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トヨタ・レーシング インサイドストーリー〜2012年WEC富士の激闘を振り返る〜

第2回 「ライバルと繰り広げた熾烈な駆け引き」

昨年のWEC富士戦で、優勝を果たしたレーシングハイブリッド"TS030 HYBRID"。その裏側を3回に渡り、ドライバー中嶋一貴と村田久武プロジェクトリーダーが語る。第2回は、母国レースに挑むチーム内の状況、レースで繰り広げられていたライバルとの熾烈な駆け引きなどを明かす。

ドライバー同士の密な連携


7号車の中嶋一貴、アレックス・ブルツ、ニコラス・ラピエール
 ル・マンではルーキーだった中嶋一貴。だが、富士スピードウェイにおいては、チームメイトであるアレックス・ブルツとニコラス・ラピエールよりも経験がある。

 中嶋にとって富士はシルバーストーン以来となるWEC戦だったが、レギュラードライバーとしてWECをシリーズ参戦するブルツとラピエールの2人と積極的にコミュニケーションを取ることを心がけ、また彼ら2人もチームのホームコースでの戦いに尽力することを惜しまなかった。

 WECでは、1台のクルマを3人のドライバーでシェアして戦う。ドライバー1人がズバ抜けて速くても勝てないのが常であり、いわゆる"チームが一丸となって"戦わなければ、勝利の美酒に酔うことは難しい。

「僕らは誰かが困っていれば相談をして底上げをしていく。1人が飛び抜けて良いより、苦手な部分をみんなで消していくというようなやり方です」と中嶋が明かすように、誰かが足を引っ張ることがないよう、アベレージのレベルアップを目指してアプローチする。当然、ドライバーたちが持ち得る情報は基本的にすべてオープンにしているという。


中嶋一貴曰く、2人は「最高のチームメイト」
 耐久レースでのキャリアが少なかった中嶋は、抱負な経験を持つ2人になんら遠慮することなく、いろいろとたずねることにした。「なんでも教えてくれました。というか、聞かなくてもアドバイスしてくれることもあって、ありがたかった。自分では気がついていないことも、相手が教えてくれる。それが結構大事なポイントだったりして、すごく助かりました」。

 逆に富士をよく知る中嶋からは、走行ラインの取り方が伝授された。周回遅れの車両を処理する際、どの場所が最適なのかを見極めるなど、細かくて地味ではあるが、富士戦での優勝には欠かせないポイントだ。

しかしながら、中嶋でも富士で未経験のことがあった。「TS030 HYBRIDには「ハイブリッドの特性を引き出す走り方」があるんです。だから、他のカテゴリーとは異なる「ハイブリッドならではの富士の走り方」というのがあって、そこはシリーズ参戦する2人の方が経験があるし、勉強になりました」。

 中嶋一貴曰く、2人は「最高のチームメイト」だそうだが、彼らの様子を見ていた村田はいささか驚きを感じていたようだ。
「僕のレーシングドライバーのイメージって、人を出し抜くとか、人を押さえ込んで前にいくみたいな雰囲気がすごくあるんですが、すごくみんな仲がいい。やはり耐久レースをしているので、彼らは次のドライバーにたすきを渡していくことをよく理解しているんです。だから、『このシステムはこう使えばいい、タイヤはこうやって使うといい』なんて言いながら、仲良く話し合ってましたね」


目次ページ

  1. 第1回:母国レースで感じた喜びとプレッシャー(2013年9月11日公開)
    1. 1. チェッカーの瞬間、自分の感情が爆発した
    2. 2. ギリギリの戦いの末に手にした最高の結果
  2. 第2回:ライバルと繰り広げた熾烈な駆け引き(2013年9月18日公開)
    1. 3. ドライバー同士の密な連携
    2. 4. 中嶋に託されたポールポジション
  3. 第3回:劇的な勝利。そして2013年の富士へ(2013年9月25日公開)
    1. 5. 予定外のカードを切ったライバル
    2. 6. ライバルにとっても特別な富士