メニュー

トヨタ・レーシング インサイドストーリー〜2012年WEC富士の激闘を振り返る〜

第1回 「母国レースで感じた喜びとプレッシャー」

チェッカーの瞬間、自分の感情が爆発した


2012年 WEC 富士6時間レースのゴールシーン
 2012年10月14日(日)決勝、スタートから6時間、233周を走破したトヨタ・レーシングのTS030 HYBRIDがトップで、WEC富士6時間レースのチェッカード・フラッグを受けた。7号車のフロントウィンドウ越しに、そのはためきを見た中嶋一貴は、ゴールシーンを思い出し噛みしめる様に言った。

「その瞬間、何かぎゃーぎゃー叫んでいたことだけは覚えています。何を言ってたかは覚えてないけれど(苦笑)」。
 7回目となる最後のピットインは、必要最低限の燃料補給のみを行い、迫り来るライバルのアウディ1号車の前でコースに復帰した。その差わずか5秒あまり。一方、迫るアウディ1号車はタイヤ無交換を選択し、逆転に賭けていた。勝たなきゃいけない...。中嶋はその思いだけでステアリングを握り、周回を重ねた。だからこそ、ゴールした瞬間、中嶋の心の中で何かが弾けた。

 2012年6月。TS030 HYBRIDは、伝統の一戦であるル・マン24時間レースでデビューを飾った。スピードを武器にライバルであるアウディとトップ争いを繰り広げ、観客にインパクトを与えるパフォーマンスを披露。だが、結果は惜しくも24時間先のゴールを迎えることは叶わずリタイアとなった。

 それからおよそ4ヶ月後。富士スピードウェイを舞台として行われたWEC第7戦では、予選で中嶋一貴がポールポジションを獲得。そしてライバルとの緊迫した6時間の戦いの末、母国レースで勝利の女神を味方につけて、表彰台の真ん中へと上がった。


2012年 WEC 富士6時間レース 優勝記念撮影
「今までのレースの中でも多分一番と言っていいくらい、自分の中で感情が爆発した瞬間だったかなと思います。後半、エンジニアからは『プッシュしろ、プッシュしろ...』と耳にタコができるくらい言われ続けてましたから。外からぎゅーっと押し付けられていたものが、勝つことで全部いい方向に発散できたような感じでしたね」
 富士戦はチームにとって何よりも大事なレースだということは当然のことながらよく理解していたし、絶対に勝つという強い気持ちもあった。だが、どのくらい大事な一戦だったのかは、レース後に改めて感じ取ったともいう。「レース後、チームクルーをはじめレースに関わる人たちのみんなのリアクションを見て、より「富士で優勝すること」の重要さが伝わりました」。

 一方、勝利の瞬間をピットで見守っていた村田久武ハイブリッドプロジェクトリーダーも、歓喜する関係者の様子をしっかりと目に焼き付けていた。

「(中嶋)一貴がゴールした瞬間のチームの喜びようったら半端じゃなかったですよ。(プロジェクト開始から)7年間の苦労が爆発したような感じでした。とにかくレースの後、ピットへ来た人みんながすごくいい笑顔でした」。


前のページへ

目次ページ

  1. 第1回:母国レースで感じた喜びとプレッシャー(2013年9月11日公開)
    1. 1. チェッカーの瞬間、自分の感情が爆発した
    2. 2. ギリギリの戦いの末に手にした最高の結果
  2. 第2回:ライバルと繰り広げた熾烈な駆け引き(2013年9月18日公開)
    1. 3. ドライバー同士の密な連携
    2. 4. 中嶋に託されたポールポジション
  3. 第3回:劇的な勝利。そして2013年の富士へ(2013年9月25日公開)
    1. 5. 予定外のカードを切ったライバル
    2. 6. ライバルにとっても特別な富士