「若者がクルマから離れている?そんな気配はどこにもないよ!」
東京オートサロンの華やかな盛り上がりを見た関係者たちは、異口同音にそう言って笑みを浮かべた。
「個性的なクルマに飢えているんですよ。」
そう言って、集まった若者達の楽しそうな表情を眺めた。
新年の慌ただしさから、やや落ち着きを取り戻しつつある1月15日(金)、この国内最大のカスタムカーショーは3日間の日程で開催された。会場となった幕張メッセの、その広大な会場いっぱいに、全国各地から魅力的なチューニングカーが集結。トークショーやギャルオンなど趣向を凝らした企画が催され、興奮の坩堝(るつぼ)と化したのだ。会場にボールをポンと投げ入れれば、ほぼ100%の確率で笑顔にあたるという雰囲気だったのである。
各ブースに持ち込まれた個性的なクルマの数々…。きらびやかに着飾ったモデル達の微笑み…。ビートの利いたサウンドが場内に鳴り響き、人々の興奮が交錯する…。
たった3日間だというのに、集まった来場者は23万7954人に達したという。昨年よりも3.8%増という数字を記録。東京モーターショーが12日間で61万人の動員だったことと比較しても、その熱気が窺える。
最近の若者は移り気だと言う。好きなものには徹底して興味を示す。だが、琴線に触れないものにはまったく興味を示さない。それがこのところの傾向のようだ。
だとすれば、東京オートサロンはいいサンプルになったといえる。
没個性のクルマを並べただけではだれも興味を示さない。だが、クルマに夢を注いで愛情を持って開発すれば、人を惹き付けるに十分すぎるほどのパワーを発揮するというわけだ。
トヨタ自動車の豊田章男社長が昨年の夏、就任後の会見でこう述べた。
「若者がクルマから離れているのか、我々が離れているのかを検証したい…。」
奇しくもそれに対する回答は、今回のショーが導き出したと言っても過言ではない。熱狂的なクルマスキは確実に増えているということを、事実として突きつけたのである。世界不況や少子化という逆風をものともせずに、入場者増を達成したことがその証拠だ。
その豊田社長が昨年に引き続き、開催日初日の金曜日にTOYOTA/GAZOO Racing ブースの発表会トークショーのステージに立った。これは今回最大のサプライズだといっていい。
格式も伝統もある東京モーターショーにメーカーのトップが公式スピーチすることは珍しくはない。だが、どこかアウトロー的な香りも漂う東京オートサロンのトークショーに、世界最強の自動車メーカーの、その頂点で陣頭指揮をとるVIPがステージで笑顔を振りまくことなど、これまでには考えられなかったことなのである。
「自分の口からメッセージを伝えたい…。」
そう言って自ら、企画を提案したとも噂されている。
「公式会見のような、堅苦しいトークでは終わりたくはない。」
そうも進言したともいう。用意された公式文書を読むのではなく、自らの言葉で語っていたことが印象的だった。
実は、そのステージの司会進行の大役を仰せつかったのが不肖、このキノシタなのだが、無礼極まりない質問をやみくもに叩きつけ、ときにはムッとされ睨まれたりしながらも、豊田社長の考え方やこれからのトヨタ自動車が進もうとしている道筋をはっきりと引き出せたと、自画自賛しているのだ(社長、失礼しました!)。
あの日トヨタ自動車が発表した、数々の魅力的なコンセプトカーの中でもGAZOO Racingが企画立案し、製作まで進めた3モデルが注目を集めた。前号のこのコラムでもさわりを紹介しているのだが、「スポーツハイブリッド」はオープンボディ+ミッドシップ+4WDの中でも驚愕のレイアウトであることが発表されたし、「FRホットハッチコンセプト」は「KP-61」が源流であることもアナウンスされた。iQ GRMNのパワーアップバージョンである「iQ+スーパーチャージャーコンセプト」も人気を集めていた。その1台1台を、豊田社長が丁寧に説明する姿は印象的だった。
「すぐに発売してほしいんです…。」
マシンを囲むクルマスキ達のそんな熱いラブコールは、豊田社長の耳に届いたことだろう。
