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トヨタ・レーシング インサイドストーリー〜2012年WEC富士の激闘を振り返る〜

第1回 「母国レースで感じた喜びとプレッシャー」

ギリギリの戦いの末に手にした最高の結果


「レース前は楽観的に考えていた」と語った中嶋一貴
 富士での戦いに向け、中嶋はなぜか「何となく今回は勝てるんじゃないかと、わりと楽観的に考えていた」と言う。富士に先立つサンパウロ(ブラジル)戦で初優勝を果たしたチームの活躍を踏まえ(中嶋は参戦せず)、富士のコース特性を考慮しても勝つチャンスはある、と心強く感じるものがあったのだろう。そのせいか、比較的リラックスして自身初となるホームコースでのWEC戦を迎えることができたという。
「余計なプレッシャーを自分にかけることがなくて良かったんですが、その思いに反するようにレースは展開が結構厳しいものになりました(苦笑)。最後はかなりドキドキしましたよ。最終的になんとかギリギリのところでうまくアウディの前に出ることができて、勝てたという状況でしたからね」


ピットウォーク中のサイン会に並ぶファン
 自然体でレースウィークを迎えた中嶋に対し、村田は日本にある会社が日本でレースをすることへの喜びを感じつつ、富士戦ならではの独特の雰囲気を味わうことになった。
「富士には車両のプロジェクトにかかわってきた人をはじめ、自分たちがお世話になっている人たちもたくさん応援に来てくれました。もちろん、トヨタのファンの方も多かった。でも、その中で彼らが発するオーラは、想像を絶するものがありました」といささか戸惑いもあったようだ。
「ものすごくありがたかったのですが、その反面、いっぱい肩にはオモリがのっていました。『ホームゲームだから、勇気をもらえるでしょう?』とも言われましたが、一緒におもりも乗るんだということを生まれて初めて経験しましたね(笑)」。

戦いを重ね、いっそう強くなった勝利への思い

 速さを証明したデビュー戦のル・マンでは、24時間という長い戦いへのアプローチという面でライバルにかなわず、レースを完遂することはできずに終わった。だが、その後、シルバーストーン(イギリス)戦は2位、そして次のサンパウロ戦では念願の初優勝を遂げることになる。「ル・マンでは2台ともリタイヤに終わりましたが、その後、WECのシリーズ後半戦が始まると、サンパウロ戦では自分たちの強いところとアウディの強いところがほぼ見えてきました」と村田。

「だからこそ、富士で絶対に勝ちたいという思いが強くなりました」


「富士で絶対に勝ちたいと強く思っていた」と語る村田久武
 それまで世の中になかったレーシングカーハイブリッドというコンセプトが始まったのが7年前。「ハイブリッドプロジェクトとして、ずっとみんなで知恵を出しながら今の形を作ってきました。富士は自分たちが作ってきたものを目の前で見てもらう機会でもあったんです」。ともに苦労を重ねた人たちとがんばってきた証を見せよう...。村田の心の中でさらに勝利への思いが強くなっていった。

 母国レースをF1で経験していた中嶋もまた、WECでの活躍を意識していた。「海外でシリーズを戦うレースが日本にやって来る、また僕らにとってはホームレースになる。その場合、どのレースより強く印象に残りますからね。個人的にはF1でいい結果を残せた記憶がないし...」と苦笑いしつつ、多くのファンの目の前で最高の結果を残したい、と村田の思いと重なるものを持っていた。

 母国レースでの勝利を目標に定め、戦いに挑んだトヨタ・レーシング。レースでは念願通り見事表彰台の真ん中へと上がったが、その裏では、ライバルを打ち負かすための戦略が着々と動いていた。

TS030 HYBRIDとチームが経験する初の母国レース。村田も国際経験豊かな中嶋でさえ、緊張感を持ってそれを迎えた。富士での戦いは、やはり強力なライバルとの一騎打ちという壮絶なレースとなった。次回は、彼らがいかに戦い、決断し、勝利をたぐり寄せたのかを語る。


目次ページ

  1. 第1回:母国レースで感じた喜びとプレッシャー(2013年9月11日公開)
    1. 1. チェッカーの瞬間、自分の感情が爆発した
    2. 2. ギリギリの戦いの末に手にした最高の結果
  2. 第2回:ライバルと繰り広げた熾烈な駆け引き(2013年9月18日公開)
    1. 3. ドライバー同士の密な連携
    2. 4. 中嶋に託されたポールポジション
  3. 第3回:劇的な勝利。そして2013年の富士へ(2013年9月25日公開)
    1. 5. 予定外のカードを切ったライバル
    2. 6. ライバルにとっても特別な富士