レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


44Lap あぶない刑事達…?

いつもは静かな港町も…

実はキノシタの自宅は、神奈川県・南葉山にある。海と太陽以外にこれといった観光名所のないきわめて質素な海の街なのだが、唯一誇れるのは、「葉山御用邸」があること。天皇や皇族の別荘があるってことは、ちょっと気分がいい。なんたって皇室が選んだ地なのだから…。
 ただこの御用邸、いつもは実に静かな佇まいなのだが、年に数回だけ、妙に物々しくなる。皇族が避暑にいらっしゃる時に、おそらく所轄外からであろう警官が加勢にやってきて、厳戒態勢を敷くのだ。
 いつもはひとりだけの門兵が数名に増え、IQの高そうなシェパードが、周囲をクンクンと嗅ぎ回る。接する相模湾沖には警備艇が停泊、近隣の空き地には、くすんだ色合いの機動隊バスがバリアを張り巡らせる。警官の緊張ぶりはあきらかで、いつもは平穏に業務を粛々とこなすのどかな南国配備の警官達も、この日ばかりはなぜか、頬をペシペシと叩いて張り切りはじめるのだ。
 皇族の身になにかあったら一大事だけれど、そっとしていれば皇族がいらっしゃっていることなど伏せていられるのに、過剰な警備がかえって、標的を曝け出していないかと心配になるほどだ。 

古色蒼然たる不吉さで…

先日、アメリカ大統領バラク・オバマが鎌倉に来た時のカット。ご覧のように、パトカーが大挙して警備にあたっていた。青森ナンバーのパトカーも確認。全国から集結してくるわけです。
先日、アメリカ大統領バラク・オバマが鎌倉に来た時のカット。ご覧のように、パトカーが大挙して警備にあたっていた。青森ナンバーのパトカーも確認。全国から集結してくるわけです。

それにしてもあの警察車両というヤツ、古今東西、 古色蒼然(こしょくそうぜん)たる無骨なデザインと色合いが変化することなく代々受け継がれている。それがのどかな港町から、落ち着きを削ぐ。基本的な配色は、黒と白。
金縁の“POLICE”のロゴ追加が唯一の変化だ。
 白黒軍団に隠れるように覆面パトカーもやってくるのだが、当人は覆面したつもりなのだろうが、どこからどう見ても「警察車両でございます」とばかりに、陰気なオーラを発散しているのが笑える。
 その昔は、覆面パトカーと一般車両の識別点は、“88”ナンバーであることだった。それがいまでは、“33”もしくは“55”も珍しくはなく、見分けのポイントにはならなくなった。お決まりだった“サイドミラーの二丁掛け”もはずされていることもある。バックミラー2段重ねも例外があるようだ。それでも、頭隠して尻隠さずで、背後から眺めると、背筋をピンと伸ばした乗車姿勢でそれとわかる。「いやに頭が大きいな…」と思ったらヘルメットをかぶっていたりするので見破れる。だいたいボディカラーからして、覆面パトカー専用に設定したとしか思えないような、くすんだ青だったり、ドブネズミ色だったりするから一目瞭然なのだ。
 覆面パトカーがもはや覆面ではないのだから、だとすると、白黒のパトカーが無骨であってもしかるべし。なんだか不粋で不吉なのである。

けして白黒ではない?

ランボルギーニ・ガヤルドのPOLIZIA。V型10気筒5リッターユニットをミッドシップマウントし、4WD駆動と組み合わせられる。日本のGT-Rパトカーと、勝負したいものですな。運転手のレベルの差で、イタリアの勝ちかも…?
ランボルギーニ・ガヤルドのPOLIZIA。V型10気筒5リッターユニットをミッドシップマウントし、4WD駆動と組み合わせられる。日本のGT-Rパトカーと、勝負したいものですな。運転手のレベルの差で、イタリアの勝ちかも…?

