世界で最も過酷、誰もがそう認めるサーキットを舞台にした「第39回ニュルブルクリンク24時間レース」。史上最も速い大会となった一方で、出走202台のうち67台もが完走を果たせずに涙を飲んだ。GAZOO Racingの2台のLFAは試練に遭遇しながらも総合41位/クラス3位、総合134位/クラス8位でチェッカーをくぐった。完走の達成感と悔しさが交錯する今年の戦いに密着した。
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史上最も速く、タフな戦いへ
全長25キロに渡るロングコースの中に170を超えるコーナー、峠道のようなアップダウン、無数の凹凸を有するニュルブルクリンクは他に類を見ることができない特殊なサーキットで、それ故に、世界中の自動車メーカー、レーシングチーム、そしてレーシングドライバーが速さと力を証明するために24時間レースへ挑戦する。昨年、悲願のクラス優勝を果たしたGAZOO Racingは、5年目の今年もレースを通じた“クルマの味づくり”をテーマに2台のLFAでニュル24時間へ挑んだ。
39回目を迎えた「ニュル24時間」は、総合優勝やクラス優勝を狙う自動車メーカー系チームや有力チームとマシンが昨年以上に増加。2連覇を狙うBMW M3、王座奪還を目論むマンタイレーシングをはじめとするポルシェ勢、同じく大挙エントリーのアウディR8、デビューウィンを目論むメルセデスSLS、そしてLFAと同じクラスに初参戦のフェラーリ458などが、前哨戦である「VLNシリーズ(ニュル耐久選手権)」から熾烈なつばぜりあいを展開してきた。その結果、平均ラップタイムが格段にアップ、ピット作業時には時に殺気ともとれるような気迫を放つチームも増えた。予選前のフリー走行が終わる頃には、史上最も速くてタフな24時間になることが容易に想像できた。
~予選~ ブルーフラッシュの喜び、ライバルの脅威
木曜日の19時30分から行われた予選1回目、LFA#87は自身20回目の出場となった木下隆之選手、2週間前に「ル・マン24時間」を制したアンドレ・ロッテラー選手、2年目の脇阪寿一選手の順で走行し、総合27位/クラス2位。LFA#88は監督を兼任する飯田章選手、初挑戦の石浦宏明選手、2年目の大嶋和也選手がステアリングを引き継ぎ、総合29位/クラス3位のタイムを記録。金曜日17時から行われたスタート位置を決定する予選2回目では、曇りから雨へと変わる難しいコンディションの中、LFA#87は脇阪選手が1周目に刻んだ8分38秒463で総合26位/クラス3位、LFA#88は飯田選手の2周目のタイム8分36秒808で総合23位/クラス2位のグリッドを得た。上位36台のフロントウィンドウに装着される、ペースの遅いクルマに道を譲ることを合図する「ブルーフラッシュ(高輝度LEDライト)」を初めて手にすることが出来たが、「VLNシリーズ」からのライバル、フェラーリ458が8分23秒764でクラストップばかりか総合のポールポジションまでをも獲得。「VLN」の予選では飯田選手のドライブで8分25秒640を記録しているだけに不完全燃焼のアタックとなった。「まだまだ、こんなもんじゃない」、予選後のピットにメカニックのつぶやきが低く響いた。
念願のブルーフラッシュを初めて装着
監督を兼任する飯田章選手
自身20回目の出場となった木下隆之選手
2年目の脇阪寿一選手
「ル・マン24時間」を制したアンドレ・ロッテラー選手
初挑戦の石浦宏明選手
2年目の大嶋和也選手
~決勝~ 襲いかかる不運と諦めない心
土曜日16時、12℃と肌寒い雨上がりの空の下、レースがスタート。25万人を超える大観衆が見つめる中、序盤はLFA#87が脇阪選手、LFA#88は飯田選手のドライブで総合30位以内/クラス2位、3位で順調にラップを重ねる。しかし、LFA#87はロッテラー選手へ交代した約20分後にエンジントラブルが発生、エンジン交換を行うこととなった。一方のLFA#88は石浦選手、大嶋選手とステアリングを引き継ぎながら総合18位/クラス2位までポジションをアップ。ところが、23時半過ぎ、イエローフラッグが掲示された区間で減速したところへ後続のマシンが追突しマシン後部を破損。残り16時間を万全な状態で戦うためにメカニックが修復作業に入った。一時は2台のLFAともコース上にいない状況となったが、午前2時40分、約3時間の作業を経て飯田選手がLFA#88のエンジンをスタート、総合139位/クラス7位からの追い上げを期して真っ暗なコースへとホイールスピンをさせながら飛び出した。クラストップを独走するフェラーリ458に迫るハイペースで周回毎に順位を戻して行く。
