なにやら道が賑やかである。
走ると、どこからか音楽が聴こえてくる。
最近全国に増殖しつつある「メロディロード」のことだ。
「メロディーロード」は、タイヤの走行音が音楽を奏でるように工夫された舗装路のこと。路面に小さな段差を刻むことでノイズの周波数をコントロール。深さ3~6mm、幅6~12mmという細い溝を、走行方向を横断するように刻むと走行ノイズが発生する。そのノイズは、溝と溝の間隔によって音階や音域が変化し、溝の幅によって音の強弱が変化するという。そいつを巧みに操ることで、なにがしかの音楽を奏でるという仕組みなのだ。お役所言葉に変換すると「音響道路」となるらしい。
実は、僕らがクルマ試乗のために頻繁に訪れる箱根・芦ノ湖スカイラインにもメロディーロードが出現した(ここではメロディベープという)。となれば好奇心旺盛のキノシタが走りに行かないわけもない。
さっそく現地に到着。前触れもなくどこからか演奏が始まるのかと思っていたら、「ここからメロディロードが始まります」という看板を合図に迎えられた。
ふと見ると、およそ50mほどに渡って路面に溝が刻まれている。演奏時間では約20秒の小演奏。メインの旋律を一小節、もしくは二小節という長さ。
音楽は「ふじの山」だ。頭に雪をかぶった富士山の、その勇姿を眺めながら走れる景色のいい有料道路だけに、やはりお約束である。タイヤが路面を叩く走行音に混じって、タイヤがバイブレーションするかのようなノイズが、確かに「ふじの山」を奏でるのである。
♪あたまを雲の 上に出し
四方の山を 見おろして
かみなりさまを 下にきく
ふじは日本一の山♪
もちろん歌詞は聴こえないのだが、それは速度40km/hほどで正しい音階になるように細工されている。低速ではレコード盤の回転が下がったかのような、牛のあくびのようなのんびりした音階になる。速すぎるとキンキンと飛び跳ねるようになる。速度が上下すると音階も乱れるのだ。
つまりは、車両の速度を抑制する効果もある。飛ばしたのでは音楽にならないからだ。のんびりとした気持ちでドライブしてほしいという思いも透けて見える。安全につながる仕掛けなのである。
噂によると、メロディロードの発端は、北海道中標津町の企業が実験したことだったという。その時の選曲は、北海道にちなんで『知床旅情』だ。
現在、全国に点在しているめぼしいメロディロードと曲を紹介すると…。
新潟県魚沼市・尾瀬奏でロード『夏の思い出』
群馬県高崎市・榛名湖メロディライン『静かな湖畔』
群馬県草津町・国道292号『草津節』
長野県茅野市・信州ビーナスライン『スカボロー・フェア』
滋賀県大津市・琵琶湖大橋『琵琶湖周航の歌』
愛知県豊田市・国道257号『どんぐりころころ』
和歌山県紀美野町・国道370号『見上げてごらん夜の星を』
大分県竹田市・国道57号『荒城の月』
さらに音響道路のルーツに思いをはせると、高速道路の料金所手前などに路面に記された『337拍子』が始まりだと思う。路面に3本の太い帯が渡されており、音響道路の理論でタイヤノイズがリズムを刻む。音階はない。そのかたまりが間隔をおいてもうひとつあり、さらに7本の帯が続く。これを一小節とすると二小節繰り返されるあれだ。
僕にはそれは、337拍子に聴こえる。祝い事で輪になって手拍子を合わせるあれである。ところが僕の友達にそれを話すと、彼には、“チューリップ”の歌に聴こえるというのだ。幼稚園で先生がオルガンで弾いてくれた、井上武士作曲のあれである。
♪さいた さいた
チューリップのはなが
ならんだ ならんだ
あか しろ きいろ♪
メロディでいえば、
♪ドレミ ドレミ
ソミレドレミレ
ドレミ ドレミ
ソミレドレミド♪
そんな話をもうひとりの友人にすると、それは“さくらさくら”だと主張して譲らない。音階がなくリズムだけだから、それぞれが異なった音楽を頭に浮かべて聴くのである。というから話は厄介だ。
♪さくら さくら
やよいの空は
見わたす限り♪
メロディでは、
♪ララシ ララシ
ラシドシラシラファ
ミドミファ ミミドシ♪
別のもうひとりの男は、なんと、あのリズムは“ちょうちょう”だと宣戦布告をしてきた。
♪ちょうちょう ちょうちょう
菜の葉にとまれ
菜の葉にあいたら
桜にとまれ♪
メロディでいうと…。 もうええわい!
とまあ、タイヤのノイズは環境悪化のひとつとされていたのだが、ちょっとした細工で心地良いものになる。メロディロードなどには頼らずに、素直に景色と走りを楽しんでもらいたいとは願うものの、まあ、道中のどこかにこんな個性的な道があってもいい…。
クルマは道が決める。そしてその道は、演奏する。
このコラムがアップされる4月13日にはもう、今年初のニュルブルクリンク4時間耐久レースを終えている頃だろう。ニュルブルクリンク24時間耐久レースの前哨戦となるそのレースには、ほとんど多くのトップランカーが集結する。いわばニュル実践テストといった様相を呈しており、我々のポジションがおよそ想像できるのである。
さて結果はいかに…?
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【編集部より】
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