イタリアの街並でみると、ほとんどCMの撮影風景のよう。何かのイベントなのか、スーパーカーを従えてのパレード中なのだが、一番目立っていたのが先頭のパトカーですな。
イタリアの街並でみると、ほとんどCMの撮影風景のよう。何かのイベントなのか、スーパーカーを従えてのパレード中なのだが、一番目立っていたのが先頭のパトカーですな。

幼少の頃、パトカーは世界各国例外なく「白黒」なのだろうと決めつけてきたように思う。ところが、大人になってそれが勘違いであることを知ることに。海外のそれは白黒などではなく、むしろ華やか。ドイツのパトカーは、白字に鮮やかな緑だし、アメリカのパトカーも、白字に深い光沢のブルーである。ざっと見渡しても、白黒なんて日本だけのよう。葬式じゃあるまいし。霊柩車の方がむしろ品がいい。
 イタリアは…?
 先頃、イタリアの珍しいパトカーを発見した。なんとそれは“ランボルギーニ・ガヤルド”だった。その攻撃的なスタイリングを見ただけで、逃亡の意志は削がれることだろう。しかもカラーリングが艶やかで、抜けるような青に白のラインが水平線のよう。
 公僕の遊び心なのか?
 もともと車が派手だから、むしろ開き直ったような目立ち度を高めたかのよう。それもイタリアンセンス。ルーフには近未来的なネオンがキラキラと輝いており、イタリア版「西部警察」か、もしくはイタリア版「マイアミバイス」の劇用車のようないでたちなのだ。“POLIZIA”というロゴさえなければ、2011年のランボの新色かと見紛うばかりの華やかさなのである。こいつに追っかけられたらもはや戦意喪失はあきらか。観念して路肩に停まるしかなさそうである。

ドライビングすらも上級レベル

先日のこと、ニュルブルクリンクでのレクサスLFAテストの帰国日に、フライトまでの時間を持て余し、フランクフルトの街に繰り出した。そのとき見かけた、暴走車の走りが凄かった。
 それはメルセデスEクラスであり、うぐいす色に塗られていた、一見大人しいセダンなのだが、石畳の交差点を、タイヤが“ギャー”と鳴くほどの速度でかっ飛ばしていたのだ。
 しかもドライビングスタイルがヤバかった。ドライバーは片手を開け放った窓の外に、まるでバックでも小脇にかかえるように伸ばしていた。助手席の若者はシートバックを寝そべるほどに倒し、やはり両手をだらりと窓の外に。まったく無謀な若者はどこの国にもいるものだと眉をしかめたら、現地在住の友人が一言。
「あれ、覆面パトカーだから…」
「えっ?」
 背筋をピンと伸ばした正しい姿勢をしつけられている我が国の公僕とは裏腹に、ドイツの彼らは、あぶない刑事的な、たかさん(舘ひろし)とゆうじ(柴田恭平)なのだ。薄ら笑いを浮かべながらむやみに発砲してきそうなヤバさがあった。一見したところ、ドライビングスキルは日本の彼らとは次元が異なることはあきらか。日本では極力出逢いたくない対象の警察車両なのだが、こんなのだったら一度は捕まってみたいものだと、不謹慎にも想像してしまったのは僕だけだろうか?
 正義の味方であって欲しい(?)警察車両が、せっかくの街並を深く沈んだ空気にさせるのはいかがなものか、と思う。それも抑止効果というのだろうか、庶民の味方ならぬ敵に思われてしまうのは、こんなくすんだセンスと警官の威圧的な態度によるものだろう。だいたい昔から、正義の味方は派手なはず。それが正しいことは、ウルトラマンやドラえもんが証明してます!
 ガヤルドに対抗して、日の丸を模した「紅白」カラーのレクサスLFAなんてどうでしょう?
 あっ! 世界限定500台。すでに完売でした!

キノシタの近況

東京オートサロンについで大阪オートメッセのイベントも大盛況だった。連日にわたってステージ出演が目白押し。だかどそれは心地良い忙しさで、ファンのみんなと時間を共有出来たことの喜びは格別だった。GAZOOの基本理念のひとつである「語り合う楽しさ」を実践できたことだと思う。というわけで次は名古屋でイベントを計画。 『名古屋オートトレンド』でもGAZOOブースを展開します。もちろんキノシタも出演です。ぜひお逢いしましょう。
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
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