朝5時20分、約10時間半もの懸命な作業でエンジン交換を終えたLFA#87が白やんできたコースへと復帰。総合190位/クラス最下位からの挽回へ向け1周目から素晴らしいタイムを刻むロッテラー選手から「長時間の作業を本当にありがとう。メカニックの皆さんを誇りに思います」と無線が入る。夜を徹しての修復作業で疲れているはずのメカニックに笑顔が広がった。2台のLFAは共に、安定した速いペースで前を行くマシンを次々とオーバーテイクしながらゴールを目指して突き進んでいく。他の上位チームがプロのレースメカニックを起用する中、レースを通じて“人を鍛え、クルマを鍛える”をテーマに掲げるGAZOO Racingは初年度からトヨタ自動車の社員をメカニックに起用している。これまではルーティーンのピット作業でタイムロスを喫することも多かったが、予定の給油作業時間内にタイヤ交換、ブレーキローター、パッドの交換を悠々と終える後ろ姿には大きな成長が感じられた。昨年からピットが隣合わせのプロのレース集団、BMWチームのメカニックが初めて「グッドジョブ」と親指を立てて称賛する嬉しいシーンもあった。
~ゴール~ 交錯するふたつの思いを未来へ
16時、初夏の日差しの下、ドライバー、メカニック、スタッフ、そして昨年までチームを率いた故成瀬弘監督の遺影が見守る中、2台のLFAが揃って24時間のチェッカーフラッグをくぐった。結果はLFA#88が総合41位/クラス3位、LFA#87は総合134位/クラス8位。昨年の成績を上回ることは叶わなかったが、全てのチームメンバーの腕に巻かれたリストバンドにあるメッセージの通り、「心ひとつ」に意義深い戦いを終えた。
LFA#87担当平田泰男チーフメカニックは「結果はともかくメカニックは良く頑張ってくれた。でも、もっともっと上を目指して鍛えていかなければこの先は見えてこない」。飯田監督は「我々は確実に進歩していますが、周りもどんどん進化していることを痛感しました。ステップアップへ向けて頑張ります」。木下選手は「クルマもスタッフも成長していることが分かっただけに悔しさでいっぱいです。しかし、全く歯が立たなかったわけではない・・・来年は必ず」と言葉を噛みしめた。苦難を乗り越えた達成感と交錯する悔しさを胸に、ゴールの瞬間からもうすでに新しい挑戦が始まっている。
ニュルに認められた意義
ところで、レース後に行われた盛大な表彰式の冒頭、トヨタ自動車の豊田章男社長とアストンマーチンのウルリッヒ・ベッツCEOが突然、壇上に呼び込まれ、大会主催者であるADACから「モータースポーツ功労賞」特別表彰の盾が授与された。盾には「モータースポーツの発展に貢献された方へ」のメッセージ。アストンマーチンとは5年前にGAZOO Racingがアルテッツァで「ニュル24時間」に初挑戦した際にピットが同じだったことをきっかけに親交が始まり、LFAで参戦を開始した翌年からは同じクラスのライバルとして尊敬し励まし合い、昨年は初のコラボレーションによる「iQシグネット」を世に送り出した。表現は違っても、レースを通じて“クルマと人を鍛える”ことを目指すふたつのクルマづくりの会社の活動が伝統ある「ニュル24時間」に認められた瞬間、満場の拍手が沸き起こった。
挑戦の意義が称えられた瞬間、盛大な拍手が沸き起こった
エントリー:出走台数:202台
総合順位
1位 | No.18 | Manthey Racing / Porsche 911 GT3 RSR (SP7クラス) |
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2位 | No.1 | BMW Motorsport / BMW M3 GT (E1-XP2クラス) |
3位 | No.14 | Audi Sport Team Phoenix / Audi R8 LMS (SP9 GT3クラス) |
4位 | No.15 | Audi Sport Team Phoenix / Audi R8 LMS (SP9 GT3クラス) |
5位 | No.16 | Audi Sport Team Abt Sportsline / Audi R8 LMS (SP9 GT3クラス) |
6位 | No.22 | BLACK FALCON / Mercedes-Benz SLS AMG GT3 (SP9 GT3クラス) |
7位 | No.32 | Heico Motorsport / Mercedes-Benz SLS AMG GT3 (SP9 GT3クラス) |
8位 | No.2 | Hankook Team Farnbacher / Ferrari F458 Italia GT (SP8クラス) |
9位 | No.26 | S:MSC Adenau e.V / Porshe 997 GT3 R (SP9 GT3クラス) |
10位 | No.12 | Wochenspiegel Team Manthey / Porsche 911 GT3 MR (SP7クラス) |
41位 | No.88 | GAZOO Racing / Lexus LFA (SP8クラス) |
SP8クラス順位
1位 | Hankook Team Farnbacher / Ferrari F458 Italia GT |
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2位 | Guttroff, Tobias / Chevrolet Corvette C6 GT |
3位 | GAZOO Racing / Lexus LFA |