レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


30Lap 思い入れのあるボディカラー

僕はいつも街中で、肌色をしたマツダ車を見掛けるとつい、こんな言葉を口ずさんでしまう癖がある。
「シ・シ・リ・ベージ…、シ・シ・リ・ベージ…」
 声に出すというより、呟くといったようで、多いに不気味がられるのである。
 この癖はもう、40年近くになろうとしており、今でもいっこうに直る気配がないのだ。
実は、僕はこの妙な呪文のようで、不気味な雰囲気を漂わすこの言葉を、ある時を境に唱えはじめた。


当時のマツダ・ファミリア ボディカラー「シシリー・ベージュ」

子供の頃、父親がマツダ・ファミリアを購入することになり、茶の間で行われたいわば車両購入検討会議がきっかけなのだ。
家族が膝をつき合わせながら行われたその会議によってマツダ・ファミリアを購入することが決定し、しかもそのボディカラーが「シシリー・ベージュ」になった。
まだ小学生だった子供には発言権などなく、「赤か青じゃなきゃいやだ」という僕の意見など通ることなく、父親の独断が尊重され、数日後には、ちょっとくすんだ肌色の新車が届けられたのである。けして鮮やかではなく、がっくりしたことを記憶している。

今思い起こせばそれは、地中海に浮かぶシシリー島の美しい砂浜の砂の色や街の壁の色を指すのだろうが、ガキの僕にはそんなロマンチックな意味合いなど理解できるはずもなく、「シシリー・ベージュ」が「シシリー・ベージ」になり、ついには「シ・シ・リ・ベージ…」というおまじないのような不気味な呪文へと変化してしまったのである。
 ともあれ、僕のこれまでのクルマ遍歴の中で「シ・シ・リ・ベージ…」を超える印象のボディカラーに出逢っていないのだ。


日産 R34型スカイラインGT-R 「ベイサイド・ブルー」


ホンダ シビックタイプR 「チャンピオンシップ・ホワイト」

R34型スカイラインGT-Rに採用された「ベイサイド・ブルー」の印象も深い。開発メンバーの中に熱狂的な走り屋がおり、彼の好みで決定。
当時話題を振りまいていた首都高速湾岸線を疾走する姿をイメージしたと言い伝えられている。
「ベイサイド・ブルー」はつまり「湾岸ブルー」であり、深い青みのメタリックのネーミングとしてはよく似合っていた。
「湾岸ミッドナイト」という走り屋系アニメも流行しており、そのちょっと不良っぽい攻撃的なニュアンスの印象が胸に突き刺さったのだ。

ホンダ・タイプR系の専用カラーである
「チャンピオンシップ・ホワイト」もすでに市民権を得ている。
やや深みのあるメタリックホワイトであり、
「Rの赤バッチ」がもっとも映える。おそらくタイプRの8割以上はこのカラーリングなのだろうと思わせるほどの定番である。


フェリシモの色鉛筆。これで12ヶ月分。っていうことは、全色揃うのが20ヶ月だから、あと8ヶ月で終わり。揃うことが寂しいなんてロマンチックですね。

ところでいま、フェリシモ(FELISSIMO)の色鉛筆を定期購入している。
500色にも色分けされた鉛筆が毎月25色ずつ送り届けられる。それが20ヶ月たつと、
全色が揃うというわけだ。少しずつ色が増殖されていく過程を楽しみである。
 フェリシモの魅力は、その風合いのある色である。
そして、まるで虹の色の移り変わりの
ようなグラデーションが心地良い。そしてなによりも、そのネーミングにある。
500色の一本一本に、その色合いをイメージさせる詩的な名前が与えられているのだ。
 フェリシモ最初のカラーは、空に抜けるような鮮やかな青であり、「鯉のぼりのおよぐ空」とネーミングされている。

淡い紫色は「雨上がりのあじさい」であり、薄い黄緑は「南極のオーロラ」。
儚いピンクは「南アフリカのフラミンゴ」といった具合である。

 さらには、占いのような情報カードが添えてある。たとえば「2月のアメジスト」にはこんなコメントが…。
「この色を好む人は物事に対してひとつひとつマスターする「なんでも屋」です。知識や学問、さらには技術についてはやはりひとつひとつ身につける「博識家」です」となっている。占いや運勢にはまったく興味はないが、数ある色鉛筆の中からある一本を選んだりすると、なんだか情報カードに目を落としてしまうから不思議なものだ。そしてニヤッとして納得する。
 いやはや、こんなネーミングがクルマのボディカラーにあったら、なんだかちょっと興奮しそう。
やや少女趣味にも思えなくないが、無機質に「ブラック・メタリック」だとか「ソリッド・レッド」なんて言われるより、少なくともボディカラーに愛着が湧きそうだ。


パッソのポスター。色名称はすべてカタカナです。二文字か三文字で攻めてます。パッソを買った人が、一生カラー名を覚えていてくれたらと思うと、ワクワクしますね。

今年発売された新型パッソのカラーリングも、ちょっとフェリシモ的である。
「色がイメージしやすいように…」と開発陣は素っ気ないが、「キナコ」からはじまって「ウグイス」「アカリ」「アズキ」と続く。
淡い紫色は「スミレ」であり軽いブルーは「ソーダ」、続いて「ベニ」「ユキ」「シンジュ」「カガミ」そして「クロ」となる。
インパクトとガンバリ度はフェリシモには遠く及ばないが、気持ちは十分に伝わってくる。
 ちなみに、「シシリー・ベージュ」に近い色を探してみると、リストアップが4本になり驚いた。
「モロッコのターバン」、「オランダの木靴」、「ネパールのベンガル虎」、「インドのマンゴー」となる。
どれもが外国の地が名前に加えられている。日本という国には存在しない色合いなのだろうか?
なんだか一層、かつての僕の家族を乗せて走り回ったマツダ・ファミリアが愛おしくなった。

キノシタの近況

例年、初夏に陥る病である「ニュル24時間完全燃焼病」もそろそろ治りつつある。ジリジリと焼けるような太陽の熱が、また新たなパワーを注入してくれているようなのだ。その勢いで、「スーパー耐久シリーズ2010第4戦、富士」にスポット参戦した。あくまで助っ人の立場なのに、いきなりのスタートで、それも2時間30分連続走行。まったく人使いの荒いチームにジョインしてしまったものだと困惑したものの、体力気力とも問題なし。だってニュル24時間では、もっとコキ使うチームでの参戦だったから…!
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
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