レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


37Lap 個人タクシー真っ盛り!

不況でタクシー業界に異変?

気の合う仲間と飲み明かしたあとは、どうしてもタクシーでの帰宅になる。千鳥足で家路に向かうのも危険だしおっくうだ。そもそも終電は、とっくのとうに終わっている。となると、帰りの手段はタクシーだけとなるわけだ。
 店を出ると、おびただしい数のタクシーが客待ちをしている。最近のタクシー業界は不況に喘いでいるそうで、需要と供給のバランスでいえば、圧倒的に客が選べる立場にある。バブル経済の最中では、1万円札を振りかざしてまでして、タクシー確保にやっきになったというが、それも遠い昔のこと。今ではあきらかにタクシー飽和状態である。
 先の新聞に、こんな記事が載っていた。『タクシー業界に減車を指示』。国土交通省からのお達しらしい。このところの不況でタクシー需要が激減し、タクシーの稼働率が低下。同時に、タクシードライバーの質も低下の傾向にあるとのこと。もともと法人タクシーは数々の保護規定に守られていたようで、それを解くというのだそうだ。
 というのが関係したのか未関係なのかどうかわからないが、個人タクシーが、なにやら増殖しているように感じるのは僕だけだろうか?しかも“いいクルマ”ばかり。すくなくとも、東京都内の繁華街では、500万円オーバーの高級車がゴロゴロと客待ちしているのだ。

高級タクシー選び放題!


セルシオです。某所で客待ちしていました。足回りには金がかかってました。ですが、なぜか乗車に二の足を踏む人が…。雰囲気がちょっとね。


エスティマハイブリッドです。ドレスアップ仕様でした。エアロまで装備して…。運転は安全でしたよ。

タクシーというと、たいがいクラウンやセドグロが定番。自動車メーカーが仕立てた、いわば廉価版の専用車が相場。タクシー待ちの列に並び、なんの選択肢もなく、ただ順番に割り当てられた車両に乗るというのが一般的パターンであり、路上で確保するにしても、偶然通りかかった流しの車両に乗るのがこれまでの流れ。しかし、これだけいい個人タクシーが増えているわけで、となればこっちも、どうせ料金に差がないのだったら高級車の個人タクシーで帰るとするか…、となるわけである。
 セルシオやフーガではもう驚くことはない。レクサスLSやメルセデスSクラス、あるいはストレッチリムジンを見掛けることもある。もちろん廉価版仕様などではまったくなく、本革・本木目バリバリの贅沢仕様である。レクサスLS600hなどという1500万円級のタクシーも珍しくはないのである。
 アルファードやエルグランドといったミニバンも少なくない。どんなに高級車でもセダンならば、せいぜいお客は4名しか乗車できない。だけどミニバンなら6~7名乗車も可能なわけで、割り勘にすれば超破格である。それでワンメーターではあまりにも申し訳ないから、おつりを断っても痛くはない。ひとり100円見当で優雅な移動が可能なのだ。
 しかもサービスが行き届いている。個人タクシーはその名のとおり個人事業主だから、法人タクシーのようにノルマに追われていない。営業資格取得も厳しく、運転スキルもマナーも長けている。根底には、お客様サービス精神が濃いようで、飴玉やおしぼりのサービスを受けることもある。
「じゃ、次も指名しちゃおうかな… 」となるのである。
 中には、ドレスアップしているクルマを見掛けることもある。インチアップのホイールとタイヤを履いていたり、ローダウンをしていることもある。たいがいドライバーも、いかにもクルマ好き風の出で立ちであり、両手にドライビンググローブなどをはめたりして、ちょっと物騒だったりするのである。

個人タクシーも千差万別?

先日、銀座からの帰りに、BMW325iの個人タクシーに出逢った。これが相当のクルマ好きであり、話に花が咲いた。というより、ちょっと閉口した。
「いやね、若い頃は私も無茶しましたよ。レーサーになればいいのに、なんて友達に勧められましてね。いまでも飛ばしますよ!」
(飛ばさないでくださいね)
「だからBMWですよ。こいつは走りがいい。そう感じませんか、お客さん?」
(確かにそのとおりなのだが、後席に座るとやや乗り心地が悪い)
「高速道路なんか、120キロくらい出せますからね…」
(もっと出るけど…)
「こういうクルマに乗ってるとね、競争を仕掛けられるんですよ」
(公道では控えてくださいね)
「アクセル吹かし込みましょうか?」
(いや、遠慮させてください)

先日、プリウスの個人タクシーに出逢った。
「いやはや、燃費がいいので助かりますよ。ちょっと狭いんですけどね」
(たしかに長距離は苦手のようだけど…)
「みんな喜んでますよ。おっ、エンジン止まった!なんてね」
(ハイブリッドはまだ珍しいのだ)
「インサイトはね、ドアの高さが89センチなんですよ。90センチ以下はタクシーにはできない規定なんです。だから走ってないんですね」
(思わぬうんちくである)
「ホンダさんも、そのあたりを考えていればねえ…」
(というか、タクシー需要喚起のために開発したわけではない…?)


メルセデス・ベンツ350CDIですね。メッキモール&ドレスアップです。写真ではわかりづらいのですが、リアウインドーには『金の招き猫』が…。ご利益ありそうです。

先日、メルセデス350CDIの個人タクシーに乗った。
「高級車をタクシーにするとメーカーが嫌がるんですよ。こいつだって、一旦個人所有で登録して。それからタクシー登録に移行したんですよ」
(「タクシー」=「大衆車」というイメージを嫌うのだ)
「レクサスなんて、その点は厳しいですよ。タクシーにするといったら、直接納入することはできないんですよ」
(ブランド戦略が徹底しているのだ)

先日、ボルボ960リムジンの個人タクシーに乗った。
「もう50万キロですよ。でも、定期的にメインテナンスしていれば快調ですよ。国産車ではこうはいかない…」
(最近の日本車は丈夫ですけど…)
「あと50万キロは続けますよ」
(さらに地球を12.5周?)
「あと5年ですからすぐですよ」
(1年に10万キロ?)
「次は何にしようかなぁ?」

 いやはや、個人タクシーは楽しい。家に戻るまで寝るつもりでいても、ついつい話に聞き入ってしまう。家路が近く感じるものだ。酔客にとって、とても快適なのである。

キノシタの近況

WTCC日本ラウンドが岡山国際サーキットで開催された。今年で3回目で、今年も3回目の雨のレースとなった。だからこその波瀾万丈。まさかあんな展開になるとは…。CS放送『GAORA』でレギュラー解説してます。気になる人はご覧あれ!
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【編集部より】
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