レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


14Lap 「夢の三菱ミラージュ」


最大勢力プロトンの旗艦モデル『サガ』。ほとんどミラージュですな。東南アジアでは、リアにトランクがあるクルマが人気だという。高級車らしいから、が理由のようです。


ミラージュ(風)プロトンのフロントに回り込むと、なんとVWサンタナ(風)でした。ニコイチ?「いや、プロトンです」(パーシー君談)


エンブレムもシャレードですが、ダイハツが技術提携しているプロドュアかもしれませんぞ。デ・トマソでもなさそうだし・・・。

「クルマを買ったのです。夢だったのです。家族も喜んでいます。凄いでしょ!」

そう言って興奮を抑えきれずにいる浅黒い小柄な男は、マレーシアで自動車パーツ輸入ディーラーを営むR・Hパーシー君だ。

セパン12時間耐久レース(マレーシア)の時、我々のピットになんの前ぶれもなく押し掛けてきて、あれやこれやと質問攻めにしてきた男性である。日本に4年間ほど出稼ぎをしていたのだと言い、日本語を流暢に話す。

彼は日本の自動車メーカーやショップとビジネス展開をしたいのだと、そのきっかけになればとの思惑で我々に接近してきた。こっちはこっちで、マレーシアの裏事情を土産話にしようとの魂胆で話に付き合った。クアラルンプールの街中には、たくさんの自動車が走っているのだが、そのほとんどがどうも、どこかの国の自動車をパクッたような姿形なのだ。そのあたりのカラクリを解明しようと、こっちも質問攻めで返してやった。

「マレーシアの国民車は『プロトン』と『プロドュア』です。どちらもマハテール首相が掲げた国民車構想がベースですね」

どうやらプロトンが一大勢力であり、国内最大シェアを有するという。たしかに右を見ても左を見てもプロトンだらけ。

「外国車は関税が高いので、とても庶民の手にはまわりません。ただ、プロトンとプロドュアなら、頑張ればなんとか・・・」

「ところでパーシー君のクルマは?」

「プロトン・サガです」

そう言って見せてくれた写真には、ラリアートのステッカーが貼ってあった。

「プロトン設立時に、三菱自動車が資本参加しました。だからプロトンはラリアートと相性がいいのです」

とは言うものの、パーシー君のサガは、三菱4ドアミラージュに酷似している。と言うより、ミラージュそのままだ。おそらく納車日、興奮そのままに撮影したと思われる決めカットを何枚も見せられたのだが、そのプリントからは、ラリアートのステッカーが似合うと言うより、プロトンのエンブレムが不自然に映るほど、プロトンではない。

「これは三菱?」

「いえ、プロトンです」

「はあ・・・」


それにしても三菱天国です。ミラージュ、いや、プロトン・サガのオンパレード。左に見切れているのがダイハツ・ミラ、いや、プロドュアですな。見渡す限り日本車ばかり。日本車がマレーシアに与えた影響の大きさが想像できます。


宿泊したホテルのエントランスでは、新郎新婦が旅立つところでした。派手なリボンとブーケが飾られていたのはカムリ。さすがに結婚の門出です。貨幣価値を考慮すると1,000万円オーバーの新車です。

街中を走るクルマのほとんどが三菱車であり、いや、その中には三菱車をベースにしたプロトンも含まれるのだが、ほとんど三菱天国。第二勢力はプロドュアなのだが、こっちはダイハツが技術援助しているからほとんどダイハツ・ミラ。ごく少数勢力としてトヨタやホンダになりそうな比率。VWもチラホラ。貧富の差も激しいようで、メルセデスS550やポルシェ911が我が物顔で飛ばす場面もなくはないのだが、圧倒的に三菱風とダイハツ風ばかり。

「僕が買った中古のプロトンが、5万リンギットですから日本円で140万円くらいになります。マレーシアの物価は日本の3分の1ほどです。だから400万円から500万円の感覚ですよ」

