「あのニュルって、こんな田舎だったの?」
ツーリングカーの聖地“ニュルブルクリンク”を初めて訪れた多くの人が、その牧歌的な雰囲気に驚かされるようだ。
フランクフルトから約200kmにあるそこは、牛や馬が静かにまどろむ丘陵地帯にあり、美しい緑の中に突然サーキットが出現したといった趣。つい最近になってようやくコンベンションホールや近代的なホテルが建設され始めたのだが、まだそこは、緑と澄んだ空気に包まれたまぎれもない田舎なのだ。
そんなニュルブルリンクの正面入り口に凛と建つ『HOTEL DORINT』は、ニュルのランドマーク的な存在だ。ややピンクがかった欧州スタイルの建物は地上5階建てであるものの、部屋数も決して多くはない。あのF1グランプリ開催サーキットであり、20万人の観客と270台のチームが集結するあのニュルブルクリンク24時間レースが行われる場所とは思えないほど瀟洒(しょうしゃ)なのだ。
加えてこの『HOTEL DORINT』は、魅惑的なホテルといえる。だって建物から内装から何から何までが、モータースポーツ一色に染め上げられているのだ。クルマスキにはたまらないのである。
まずはロケーションが理想的である。グランドスタンドとは横並びだ。メインストレートに面している。サーキット側の部屋にはバルコニーが設けられている。スターティンググリッドのドライバーと会話ができるほど接近しているのが魅力。たとえばF1グランプリのスタートシーンをここから観るのは臨場感たっぷりだろう。あるいは最終コーナーのバトルが、物を放れば届きそうな近さで観戦できるのだ。夢のような一等地なのである。
エントランスから踏み入れたゲストを驚かすのは、メインロビーに併設されたラウンジにある。天井からF1マシンが吊り下げられている。地元ザクスピードが1980年代を戦った伝統のマシンをしみじみと観ながらすするコーヒーの味は格別だろう。
各フロアにはレーシングカウルだったり、無数のステッカーでデコレートされた旧車だったり(このどこかに僕のステッカーが2枚貼ってあります。訪れた人は探してみて!)、モータースポーツを感じさせるオブジェだったりと、身も心も100%モータースポーツ漬けにしてくれる。
廊下の柄さえもサーキットをモチーフにしているほどだ。壁には数々のモータースポーツシーンが額に収められている。歴代のドライバーの顔写真あり、絵画あり、サインありと、モータースポーツが洪水のように迫るのである。
そんな『HOTEL DORINT』で、いうなればクルマスキの聖地ともいえるのが、一階のバー『COCKPIT』になるのだろう。踏み入れればそこは、まさにモータースポーツのおもちゃ箱に紛れ込んでしまったかのような雰囲気にのまれる。
店内にはクルマ関係のオブジェがうずたかく積み上げられているし、壁といわず天井といわず、テーブルといわずキャビネットといわず、そこかしこにおびただしい数の写真やステッカーや、あるいはそこを訪れた人々のサインで埋め尽くされているのだ。
今年の夏に行ったら、春に参戦したGAZOO Racingがパドックで撮影した集合写真が、大きなパネルになって飾られていた。なんだかニュルに認められたような気がして嬉しく感じた。
サインは有名なドライバーの直筆だったり、一般のお客さんだったりする。そう、だれが描いても良い。快くサインペンも貸してくれる。レースが終わって祝杯をあげて、レースを振り返りながら酔った勢いでメモリーを刻んでいくのもいい。観戦して感動して、モータースポーツに惹かれて、そしてその気持ちを壁に記してもいいのだ。
ニュルブルクリンクはメーカーの開発テストが頻繁に行われる場所でもある。ニュル詣でをする世界各国の開発陣が残した、ステッカーやサインも少なくない。そう、ニュルブルクリンク訪問は、ここに名を刻んで初めてその証となる。クルマスキの聖地なのである。
ニュルに訪れるのなら、一度は『HOTEL DORINT』に宿泊したいものだ。そして1階のバーで酒をかっ喰らおう。そしてその時の思いを壁に記そう。そうすればニュルブルクリンクは、君たちを暖かく迎え入れてくれるはずだ。クルマスキの聖地がそこにはある。
TOYOポルシェ911・GT3で挑戦しているヨーロッパ耐久ラウンドは、先週、最終戦を迎えた。その、VLNニュルブルクリンク24時間耐久には、今回も、もっとも激戦のSP8クラスでエントリー。ただし、雨が降ったりやんだりのめまぐるしいニュルウエザーの中、クラス3位でゴール。めでたしめでたし・・・。それにしても、ウエット路面のスリックタイヤ走行はシビレタ・・・。
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