レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


54LAP 世界でたったひとつのクルマ…  (2011.8.9)

混血クルマは今日も元気に走ります…

東南アジアの国々を訪れると僕はいつも、『混血クルマ』が街を元気に駆け回る姿に驚かされる。テールエンドにはダイヤモンドマークがくっきりと輝いているのに、抜き去りざまに振り返ると、ヒトデのような五角形のペンタゴンロゴが…。ありゃありゃ不思議…。すっかりギャランだと思っていたクルマがクライスラーに変身していたりする。金髪イタリアンの美女を拝もうと振り向いたらヤマンバだった…てな渋谷センター街系のイリュージョンに出合うわけだ。

もっともこれ、灼熱にやられて頭が混乱しているのではなく、目の錯覚でもない。ギャランとクライスラーを縦半分にブッタ切って、前半分と後ろ半分を溶接させちまった正真正銘のマレーシア国民車なのだ。のっぴきならない事情により誕生した「結合クルマ」なのである。

なんでそんなのが堂々と公道を走っているかというと…。

詳しい事情は本コラム「クルマスキトモニ」の14LAPで紹介しているからそっちを振り返ってほしいのだが、伊達や酔狂ではなく、壊れないクルマに乗りたいという現地の人々の熱い希望なのだ。

自動車先進国の完成車には需要がある。だが、輸入には高率の関税が課せられているから高い。だったらブッタ切ることで「クルマではなく部品」として輸入。通関が済んだ後に、部品と部品を結合させて走らせようという苦肉の策なのである。

ギャランの前半分とギャランの後ろ半分を結合させれば、まんまギャランになるのだが、そうしないところに、何やら複雑な大人の事情が見え隠れするのだが、ともあれ、法の網の目を巧みにくぐった自動車業者の、微笑ましき裏技なのである。

どっちがどっち?車名は?

幸か不幸か、日本で結合クルマを見ることはない。だが、似たジャンルのクルマを走らせたいと思う人も少なくない。関税障壁をかいくぐるためでも、日本車に困ってもいないのに、好き好んで『混血クルマ』に乗ろうという奇特な御仁も少なくないのだから、つくづくクルマスキの思考回路は微笑ましいと思える。かつて、ちょいちょいハヤってすたれた『シルエイティ』なんかはその代表格だろう。

イニシャルDで一躍走り屋が注目された1990年当時、日産シルビア(特にS13)は、走り屋にすこぶる人気が高かった。切れ長のフロントマスクにはシビレたものだ。一方、同じく日産の180SX人気も負けていなかった。特にその、流麗なハッチバックスタイルとムッチリとした女性のヒップを思わせるセクシーなデザインが人気を博したのだ。

偶然にもこの2台、外装こそ違えど基本骨格をともにする「二卵性双生児車」だった。

そんな好都合に、クルマスキ達の遊び心と柔軟なアイデアが黙っているわけもなく、かくして『シルエイティ』と呼ばれた『混血クルマ』が誕生したのだ。
東南アジアの、前後ぶった切りほど過激ではないが、補修パーツとして取り寄せたヘッドライト回りやテールランプ回りを移植するのである。

前がシルビア。後ろが180SX。シルビアの『シル』とワンエイティエスエックスの『エイティ』である。

三卵性ひとりっこ…?

さて、ここから文章を読み進める前に、下の写真を左から順番にご覧いただきたい。
そして想像の翼を羽ばたかせ、車名を当ててほしい。

  • さて質問です。このクルマはなんでしょう?「フェアレディZ?」まずはそう思うのが自然です。ですがそれでは、質問する意味がない…
    さて質問です。このクルマはなんでしょう?
    「フェアレディZ?」
    まずはそう思うのが自然です。ですがそれでは、質問する意味がない…
  • もう一度質問です。このクルマはなんでしょう?むむ、状況がおかしくなってきましたね。180SXのようにも見えますが…
    もう一度質問です。このクルマはなんでしょう?
    むむ、状況がおかしくなってきましたね。180SXのようにも見えますが…
  • バックショットがこれ。和製アストン・マーティンの呼び声が高いスカイラインクーペですな。「で、正解は?」実はこれ、正真正銘の『スカエイティZ』です
    バックショットがこれ。和製アストン・マーティンの呼び声が高いスカイラインクーペですな。
    「で、正解は?」
    実はこれ、正真正銘の『スカエイティZ』です

いかがでした?
何枚目あたりから、感づきはじめました?
どのあたりから、頬が緩みはじめましたか?