「もっと楽しいレースを企画してください。」
モータースポーツへの強い思いも、無視したりはしないはずだ。
“現場に一番近い社長”が“現場”に来てくれたことの意義は大きい。若者のあの、はけ口のない溢れ狂わんばかりのエネルギーを肌で感じてくれただろうし、そのエネルギーを全身で受けとめてくれるであろうことが、豊田社長のこれまでの行動と発言から想像できるのである。
実は豊田社長は、14日(木)にレクサスLFAの視察テストをこなしたあと、夜中に会場近郊のホテルに宿泊し、翌15日(金)早朝のステージに立った。多忙な社長はすぐさま一旦名古屋本社に戻って業務をこなすという過密スケジュールだったのである。
しかも、だ。15日(金)と16日(土)に業務をすませたあと、なんと翌日の17日(日)に、わざわざプライベートでショーに戻ってきたのである。それは僕らにとってもサプライズだった。
しかも、予定にないトークショーに率先して参加してくれた。またまたブッチャケトーク炸裂というオマケつきである。
「スーパーGTの今後は?」
「もちろん強力に支援しますよ。GAZOOでは“観る歓び”と“語り合う歓び”も提案しているんですから…。」
歓声が沸き上がった。
「フォーミュラ・ニッポンは?」
「もちろん撤退するつもりはありません。」
ステージから、割れんばかりの拍手が響き渡った。
豊田社長の口から発せられる言葉は、我々クルマスキを次々に刺激しつづけたのだ。
オフレコの利かないステージで台本にない質問を次々に突きつけ、ドサクサにまぎれて強引に約束をとりつけたことに気を良くした僕は、次々に縁石ギリギリのドリフト質問を機銃砲のように連射。
「今年もニュルブルクリンク24時間には参戦しますか?」
「もちろん参戦しますよ!」
「えっ?」
実はその発表は後日予定されており、その日の段階では口にできないはずのNGワードだったのである。突然の参戦発表に慌てる関係者とは対象的に、会場が沸き立ったことは言うまでもない。
「参戦は、レクサスLFAですか?」
「もちろん、今年は上位を狙いますよ。」
開き直った豊田社長は、詳細を次々に発表していく…。
「マシンの戦闘力は?」
「昨年よりも高めています。ご期待ください!」
もはや言葉の勢いは留まることを知らない。
「社長も走りますか?」
「それはモリゾウに聞いてください!」
笑いが沸き起こる。
「開発の進捗状況は?」
「テスト参戦を消化してから、24時間に挑みます。」
「必勝体制ですね?」
「もちろんです、完璧な体制を敷きました。」
「となると、ドライバーも実力派揃いですね?」
「最高のドライバーを候補に挙げています。」
「トップドライバーですね?」
「もちろんです!」
豊田社長は滑らかに語る。
ところが、次の質問をしたとき、言いよどんだ。
「そのドライバーリストにはキノシタも加わってますか?」
「…ん?」
「ですから、キノシタは?」
「…ん?」
「精鋭を集めたのでは?」
「ええ、たしかに精鋭ですが…。」
「となるとキノシタも?」
「キノシタさん?」
「ですから僕は?」
「候補には…。」
「候補には?」
「挙がって…。」
「挙がって?」
一旦の静寂のあと、こう続けた。
「ない…。」
東京オートサロンの緩やかな空気には、強い影響力を持つVIPさえも饒舌にさせるパワーがあるようだ…。
翌日のスポーツ新聞には、ショー会場で豊田社長が口にした活動の内容が詳細に報道されていた。
ニュルブルクリンク24時間参戦!ドライバー未定
現場に一番近い社長は同時に、一番クルマスキの社長であり、一番イタズラスキの社長だと思えた…(笑)。
東京オートサロンが終了してからもう10日が過ぎたというのに、まだ業界の話題はショーに独占されています。それだけ期待が込められていて、大成功に終わったということでしょうね。ちなみにGAZOOは大阪オートメッセにも出展します。会場でお逢いしましょうね!
www.cardome.com/keys/
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