レーシングドライバーを目指そうと腹に決めたのがいつだったか、はっきりとした記憶がない。
子どもの頃、男の子の大半が憧れる乗りモノといえば『軍事モノ』である。キノシタも例外ではない。「戦闘機」「戦車」「軍艦」のそれぞれ手を出したのだが、最終的に落ち着いたのが『戦車』だった。プラモデル屋でせがむのは、第二次世界大戦で共に砲身を向き合わせたドイツ軍重戦車「タイガーI型」とイギリス軍の戦闘重機「チーフテン」と決まっていたらしい。いまでも実家に残る残骸でそれと知る。
同盟軍のタイガーI型をむんずとつかんで、敵対する連合軍のチーフテンめがけて落下させ、チーフテンの砲台やら機関砲やらがポキリと折れるのを喜んでいたというのだから、ガキのくせに母国愛と時代認識は長けていたというべきだ。おそらく招集令状を手にしていたら、戦車第2師団戦車第3旅団戦車第6連隊あたりを志願していたであろうことは間違いない。オヤジがせっせと組み立てたそばから破壊していたというから、今でも垣間見える破壊願望は、その頃からの名残である。
そんなキノシタは戦車に乗ったことがある。といっても出生は終戦後だから、実践配備されたのではない。取材にかこつけて訪れた自衛隊駒門駐屯地で、日本製の「74式戦車」で荒れ地を激走したことがあるのだ。
「74式戦車」は1974年に開発されたものである。形式名はデビュー年号を表す。のちに開発された「90式戦車」とともに、いまでも現役で活躍する戦車なのである。
これが凄いの凄くないのって!戦車に乗って無感動なやつはひとりもいないとは思うが、基本は殺りく兵器であるわけで、まるで抜き身の刀を素手で握ったかのような戦慄が背筋を走った。
74式戦車は4名の乗員によって構成される。弾撃ちの「砲手」、そして弾薬を装填する「装填手」の2名は戦車の中に潜ったままだ。外気に触れられるのは、砲塔の頭のハッチを開けて顔をのぞかせることのできる「車長」と運転手たる「操縦手」だけである。
乗って納得したのは、いまさらながら兵隊さんの苦労である。ともかく「うるさい」「臭い」「狭い」の三拍子がものの見事に揃っていた。
エンジンはV型10気筒の740馬力仕様。となると、まるでレクサスLFAばりの天使の咆哮を連想するが、「2サイクル」である。しかも「ディーゼル」だ。
そんなだから騒音たるやけたたましい。
「エンジンを始動させますから、ヘッドセットをしてください」
そううながされて耳当てをしたのだが、それでも鼓膜をつんざく爆音が凄まじい。肉声での会話など不可能だから意思疎通の手段としてヘッドセットがある。ともあれ、その機能すらあやしかった。
ズドドド…バリバリ…!
「あの、これは●△※♥♯…ですか?」
「はあ?それは×▲□♪…です」
ほとんど会話になりゃしない。
2サイクル+ディーゼルだから、白い排気が艦内に進入してくる。潤滑系オイルの匂いも充満している。ヘッドセットだけでなく、ガスマスクも欲しかった。
どんだけ狭いって、人間の生存空間は完璧に犠牲にされている。
砲塔から艦内に入るのは、小さなマンホールよりも小さな穴に潜り込む感覚である。両手をハッチの淵にかけて、体重を支えながら穴ぐらに落ちるようにして艦内に入った。
「足場はここ?」
「それは砲弾です。足がぶっ飛びますよ!」
「ここにつかまっていいですか?」
「それは弾薬です」
「これは?」
「砲塔が回転しますよ」
並んだ弾薬と大砲が空間のほとんどを占領しており、余った隙間に人間がいるって感覚である。巨大なエンジンの中に、小人のように人間が潜り込んでしまったかという感覚である。体の脇で、丸太のような大砲が炸裂するのである。体と武器の間には、それを隔てるフェンスもガードもないから、気を許せば体ごと木っ端みじんである。恐怖におののいた。
「運転席はどこですか?」
「そこです」
「そこって、どこですか?」
「ですから、そこです」
暗がりに目を凝らすと、薄い板と無機質な鉄のバーが見えた。ペダルは見えない。着座の許可を得て座ろうとしたのだが、体操の脚前挙の姿勢で体をスライドさせ、足先で3枚のABCペダルを探し当てるといった要領である。
「クラッチは発進のときだけです。クルマでいうならば、自動変速6速MTです」
ハンドルもバイクのバーである。ミッションも、スーパーカブの延長と考えていい。
「で、前が見えないんですけど…」
「そこから覗いてください」
座ってはじめて、目の前に手鏡サイズの小さなガラス窓があることに気がついた。天地がおよそ10cm。左右が30cmほどのガラス窓が3枚あるだけだ。明かり取りかと思っていたそれが、唯一の外界を目視する窓だったのだ。刑務所の独房だって、もっと開放的である。
