レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


42Lap 美しくサビに彩られたトラック

アメ車の豪快さが気になって気になって…


1968年式のFord F series(フォードFシリーズ)。荷台に簡易なカバーで覆って、バン風の使い方をしています。これも定番。ステーションワゴンより税制上の優遇措置もあるんですよね。それにしても、ブルーとホワイトのツートンの塗りわけがお見事。ボンネットからサイドに続くラインが,つながっていないあたり、半端な根性では出来ません!


1967年式のChevrolet El-Camino(シボレー・エル・カミーノ)。ピックアップトラックとはいうものの、低くワイドでスタイリッシュですね。日本でも一時ブレイクしました。

実は僕、こう見えて、『アメ車党』なのである。
 “ニュルブルクリンク24時間日本人最多出場記録保持者”なんて肩書きを自慢しはじめて久しくなるし、幸いにして“ニュルマイスター”などといわれて気を良くしている。
 時より「レクサスのキノシタ」を気取ってみたりするからなのだろうが、“ヨーロッパ志向の男”と思われている節があり、どうやらアメ車好きのイメージは希薄らしい。
 ただし、実は僕、こう見えて、『アメ車党』なのである。
 最初に、自分で稼いで買ったクルマは「フェアレディZ」だった。そう、原点はポニーカーであり、和製アメ車として名をはせたそれだ。
 次に生活をともにしたのが、中古バリバリの並行ものの「ポンティアック・トランザムGTA」。そう、ナイトライダーに登場する2ドアクーペ。アメリカンマッスルV8ユニット搭載のスポーツカーである。
 バブルの頃は「ポルシェ911ターボルック・カブリオレ」にも手を出した。ボディカラーは赤。内装は白の本革。そう、製造はドイツであってもそれは国籍だけであって、アメリカ市場を狙って開発されたモデル。実際にアメリカでたいそう良く売れたあれだ。
 数年前には「シボレー・サバーバン」に踏み込んだ。そう、霊柩車のように長いバンである。
 ペタペタのローダウンにして、気分をニューヨーク・マンハッタンにワープさせ、ドドスコドドスコと街を闊歩したものだ。
 さすがにその巨体さを持て余し、短い交際期間ののちに手放したのだが、いざアメ車生活を離れていると恋しさは募ってくる。ほぼ数年の間隔をあけて、アメ車好きの魂が僕の意識の中に芽生えてくる。
 そんな僕は今、ちょうどアメ車禁断症状の最中にいるのだ。

忘れていたそれが蘇る


1971年式のDodgeD100(ダッジD100)。グリーンなんて、ちょっとやそっとのセンスでは選べませんね。そかも、微妙に白っちゃけているところがグッドセンス。サイドマーカーレンズが落ちかけているあたりも○。メッキのバンパーがもうちょっと錆びると、完璧でした。

「やっぱりアメ車が欲しいなぁ…」
 そう意識しはじめるのは、きまってアメリカを旅した直後である。
 先日、オフのトレーニングのために恒例のハワイキャンプをしてきた。するとまた、アメ車禁断症状が頭をもたげる。
 だってそこはアメリカ合衆国第50番目のハワイ州である。アメリカ南部の農村地帯と同様、ピックアップトラックに溢れている。広大な大地をズカズカと踏み固めるように闊歩するその巨大な体を眺めていると、アメリカンピックアップが俄然輝き出すから不思議だ。
 もし仮に、こんな図体の大きなトラックを転がしていては、酔狂のそしりを免れないだろう。だって、ほとんど戦車かトレーラーのよう。乗り込むのだってハシゴが必要なほど巨大だし、そもそも日本の市街地によしんば進入したとしても抜けられるという保証はない。環境意識と資源枯渇問題に唾するかのような無駄の固まりを目にすると、横目でみたくなるというより思いは逆で、その潔さに感服し、憧れの体に寄り添いたくなるのだ。

アメリカはピックアップ天国


Dodge Custom 100(ダッジ・カスタム100)。これも「何もしていない美しさ」とでも表現したくなる作品です。「そろそろタイヤの空気圧を確認された方が…」と心配させるあたりに“じらし”のテクニックも吸い込まれます。

