レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


22Lap もっともテンションがあがったモデルとは…?


燃料電池車の「FCXクラリティ」。搭載した水素を電気分解の原理を応用して発電、100%モーターで走ります。数十年後には、街で見かけるようになるかも…。

「『テンション最高潮!』という企画をしました。最近試乗した中で、もっともテンションがあがったモデルを紹介してください」

先日あるメディアからこんな執筆依頼が届いた。関東地方に湿度の高い低気圧がどっかり居座り、連日どんよりとした日が続いていた3月初旬。

時にその日は、レクサスLFAの国内試乗を行った日だ。昨今の自動車業界の、沈滞化した空気を一気に跳ね飛ばそうというのが、アゲアゲタイトルが冠されたその企画の狙いなのだろう。キノシタの口からはレクサスLFAの名を挙げるはず、と予想していた節も感じられた。“V10サウンドが最高で、最高速度は300km/hオーバーまで伸びて、テンションは最高潮でした~”といったあたりが、編集者が期待した解答だっただろう。

ただし、キノシタはけっこうあまのじゃくなのである。編集担当が企画した意図に想像を巡らせてみてページ構成を浮き立たせておきながら、それをひょいっと裏切ることに快感を覚えるへそ曲がりだ。ストレート勝負と見せかけておいて外角低めにカーブを投げつづけるタイプなのだ。いろいろ乗ったんだけどねぇ~…、どれも面白かったからなぁ~…、一台には絞れないな~…、なんてさんざん焦らしたあげく、こんど暇な時に原稿書いて送るから楽しみにしていてね♡ などといなして電話を切った。そして後日、肝心の車名だけを伏せ字にして送りつけたのが、以下の原稿なのだ。

『そのマシン、ミッドシップ+4WD+2シーター+超ショートホイールベース+超軽量ボディ+電子制御PGM-FI+4バルブエンジン+5速MT+ウルトラロー変速ギア+デフロック…という贅沢なアイテムを装備。華麗な走りを披露した。その名も「※?♨$※」でした。』(要約版ね…。)

編集者は動揺し、すぐさま返信メールをよこしたことは言うまでもない。


「FCXクラリティ」インフラが充実し、価格が下がれば、すぐにでも実用可能なほどの完成度です。運転に神経質なところはない。雪道で、全開ドリフトだってできちゃいます。推定価格1億円オーバー!

「車名の部分が読み取れないんですけど…」

「スペックから想像したまえ!」

「スーパーカーですね」

「そう、とてもスーパーである」

「ミッドシップということはレクサスLFAではないのですね?」

「ヒントを忍ばせているぞ」

「ミッドシップで電子制御PGM-FI+4…」

「そう、もう答えを言ってしまったようなものだぞ」


これがレクサスLFAと並ぶスーパーマシンである。ミッドシップ2シーター。テンションあがりますね!このあと、1周3キロほどの林道を、20周ほどしちゃいました!

「ホンダ車ですね」

「おっ、近い!さすが、自動車専門誌の編集だなぁ」

「でも、NSXは生産を終えました」

「ホンダのミッドシップは、NSXだけかな?」

「2シーターだとすると、NSX以外浮かびません」

無能な編集者が不憫になったので教えてやった!

「ホンダ・アクティ・トラックなのであ~る」

「レクサスLFAではなく、ア、ア・アクティ…で・す・か…!」

そう、正直に言えば、レクサスLFAも最高にテンションが高まるモデルである。あれを転がして平静でいられる人がいるとしたら、よほどの鈍感かへそ曲がりだろう。すぐさま内科か精神科で検査してもらう必要がある。誰もが異口同音に、レクサスLFAに強い刺激を口角泡を飛ばして語る。かくいうキノシタも相当に痺れたクチで、一発で虜(とりこ)になった。だがしかし、アクティ・トラックの走りもかなり熱い。というわけで、今回のテンションモデルに推挙したのである。


これもフロントミッドシップマシン? タイヤとハンドルがついていれば、なんだって横向けちゃいます!