「90式はもっと快適ですけどね…」
「どこが進化している?」
「窓にワイパーが装備されています」
「それだけ?」
「シートがリクライニングします」
「それだけ?」
「はい、それだけです」
「これで大地を走る?」
「北からの脅威に備え、北海道に配備されることが多いのです」
「寒くない?」
「防寒具を着込みます」
「暖房器具は?」
「砲弾を凍らせないためのヒーターはありますが、ロウソクに手をかざすようなものです」
「灰皿は?」
「熱源は敵に発見されますので禁煙です」
聞きしに勝る過酷な任務なのである。
「北海道の訓練は三昼夜連続ですが、箱があるだけいいですよ」
「箱?」
「戦車です。この部隊でなければ、雪原に野宿ですから…」
お国を守る以前に、戦車は隊員を守ってくれているのだ。
そんな悪環境で戦う隊員と接しながら、ふと、レーシングドライバーと同意の感情が芽生えた。
戦うことが最優先されるという意味では、戦車もレーシングカーも大きな違いはない。防衛とエンターテインメントでは精神に天と地ほどの違いがあるのだが、「戦う乗り物」という点で共通しているのだ。
「10(ヒトマル)式という最新の戦車が開発されています」
「もっと高性能?」
「エンジンも強力ですが、それよりも軽量にできています」
「軽い方がいい?」
「74式が38トンです。これまでは船で運んでいましたが、航空機で運ぶ必要に迫られました。配備が迅速ですから。その際には、パラシュートをくくりつけ、上空から落下させるのです。ですから軽い方がいいんですね」
戦車も軽量化が生命線なのだ。
「10式は低いのも特徴です」
「シャコタン?」
「という意味ではありませんが、敵に発見されにくくするには、全高は低い方がいいのです」
「草地に紛れられるから?」
「そのとおりです」
"軽く低く"がトレンドなのだ。
コクピットは「うるさく」「臭く」「狭い」。灰皿もないし、ヒーターもない。小さな窓から外をのぞきながら走り回る点ではレーシングカーも同じである。軽く低くも同様である。
兵士とレーシングドライバー。なんだか同業者のような親近感を覚えた。性能優先、ドライバーは耐えろ。そんな要素も同様なのだ。
ということはつまり、いつからレーシングドライバーを目指したのかの記憶が曖昧なのではなく、気付かなかっただけだ。地上の乗り物であるタイガーI型でチーフテンを破壊し興奮したその瞬間がはじまりなのかもしれない。
タイヤ小増さん、タイヤはクルマの走りを決定づける大切なアイテムだぞ。だって、クルマと路面の唯一の接点はタイヤなのだから。
交換の目安は、摩耗状態だろう。溝が減ったらウエット性能は極端に落ちるし、そこまで使った場合、ゴムが硬化して本来の性能がでないからだ。
で、どのタイヤがいいのか?
これは好みによるね。乗り心地重視なのかスポーツ志向なのか、あるいは燃費を稼ぎたいのかでまったく異なってくる。ミニバンにスポーツタイヤを履かせてもメリットは少ない。スポーツカーにエコタイヤでは、せっかくの性能をドブに捨てるようなものだ。クルマのキャラクターに合ったタイヤを選ぶことは必須である。そのあたりは、タイヤショップにあるカタログやネットで判断できるだろう。
さらに絞ってどの銘柄がいいかってことだけど、これもとても難しい問題。クルマによって微細なマッチングが異なるからだ。こっちはポテンザが合うけど、あっちはアドバンがベスト、なんてことがあるのだ。ドライビングの仕方によっても相性があるしね。
ともあれ、タイヤの傾向さえ間違わなければ、大きく失敗することはない。コンマ1秒を争うようなサーキット志向でなければ、ショップのアドバイスに従って問題ないはずだよ。
3月11日に襲った東日本大震災の直後、「被災者受け入れ家庭」に登録した。縁あって、今、福島県いわき市の家庭を受け入れている。谷口麻美(母)、大遂(8歳)、茉央(4歳)、敦己(2歳)。4人家族との同居生活である。親戚が増えたような生活は楽しい。どの子もくったくのない笑顔が可愛いのだが、罪のない言葉に身につまされる。沸騰するヤカンの蒸気を見て「F1(福島第一原発)の3号建屋みたいだねぇ~」。ニュース番組の政治家を見て「枝野かんぼ~ちょ~かん、カッコイイ」。子ども達の意識の中を原発が踏み荒らしているような気がしてならなかった。一刻も早く収束することを願う。
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【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。