上空に黒い軍事用ヘリコプターが二機、ホバリングしていた。サイドドアは大きく開け放たれ、有事であれば狙撃係となるであろう軍兵が、斜に構えた姿勢のまま、我々を見下ろしていた。
その背後に、光沢のない真っ黒な怪鳥が舞った。あるいは海中をゆったりと泳ぐエイのようなそれは、ステルス性能を備えた戦略爆撃機である。水平翼も垂直翼も持たない全翼機であり、敵のレーダーに捕捉されない。そんな物騒な怪鳥が軍用ヘリを抱くようにし、さらに太陽と重なった瞬間、あたりが不気味に暗くなった。
時に世界は、湾岸戦争の真っただ中であった。
もっともこれ、CNNの報道映像でもなければナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー番組でもない。今まさにナスカー最高峰のイベントが開催されるスーパースピードウェイの上空の光景なのである。地上は世界最高峰のエンターテインメントに酔いしれる観客達。上空は戦争の、それである。
横座りした狙撃兵が、眼下に手を振った。するとそこに集まっていたおびただしい数の観客が、一斉に大歓声をあげた。
「USA!USA!」
20万の声がひとつになった。
理由なくキノシタの腕は、鳥のような肌になった。
それはレーススタートの直前に行われる、かくも盛大なセレモニーだった。
ナスカーは、全米の三大スポーツのひとつに数えられている。アメリカンフットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)と並ぶ一大エンターテインメントなのだ。年間で数千万人という観客動員を誇るというのだから、日本の感覚から大きく超越しているのである。
たとえばそのひとつである開幕戦のデイトナ500は、賞金総額約1850万ドル(約15億円)!だという。優勝賞金約150万ドル(約1億2500万円)。たとえば最後尾の43位でゴールしても約26万ドル(約2200万円)だというのだから、絶対に出場したいと願う。出て、トコトコ走って、晩餐でドンペリあける、などというドリームを描いてしまうのである。
実は何を隠そう「ナスカー研究会」という組織を立ち上げて久しい。国内モータースポーツを最高のエンターテインメントに育てたいという壮大な計画の理想の裏では、最後尾でもいいから出て、トコトコ走って、ドンペリしたいとの企みがあるのだ。こんど北米トヨタに企画書送ろうっと!
もっとも、それだけの人気と大金が動くってことは、そんな不埒なドライバーになど参戦許可が得られることはない。金額が凄いってことは、中身も凄いわけで、400km/hに迫る高速マシンが、数センチ間隔で、いや、ときには接触を繰り返しながらバトルを展開するのだ。オーバル格闘技。激しさと興奮は最高潮に達するのである。
だから世界各国の企業が、宣伝広告効果を期待して参画している。そしてその中には、日本人の感覚ではとても想像できないことでもあるのだが、「陸海空」の三大軍事機関がスポンサードしているのである。
「US ARMY」は2008年に、#39スチュワート・ハース・レーシングと3年契約を結んだ。記者会見にはアメリカ陸軍少将が軍服で出席したというから驚くばかり。。「US NAVY」も「AIR FORCE」も、多額の契約金を支払ってナスカーをサポートしているのだ。
つまり、陸軍と海軍と、そして空軍それぞれがチームを応援していることになる。日本でいえば、ホンダの道上龍には「陸上自衛隊」が、日産の本山哲には「海上自衛隊」が、そしてトヨタの脇阪寿一のレーシングスーツには、「航空自衛隊」のロゴがさん然と輝いているようなものである。
しかも話が複雑なのは「NATIONAL GUARD(ナショナルガード)」までが参戦に名乗りを上げていることだ。ナスカー最高のスーパースター・デイルアンハート・ジュニアなどをサポートしているのだ。
ナショナルガードは「国家警備隊」といったもの。軍隊の下部組織であり、各州が独自に抱える「州兵」ともいえる。日々訓練に明け暮れるプロの兵隊が陸海空軍兵とするならば、ナショナルガードに所属するのは、臨時兵隊。日頃はそれぞれが職を持ち、有事の際だけに借り出される存在なのだ。
だから、CS放送の「G+ ナスカー」はこんなことになる…。