はっきり言って、中古のポンコツ4ドアミラージュに500万円も投じて、家族でサクセスを体感しているというのだから、なんとも同情を禁じ得ない。

「輸入車の関税は300%になることもありました。ですからトヨタだってホンダだって、1,000万円オーバーの買い物です」


ホンダのステッカーが派手ですから、おそらくフィットベースですな・・・。現地名はシビック?なぜかリアのエンブレムが外されていたので判別不能。わざわざ外すあたりに、なにやら怪しさが残ります。


なんとAE27カローラを発見。これはホンモノ。カラーリングも渋く、マフラーも改造されてました。はたしてニコイチか完成車か?そのまま日本に逆輸入したくなるほど美しい!

マレーシアでカローラでも流していれば、けっこうなセレブなのだ。

「日本の言葉でいえば、“ニコイチ”のクルマも少なくありません。完成車は高くつくから、日本で二分割して部品として輸入します。それをこっちで結合するのです。その時に前後をバラバラに組み付けたりするわけで・・・」

たしかに、滞在中に何度か、前後バラバラのクルマを見掛けた。ミラージュを抜いたつもりが、振り返るとフロントはサニーだった、なんて珍現象が起るのは、部品輸入で関税をくぐり抜けたのちに再生したニコイチ車なのである。タイの方がもっとニコイチ祭りだったような気がするけれど、マレーシアにもニコイチはわずかに浸透しているようなのだ。

「部品にも関税がかかるんですよ」

ニコイチも安くないというのだから、また奇妙な国である。

「もちろんニコイチより完成車が好まれますよ。プロトンより日本車の方がステイタスがあります。だからこうして、ラリアートのステッカーを貼っているのです。今度、三菱のエンブレムに貼り替えようと思ってるんですよ」

嬉しそうにそう言い、最後にこう付け加えた。

「来年にはマレーシアの自動車産業も変化します。外国資本の現地法人設立の規制が緩和されるんですよ」


中国ほどではないにせよバイクも多い。クルマは高嶺の花ですから・・・。これも『ホンダ・カブ』

マレーシア政府は、自動車産業を海外から誘致することにしたという。国民車を保護するために、外資に対して厳しい規制を敷いてきた。その結果、規制が緩やかなタイに世界が集まりはじめ、マレーシアの自動車産業が疲弊し始めたというのだ。そこで今もう一度、マレーシアをASEANの自動車産業のハブにしようと政策転換を進めはじめた。外国資本の100%出資の許可は、そのための施策なのである。

「設立許可は、ハイブリッドや電気自動車のメーカーに限定されるそうですけどね。そうなれば、トヨタやホンダが工場進出してくるはずなんです!ポルシェやメルセデスだってやって来るかもしれませんよ」

そう言って、その日を待ち焦がれるような笑みを浮かべた。

パーシー君が自動車ビジネスに積極的になるのは、今後のマレーシア自動車産業に光明を見いだしたからなのであろう。

明るい将来を前にキラキラと目を輝かせるパーシー君に僕は、こう質問をしてみた。

「ビジネスに成功したら何を買うの?」

そんな僕の質問に対して彼は、じっくりと時間をかけてまるで家でも買うように計算を巡らせたあと、強い声でこう言った。

「三菱のミラージュが欲しいです」

クルマスキのパーシー君が、夢のミラージュを手にする日も近いと思う。

キノシタの近況

先日、ある雑誌の取材で判明したことがある。道路に白線をペイントする作業員は、国家試験取得者に限るというのだ。「テストがある?」「筆記と実技があります」「実技?」「文字も書きます」「文字?」「“とまれ”の“ま”の字を書きます。難しいのですよ」あれって、フリーハンドだったのだ。ということは、下手な文字もあるってこと?今度確認してみてくださいな。
www.cardome.com/keys/

【編集部より】

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