実はアクティ・トラックの走りを堪能したのは、ホンダが北海道の鷹栖町に持つテストコースでの雪上試乗会の場だった。ホンダが生産する様々なモデルがずらりと用意されていて、好きなだけ走ってくださいな、という趣旨。基本的に年に一度華やかに開催されるのである。

驚かされるのは、発売前のプロトタイプから汎用車やATV(4輪バイク)までとジャンルが多岐にわたっていることだ。なにが太っ腹って、試乗会場には、1億円もする燃料電池FCXや発表直前のCR-Zも用意されていたのである。それを自由に、林道でドリフトが許されるのだ。人によってはクラッシュもしたりする。もちろんキノシタも全開走りにトライ。燃料電池車でスノーアタックした数少ないドライバーのひとりになったのだ。でもって、そんな多くのモデルの中でボクのテンションをもっとも高めたのが、そう「アクティ・トラック」だったのである。


米国輸出向けアキュラSUVですな。さすがに林道では幅を持て余し気味です。ゆえに、消化不良で1周で降りちゃいました。

理由?

楽しいからである。

まず、そのコンパクトサイズが狭い雪道にベストマッチ。トラクションも完璧。4WDだから。雪壁に擦りながらでも失速しない。そもそも後輪駆動系のトルク配分。華麗なテールスライドを決めてやった。ボディ重量は700kg台と軽量だ。だから動きは軽快である。アクセル全開のままクラッチ蹴ったりしてね。とにもかくにも、性能のすべてを引き出しているという実感がある。そこにえも言われぬ陶酔感が滲むのだ。

楽しい車の基本は、やはりその基本骨格に左右されると思う。前後重量配分が理想に近くてコンパクト。ベースがそうなら、ドライビングプレジャーを裏切らないという証明になった。ボクが雪国で生活することになったら、間違いなくアクティ・トラックを購入することだろう。そしてロールケージを組んで林道を夜な夜な…。ムフッ、夢は膨らむのである。

タイヤとハンドルがついていれば、ゴルフカートでも競争を始める、という性分の我々だから、そりゃアクティ・トラックだってレクサスLFAと同格で扱ってしまうのだ。といっても3,750万円もするスーパーマシンで雪壁に擦る度胸も財力もないわけで、だとすると前後重量配分に優れた軽量モデルという理想的な作り込みがなされたアクティ・トラックあたりが分相応。


これ、ホンダ最小の除雪車。庭先に積もった雪掻き用です。グイグイと雪を押してしまうのです。タイヤ(キャタピラ)とハンドル(バータイプ)がついていれば、なんだって楽しいものです。ちなみにその名は「ユキオス」

実は学生時代に歳暮配送のバイトをしていて、その時にあてがわれた軽トラックの走りの楽しさが成功体験として心に刻まれている。今だから言えることだけど、リアタイヤの空気をペタペタに抜いてドリフトを楽しんだり、同僚の軽トラックと信号待ちの隙に前後でオシクラマンジュウしたり、それでいてビカビカにワックス掛けて磨いたり…って生活をしていたのだ。その頃からキノシタ、「隠れ軽トラファン」なのです。これまで封印してきたボクの魂が、今回のアクティ・トラック激走で目覚めてしまったのだ。

ようするに、だ。クルマスキにとっては、タイヤとハンドルがついていればなんでも楽しい、ってことを実感。レクサスLFAとアクティ・トラックを二台所有。これ、今のボクの理想型です。

キノシタの近況

今年もGAZOO Racingでニュルブルクリンク24時間に参戦することになった。マシンはもちろんレクサスLFAです。昨年よりもさらに戦闘力を高めております。必勝態勢です。というわけで早速ドイツでテストしたいのですけど、ドイツ、まだ降雪があるんですって。あのコース、まだ積雪20センチとのこと。まずはアクティ・トラックで入り込みますか…。
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【編集部より】
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