同じクラスのライバルとして戦ったGAZOO RacingのLEXUS LFA、アストンマーチンV12ザガートのドライバーは、アストンマーチンからはCEOのウルリッヒ・ベッツ選手、車両開発エンジニアでテストドライバーも務めるクリス・ポリット選手、GAZOO Racingからは“味づくりの旅”を率いるモリゾウ選手、2008年から“味づくり”へ参加している飯田章選手の4名。ニュルと互いをよく知る者同士ではあるが、初めて双方のマシンをドライブするレース前日の練習走行にはこれまでとは違った緊張感を漂わせながらマシンが並ぶピットへ現れた。しかし、走行を終えた4人のドライバーは満面の笑顔。そして「素晴らしいクルマ。何よりこの貴重な機会に感謝したい」と口をそろえた。
レースシーンでは例を見ない画期的な試みのきっかけは、GAZOO Racingが2007年に「ニュル24時間レース」へ初挑戦した際、偶然、アストンマーチンとピットを共有し交流が始まったことにさかのぼる。以来、5年間に渡って同じピットで共に戦う中で友情が育まれ、また、レース参戦を通して“クルマの味づくり”を行うという目的も同様であることから今回のコラボレーションが実現した。ところで、6月の「24時間レース」の際、アストンマーチンのベッツCEOは「5年間ピットをシェアしたことによる最も重要な成果は友情を構築できたこと」と語っている。昨年にはトヨタとアストンマーチンの初のコラボレーションである「iQ シグネット」が発表されたが、これも友情から生み出されたものであった。
予選~凍った路面を情熱で融かす~
舞台となった「VLN(ニュル耐久選手権)」第9戦」には、ポルシェ、アウディ、メルセデスなど総合優勝を狙うメーカー系チームからルノー、オペル、ミニといったコンパクトカーを駆り友人同士やファミリーで参加するチームに至るまで190台がエントリー。5キロのグランプリコースとパドック以外、20キロに及ぶ森の中の北コースの観戦エリアは無料で開放され熱心なファンで駐車場が埋め尽くされた。レース文化の深さを感じるこの光景はいつ見ても羨ましい。
10月15日(土)午前8時30分からの予選は、晴天ながらも気温1℃・路面温度1.5℃の寒さの中で始まった。メカニックの吐息は白く、路面はまるで氷のようだった。タイヤがなかなか温まらずにコースオフするマシンが続出する中、LFAとV12ザガートは4名のドライバーがそれぞれのステアリングを握り順調に走行、LFAが総合27位/クラス2位、V12ザガートが総合28位/クラス3位と仲良く並ぶスターティンググリッドを得た。顔を上気させながらLFAから降りてきたベッツ選手は「LFAのエンジンはファンタスティック。2台の性格には大きな違いがあってドライビングのスタイルも異なります。今回のコラボレーションは未来へ繋がる実感があります」と興奮気味に語り、「一番の目標は2台がそろってチェッカーフラッグを受けること」と付け加えた。そのことをV12ザガートから降り立ったモリゾウ選手へ伝えると「全く同感です。気持ちはひとつですね」と微笑んだ。
決勝~未来への確かな可能性~
レース前のフォーメーションラップ中にスリップしてコースオフするマシンが中継モニターに映し出され路面温度の低さ、ドライビングの難しさを表している。LFAは飯田選手、V12ザガートはポリット選手がステアリングを握って12時にレースがスタート。序盤、2台は快調に上位を走行していたが、約1時間が経過したところで多重クラッシュが発生しレースが中断。その中に、後続車両に追突されてコースオフしガードレールに接触して走行不能となったV12ザガートの姿もあった。トラックに載せられパドックへ戻ってきたV12ザガートはフロント部分の損傷が大きく、誰の目にもレース時間内での復帰は困難かと思われたが「1ラップだけでもモリゾウにドライブさせたい」とチーフメカニックが修復を決断。ピット内は狭く大掛かりな作業が出来ないためGAZOO Racingがパドック内に張っていたテント内へ移動、「もし手伝えることがあれば何でも言って欲しい」とGAZOO Racingメカニックの声が優しく響いた。一方、予期せぬアクシデントにショックを隠せないピットの雰囲気を見て、ベッツ選手が「絶対に直すから、一緒にチェッカーを受けよう」と発破をかけるようにムードメイキング。その声に後押しされながらLFAは順調に走行。幸いにも怪我が無かったクリス選手もLFAを味わいながらスムーズなドライビングで周回を重ねた。
レース終了10分前、V12ザガートがアストンマーチンとGAZOO Racingのメカニックに押されてピットへ戻ってきた。傷痕は痛々しいがエンジンはひときわ甲高い咆哮を上げ、モリゾウ選手が乗り込む。ヘルメットのバイザー越しに見える細めた目から友情への感謝の気持ちが伝わってくる。一方、懸命の作業を終えたメカニックを労いながら安堵の表情を浮かべるベッツ選手がポリット選手からLFAのステアリングを受け継ぎ2台が一緒にコースイン。周囲のチームや取材陣からも大きな拍手が沸き起こった。総合トップのポルシェがアクセル全開でチェッカーフラッグをくぐった後、LFAがV12ザガートをいたわるかのように併走しながらゆっくりとゴール。見届けたGAZOO Racingとアストンマーチンのメカニックが、ガッツポーツのこぶしを開いて握手をかわした。そこに言葉はなかったが気持ちはひとつだった。
抱き合って喜びを分かち合った2人のドライバーにマイクを向けるとせきを切ったように言葉があふれだした。ベッツ選手は「アクシデントを乗り越えて一緒にチェッカーを受けることが出来た、これは偉大なる物語です。新たなコラボレーションの可能性を感じています」。モリゾウ選手は「私を乗せようと頑張ってくれたメカニックに感謝しています。ふたつのチームの心がひとつになり、そのワンチームの中にいられて光栄です。この気持ちを胸にもっといいクルマを作っていきます」。蒔かれた新しい種はこれから生み出されるクルマたちを通じて花開いていくに違いない。