そう、このクルマ、「フェアレディZでしょ?」と思わせ、ところが「あらあら180SXに似てるし」と思わせ、そして最後に「なんだぁ、スカイラインクーペじゃん」と思わせるわけである。

正確には、180SXのボディを基本に、フロントマスクをフェアレディZに、リアセクションにスカイラインクーペのそれを移植した代物。だがエンジンは180SXの2リッターターボじゃなくて、フェアレディZのV型6気筒だっというのだから頭が混乱する。思わず目を擦りたくなる作品なのである。

ちなみにこの『混血クルマ』のオーナーは、チューニング業界の重鎮であり、プロの暴走族を自称する稲田大二郎御大の所有物である。

あえて名付けるならば『スカエイティZ』といったところ。遊び心満載なので微笑ましい。東南アジアの『ギャライスラー』ほど痛々しいところもなく、思わず親指を立てたくなる。

メーカーだって混血クルマスキなのだ!

これが「アストン・マーティン シグネット」。アストンデザイナーの筆にかかると、どんなコンパクトモデルも、正真正銘アストンマーチンになってしまうのです。販売価格は3万0995ポンド(約410万円)。iQの3倍です。
これが「アストン・マーティン シグネット」。アストンデザイナーの筆にかかると、どんなコンパクトモデルも、正真正銘アストンマーチンになってしまうのです。販売価格は3万0995ポンド(約410万円)。iQの3倍です。

もっとも、こんなことって亜流でも邪道でもなく、立派なメーカーものにも存在する。トヨタ『iQ』を変身させたアストン・マーティン『シグネット』なんてその代表格。『iQ』をOEMで輸入し、アストン流にモディファイしたのが『シグネット』。それだけで販売価格が3倍に跳ね上がるってんだから、アストンのブランドパワーとは恐ろしい。

スズキの『ワゴンR』が日産『モコ』だし、日産の『ラフェスタ』はマツダの『プレマシー』だし…って具合に、『混血クルマ』だなんて命名するとパクリカーのようだが、もともと不思議でもなんでもないのである。

だったら『スカエイティZ』、取り付けが不自然だけど、これメーカーが本気で造ったら、月千台はいけそう。

あっ、やっぱダメ。そんなことやるなんてアホちゃうか的な遊び心がにじみ出ているところが◎なわけで、巷でチラホラ見かけるようになったら興ざめなのです。そもそもの存在意義を失う。"世界で1台感"がいいのである。

僕が期待しているのは以下の車種。

「iQ-F」(レクサスIS-FをベースのiQ顔)
「ヴィラープラ」(スープラのアストン・マーティン ヴィラージュ顔)
「クワトローガ」(フーガのマセラティ・クワトロポルテ顔)
「ビービーLFA」(レクサスLFAのbB風4ドア)

妄想は膨らむわけです。

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「sushi-one」さんからの質問
アニキに聞きたいことは、レーサーの暮らしです。やっぱりお金持ちってイメージがありますが、みなさん普段どんな暮らし、それからトレーニングをしているのか興味があります。アニキはジャーナリストでもあるので、その辺りも興味深々です。是非宜しくお願いします。

「豪邸に住んで、アストン・マーティンやフェラーリを乗り回して、たまの休日は所有のクルーザーでカジキマグロ釣り…」
映画に登場してくるような典型的なレーサー像ってそんなところだろう。
だがしかし、豊かな暮らしぶりってところは、あたっているようではずれでもある。どんなスポーツ選手でもそうであるように、レーシングドライバーとて収入はピンキリ。豪華な暮らしぶりが可能なのは、ごく一部の成功者だけ。これから伸びようってドライバーは、意外に質素な生活をしている。
具体的に言おうか?
スーパーGTやFポンで長年トップを走りつづけているドライバー級であれば、都内にトレーニングジム付きの一軒家も夢じゃない。契約金は5,000万円以上に達する。(副収入は別)
だが、同じカテゴリーであっても、若手はまだまだ豊かじゃない。契約金1,000万円といったところでしょう。実力次第で明確なヒエラルヒーが存在する。要するに、金を積んでも欲しいドライバーか、将来に期待して投資中のドライバーかで収入は異なるのだ。

クルーザー持ってるドライバーもいるよ。でも、ようやくコンビニでバイトしなくても生活できるようになった、というドライバーもいるのです。

キノシタの近況

 アメリカンモータースポーツの雄、「ラスベガス・スーパースピードウェイ」を走ってきた。マシンは、ナスカー最高峰のカップカー。腹の底にビリビリと響く破裂音にシビレッぱなし。「ナスカー研究会」幹部として、あらためてナスカー参戦の希望をつのらせた次第です。来年オレ、アメリカに住んでいたりして…? 「待ってろ、アンハートJr.!」
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。