もともとピックアップトラックはアメリカで誕生し、成長しつづけているクルマである。
 原点は古くに遡って、"馬車"の時代だという。
 日本やヨーロッパの鉄道網が古くから整備されたのとは対象的に、アメリカは長い間"馬車"が国民の足として生かされてきた。広い大地に鉄道を張り巡らせるのは困難だし、路面舗装も行き届かない。
 となると、生活の足は、悪路をものともせずに(砂漠のような未舗装路ばかり)、トウモロコシやオレンジを 山積み可能で(主産業は農業)、スーパーでの買い出しにも重宝(一週間分の食材を買いだめスタイルが定着)。オフロードバイクやジェットスキーを積める(週末レジャーも発達)、大きさこそ正義の(国土が広い)ピックアップトラックが発展するのも道理。税制上の優遇措置もある。そもそもガソリンが安いから大排気量低効率なピックアップトラックであっても重宝がられるのである。
 あの力強さは、やや野蛮な国アメリカに似合っているし、カウボーイ生活が長かったアメリカ人にとっては、鉄の馬なのである。
 だから今でも、ほとんどピックアップトラックはガラパゴス化のごとき、アメリカ南部を中心に進化している。NASCARにはピックアップトラックレースなんてものもあって、絶大な人気を誇るのが証拠。アリゾナやテキサスという乾いた田舎町に良く似合う。
 昨今の環境意識の高まりや燃料費高騰、あるいは世界経済の低迷の荒波をもろにかぶった今、ピックアップトラックとて販売減少傾向にある。エコカー税制の向かい風を受けてもいる。だがアメリカ市場での存在感は薄れることはなく、いまだに、年間販売台数の上位はピックアップトラックが独占しているのが実情だ。
 人気筆頭のフォードFシリーズの2010年年間販売台数は52万8000台に達しているというから驚くあまり。リーマンショック前では安定して100万台を売り上げていたと言うから驚異的である。ひとつの車種が100万台ですよ100万台! それに続くのはシボレー・シルバラードが37万台。カムリやアコードといった大衆セダンを圧倒的力業で抑えているのだ。プリウストップの日本とは環境がまったく違うのだ。
 トヨタは「タンドラ」を販売している。しかし、その牙城を崩せないでいる。アメリカ南部は、きわめて保守的なのだ。
 ちなみに、「跳ね馬」といえばフェラーリのことだが、フォードマスタングのエンブレムも「跳ね馬(フラッシングホース)」である。もともとはフォードがその意匠を握っていたのだが、あるときフェラーリが誕生。その性能の高さを誉め讃えたフォードが、「跳ね馬」のマークをプレゼントしたともいわれている。もともと跳ね馬は、アメ車が発祥だったのである。 

サビサビ・ボロボロこそ美学


とても綺麗に仕上がってますね。年式不明ですが、Chevroletですね。下回り付近から、ジワジワと進行してきたサビがいい味を出しています。一度、錆び止めスプレーで抵抗を試みた痕跡が確認できます。「特に汚しているわけではなく、だが汚れていった」といった風情が見事です。


トラックだけじゃなく、セダンだって「美しく錆びて」います。
ボンネットからルーフに流れるサビの大河があまりに感動的だったので、思わずシャッターを押してしまいました。炎天下に晒すこと10年、といったところでしょうか?
それにしても、Cピラーのこぶし大のサビは、どうすれば描けるのでしょうか?バーナーで焙った? ありえる話です。

そんなピックアップトラックのオーラに魅了されてしまったキノシタなのだが、これまた妙なことにそれを、無造作に扱うことがかえって美しく感じるから不思議だ。
 全身サビを浮かせ、ところどころ追突の痕跡を残し、洗車などせずに転がすことが粋に思えてくる。色褪せたステッカーを、今にも剥がれ落ちるように貼るのもテクニックだ。ワックスでピカピカに磨きあげるなんて行為は御法度だ。特にハワイには、そんなクルマが多い。
 塩分を含んだ潮風を受けるという環境のせいもあるだろう。金欠の若者に人気があるという事情がそうさせているのかもしれない。ともあれ、サビサビが基本なのだ。
 先日のこと、そんな「綺麗に」サビさせたピックアップトラックの「美しさ」に見とれていると、なんとサイドウインドーが割れて取り外されていることを発見。だがご丁寧に南京錠で、施錠させていた。窓が開けっ放しだというのにカギをかけるというそのセンスに感服した次第である。
 そしてすぐにヤフオクで、中古ピックアップトラックを検索し、購入計画を思い描いたのである。
 サビサビのピックアップトラックのあまりの多さに驚いたある友人が、まるで新ビジネスを発見したかのように、掌をひとつ叩いてこう言った。
「錆びたクルマばかりです。ここで板金塗装屋をオープンしたら大儲けですね!」
 磨く習慣がないからサビサビだらけなのだ。そんなとんまな発想をしたくなるほど、ボロボロポンコツが闊歩しているのだ。
 まあ言葉はいらない。写真をじっくりとご覧あれ。細部にわたってじっくりとね…

夢は儚く…


Ford ranger(フォード・レンジャー)。ボンネットのサビが密かに進行しています。あと3年ほどで、見事なシミに成長するはずです。

もっとも、帰国してみるとその熱は冷めるものだ。
日本は特に、綺麗に磨く習慣が強いようで、そんな中、ボロボロを転がす勇気がない。よほど強い信念がなければ、その世界に踏み込むことは出来ないのである。
 まずアメ車に踏み込むことに勇気がいる。さらに巨大なピックアップトラックとなると、生活の一部を犠牲にする覚悟が求められる。それにそれをサビサビにするとは…。
 ああ、己の度胸のなさに愕然としながら今日も、洗車場に通ってしまうのであった…。

キノシタの近況

GAZOO Racingの活動計画が発表になりました。ニュルブルクリンク24時間には今年も、レクサスLFAで参戦です。応援よろしく。そろそろ応援に来てみませんか?現地に…!
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
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