車両開発~ニュルで鍛える~
ところで、GAZOO Racingからは、世界中の特にスポーツドライビングが好きなクルマファンが発売を心待ちにしている話題のFT86がレースデビューを果たした。開発車両のスクープ写真などでお馴染みの渦巻き模様のカモフラージュカラーをまとったFT86はノーマルに近いスペックで参戦、影山正彦選手、高木実選手、勝又義信選手のドライブで走行性能のチェックなどを行いながらトラブルなく完走。ピットインの度に多くのカメラマンに囲まれる姿は、2008年に開発車両で初参戦したLF-Aを彷彿とさせた。過酷なサーキットでのレースを通じた走行性能の“味付け”の成果を待ち望む声が多かったのは言うまでもない。
また、こちらも開発中であるLEXUS IS FのサーキットバージョンCCS-R(サーキットクラブスポーツレーサー)の開発車両も木下隆之選手、高木実選手、佐藤久実選手の手によって開発プログラムを実施しながら完走した。木下選手は「サーキットを楽しく走ろうよ!というコンセプトに忠実に開発が進んでいると感じました。もっともっと気持ちよく走ることが出来るように今後もニュルで熟成して欲しいですね」。車内に張りめぐらされたロールケージ、GTカーのようなリヤウィング、ワイドに張り出したフェンダー、そして青く光るチタニウム製のマフラーなどは目の肥えたニュルのクルマファンの注目を集めた。FT86とIS F CCS-Rがここニュルブルクリンクのピットに大挙して収められ、レースで活躍する日が来るのが待ち遠しい。
総合順位
1位 | No.11 | Manthey Racing Porsche 911 GT3 R (SP9クラス) |
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2位 | No.7 | MAMEROW / ROWE Racing Mercedes-Benz SLS AMG GT3 (SP9クラス) |
3位 | No.30 | MSC Adenau e.V. im ADAC Porsche 911 GT3 R (SP9クラス) |
4位 | No.28 | PHOENIX RACING Audi R8 LMS (SP9クラス) |
5位 | No.33 | Dorr Motorsport GmbH BMW Alpina B6 GT3 (SP9クラス) |
6位 | No.2 | BLACK FALCON Mercedes-Benz SLS AMG GT3 (SP9クラス) |
7位 | No.34 | Falken Motorsports Porsche 911 GT3 R 997 (SP9クラス) |
8位 | No.3 | BLACK FALCON Mercedes-Benz SLS AMG GT3 (SP9クラス) |
9位 | No.48 | Wochenspiegel Team Manthey Porsche 911 GT3 MR (SP7クラス) |
10位 | No.80 | Manthey Racing Porsche 911 GT3 Cup 997 (CUP2クラス) |
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83位 | No.111 | GAZOO Racing Lexus LFA (SP8クラス) |
120位 | No.120 | GAZOO Racing Toyota FT86 (SP3クラス) |
128位 | No.112 | GAZOO Racing LEXUS IS F (SP8クラス) | -位 | No.114 | Aston Martin V12 Zagato(SP8クラス) |
決勝出走:177台/完走:135台
SP8クラス(自然吸気エンジン:4000cc~6250cc)順位
1位 | DP Test Training&Event GmbH Ferrari F458 |
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2位 | GM Corvette C6R |
3位 | Aston Martin Test Centre Aston Martin V8 Vantage |
4位 | Bratke Motorsport-Team Aston Martin Vantage N24 |
5位 | Ferrari F430 |
6位 | Aston Martin Test Centre Aston Martin V12 Vantage |
7位 | GAZOO Racing LEXUS LFA |
8位 | GAZOO Racing LEXUS IS F |
-位 | Aston Martin V12 Zagato |
-位 | Chevrolet Corvette |
SP8クラス出走:10台
SP3クラス(自然吸気エンジン:1750cc~2000cc)順位
1位 | Honda Civic Type R |
---|---|
2位 | Team Mathol Racing Honda S2000 |
3位 | GAZOO Racing Toyota FT86 |
4位 | Opel Astra OPC |
-位 | Rikli Motorsport Honda Civic |
SP3クラス出走:5台