「おっと、陸軍と海軍が接近してます…!」
実況アナウンサーが伝える。正式名エネオスSC430を省略して「エネオス」と呼び、エプソンHSVを省略して「エプソン」と呼ぶのだから、「陸軍」と「海軍」と叫んでもなんら不自然ではない。
ナスカー第一人者である解説の福山英朗さんがこう捕捉する。
「陸軍と海軍は、それぞれの持ち味がありますからねぇ…」
「と、いいますと?」
「陸軍はいつも“地道”な攻め方が得意なんです」
「地に足のついた戦い方なんですね」
「一気にジャンプアップするというより、“一歩”ずつ、クルマを進めていくといったスタイルですね」
「海軍はどうなんでしょう?」
「常に、敵の背後に“潜り込む”戦い方を得意とするんですよ」
「成績の“浮き沈み”が激しい?」
「まったく“浮き上がって”こないこともあります」
「空軍はどうですか?」
「こっちは、“視界に入らない”ポジションから、強引に“飛び込んで”くるんです」
「なるほど…」
あくまでレース解説である。
「それぞれのチームの戦略はどうなんでしょうか?」
「今回は情報が漏れてきませんねぇ。“機密漏洩”はありません」
「さ、全車一斉にスタート!」
「陸軍の背後に、海軍がヒタヒタ忍び寄ってますよ」
「やはりバンパーに“潜り込む”戦法です」
「いつも“潜航”したがる…」
「おっと、そこに空軍が接近してますよ」
「バンクの上の方から、“飛び込んで”きましたねえ」
「これも得意なんですか?」
「しかも、敵が油断した隙に一気にくる」
「まるで“ステルス”走行ですね」
これは決して、M1A1エイブラムス戦車とオハイオ級原子力潜水艦と、そしてB-2戦略爆撃機の戦いを実況しているのではない。
「海軍が陸軍を押しています」
「ですが陸軍のマシンは“丈夫”です。1.7トンもありますからねぇ」
「海軍がさらに“深く潜り込んだ”」
「下から“突き上げる”ような状況になっていますね」
「おっと、空軍から“白煙”がまかれています」
「エンジンブローが“煙幕”のようになって、前が見えませんねぇ」
「おっと、空軍がスピン!」
「クルクルと“旋回”してます」
「衝撃で“飛び上がった”」
「うまく“着地”できるでしょうか?」
「陸軍の上に“落下”したぁ!」
「はい、今回は福山英朗さんの解説でお届けしました。また来週!」
ワケが分からないのである。
ナスカー開催日の入り口には、陸海空軍がそれぞれ独立してリクルート用スペースを構えている。戦車や戦闘機の展示で誘い込み、順路に沿って歩くと、出口にさりげなく、「入隊パンフレット」が微笑んでいるのだ。
それだけナスカーが男に、そして若者に人気のスポーツということでもあるわけで、それはそれで力強い。
「ねっ、カッコイイでしょ?軍隊に入隊しませんか?」
そんな道具にされるナスカーは、それだけ絶大な人気を誇る証明なのである。
いや、イニDに刺激された女性?なかなか頼もしいですなぁ。ボクの知り合いに、スカイラインGT-Rの中で一番『400R(R33型GT-R)』が好きだと語る女性がいますが、ワクワクするかぎりです。
趣味趣向も技量もキャリアもわかりませんが、「イニDが好き」で「イカツく」をキーワードにリストするとなると、やっぱりこんなカンジでは?
スープラ、シルビア、フェアレディZ、スカイラインGT-R…。
どれもイカついですね。しかも運転が楽しい。
実はニュルブルクリンクのトヨタガレージには、訓練用のスープラがあるんですよ。それで、コースの下見をしたり、体を慣らしたりするんですね。その時、GAZOOドライバーはみな「やっぱりスープラは凄い。もう旧車だけど、今でも楽しく走れるんだから…」と口を揃える。
だから走り出すと、誰も降りてこようとしない。それが迷惑なんだけれどね。
コリラックマさん、いかが?
ニュルブルクリンク6時間耐久に参戦してきましたよ。飯田章と脇阪寿一とボク、総合9位の成績にもプチ満足したけれど、常勝軍団と同等のラップタイムで周回できたことが嬉しい。それでも勝てなかった、ってことは反省材料だけと、少なくともスピードでは“ポディウム”が見えてきた。今年は手応えアリ!
www.cardome.com/keys/
【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。