師もそろそろ走り出そうという11月9日、今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー開票式」が執り行われた。今年の栄えある大賞は『ホンダ CR-Z』が獲得。下馬評では優勢だったVWポロを僅差で抑えての受賞である。まずは「おめでとう」と言っておこう。
そもそも「日本カー・オブ・ザ・イヤー」ってなんだ?という話なのだが、簡単に歴史とルールをおさらいしておくと… 。
この賞典が発足したのは1980年からというから今年で31回目となる。初代の栄冠は東洋工業の「ファミリア 3ドアハッチバック」に輝いた。“マツダ”ではなく“東洋工業”だったとするところが時代を感じさせるのだが、“赤いファミリア”旋風が日本中に伝播したことを記憶している方も多かろう。
ちなみに、ノミネートされた車の中には、いまでは絶版車となって記憶の中にだけその名を残すモデルも少なくない。例えば、日産の「レパード」、「ブルーバード」、ダイハツの「ミラ・クオーレ」、ホンダの「クイント」、そしてトヨタの「マークII」などの名前が続く。(若い人にとっては、ナニソレだろうね!)
当時の10台のノミネート車のうち、その絶版を免れたのは、三菱の「ギャラン」とトヨタの「クラウン」と、日産の「スカイライン」だけである。つまり、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」はそんな長い歴史を積み重ねてきたのである。
選考方法は、以下のとおり。
雑誌やテレビなどの報道媒体の編集責任者35名が実行委員となり運営を担当。彼らが、60名の選考委員を選抜。その選ばれた選考委員がルールに従って投票し、最多得点の車が大賞となるのだ。
ノミネートは、前年の10月1日から翌年の9月30日までに国内で発売され、500台以上の販売台数が見込まれる車が対象となる。その中からまずは一次選考が行われ、10台のモデルが決定する。(この時点で「10 BEST CAR」を受賞)。さらに約1ヶ月後に行われる二次選考会で大賞が決まるという段取りだ。
投票はやや複雑だ。選考委員ひとりの持ち点は25点。それを一次選考を突破した10台のうちの5台に振り分ける。ただし、そのうちの1台のみに10点を加えなければならない。つまりだ。大賞に相応しいと思ったクルマに10点を入れたあと、残りの4台に15点を配分するという仕組み。残った5台は0点。ちょっと複雑なのだよ。
もっと噛み砕いていえば、「A車もB車も優劣つけがたいからどっちも10点!」はダメ。「A車もB車もC車もどれもいいから10点と9点と8点!」というのも、持ち点の25点をオーバーするからペケ。「全部スキだからすべてに加点!」もNG。おのずと、もっとも高い評価をしたのが10点で、それ以下に差をつけざるを得ないのである。選考する側にしてみれば悩みの種なのだが、なかなか緻密に練り上げられた配点システムだと思う。
ちなみに、輸入車が得票トップだった場合には、それはそのまま「日本カー・オブ・ザ・イヤー大賞」となる。だが、国産車がトップだった場合は輸入車の最多得点の車には、「日本インポート・カー・オブ・ザ・イヤー賞」が与えられるというシステムである。
車種 | 得点 |
---|---|
ホンダ CR-Z | 406点 |
フォルクスワーゲン ポロ | 397点 |
スズキ スイフト | 228点 |
プジョー RCZ | 190点 |
ニッサン マーチ | 67点 |
BMW 5シリーズ セダン/ツーリング | 62点 |
ジャガー XJ | 54点 |
マツダ プレマシー | 51点 |
トヨタ マークX | 26点 |
メルセデス・ベンツ Eクラス・セダン (E350 BlueTEC アバンギャルド) |
19点 |
どれも時代を彩る精鋭ばかりだ(得点は二次選考会の得票)
とまあ、こんなところが「日本カー・オブ・ザ・イヤー」のあらましなのだが、実は内情は複雑である。
まずは、60名も選考委員がいると、趣味趣向や考え方が異なるからだ。「日本の実情に合ってないから車幅1.7m以上のクルマには投票しない!」と持論を展開する人もあれば、「いい車が高く評価されるべきだぜ」と口にする人もいる。
不肖キノシタも選考委員を仰せつかっているのだが、僕の場合は「いい車かどうかなんてクソ喰らえ!」的思考である。売れなくたって、クルマとしてショボくたって、強烈なインパクトがあればいいとしている。
たとえば日本レコード大賞はもっとも歌がうまい人が受賞するのか?と言う疑問がまずある。もしそうだとしたら、音楽の先生やオペラ歌手が連続受賞するわけだよね。
音程は正しいし音域も広い、それ以前に圧倒的に美声だし…。だけど、日本レコード大賞には、光GENJIの「パラダイス銀河(1988年受賞)やWink「淋しい熱帯魚」(1989年受賞)が輝いているのだ。1990年にはなんと、B・Bクイーンズの「おどるポンポコリン」だって受賞したりするのだよ。ポンポコリンだよ、ポンポコリン!つまりインパクト勝負なわけ。
それと同様で、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」は、たんなる“いい車”に与えられる賞ではなく、その年のクルマ社会と文化にどれだけ強い影響を与えたかが選考理由にすべきだと思うのですわ。
かくいうキノシタの今年の配点は…。
でした!
過去には日産の「GT-R」に満点を与えたこともある。トヨタ・アリストやニッサン・セドリックグロリアを最高得点としたこともある。どちらかというとへそ曲がり系だから。僕の得点はあまりあてにしないでね。
まあ、メーカーにとっては気合いの入れ方が凄まじい。賞に輝くかそうでないかは、その後の販売効果に影響するのだからね。広報部ではおよそ1年前からプロジェクトを立ち上げて戦略を練る。長い時間をかけて、選考委員にクルマの良さを理解してもらおうと努力する。
その重みを知っているから、我々選考委員も真剣なんだけどね。
一方で、時代を映す鏡でもある。過去にトヨタの「レクサスLS460 」が大賞に輝いたのは、日本にも本格的なプレミアム時代の訪れがあった。日産の「シルビア」や三菱の「FTO」受賞したのは、時代が走りに飢えていたからである。前人未到の最多得点を記録したトヨタの「プリウス」は、エコ時代の到来を告げる狼煙になった。今年、『ホンダ CR-Z』が受賞したのは、エコスポーツの幕開けを予感させたからである。
さて来年は…?
「レクサスLFA」が最有力候補でしょうね。今から宣言しておきますわ!
「レクサスLFAに10点!」
来年も選考委員に選抜されていたらの話ですけど…。
いやはや今年のF1も白熱した。最終戦のアブダビには、4名のチャンピオン権利者が集結。結局はS・ベッテルが史上最年少王者に輝いた。泣いちゃうんだよね。そりゃそうでしょ。思わず、もらい泣きしてしまいました。来年のキノシタも、ヨーロッパ各地でレースをしていることを祈ります。そして泣きたいものですな!
www.cardome.com/keys/
【編集部より】
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