新装開店となった『TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL 2011』。『TOYOTA MOTORSPORTS FESTIVAL』から名称を改めたのは、感謝祭の魂を変えようとしたことの現れである。“観客に見せ る”ではなく、“観客と戯れる”ための大英断を文字に変換したらこうなったというのが真相だ。ファンとの一体感にこだわった。つまり、GAZOO Racingの精神と一致したわけである。
11月27日。
あたかも富士山が、この日を祝うためにわざわざ雪化粧した、というように美しい相貌でサーキットを見おろしていた。空は青々と晴れ渡り、11月とは思えないほどの暖かさを寄越してくれていた。
会場に訪れてまず驚いたのは、富士スピードウエイのメインストレートに書き込まれた“メッセージ・ドローイング”だったに違いない。いきなりのトリッキーな趣向に驚いた人も多かろう。
「路面に自由にメッセージを…」だなんて、ニュルブルクリンク以外にお目にかかったことがない。後日、感謝祭の報道をしてくれた多くの記事を拝見すると、ほぼ必ず、この企画が紹介されている。それほどインパクトがあったということの現れだろう。
ここでは、「メッセージ・ドローイング」に込めた思いを、企画発案者として、「自嘲」と「自慢」と少々の「思い上がり」を含めて紹介しようと思う。
感謝祭のその日から遡ること数ヶ月前、何の因果かスタッフの勘違いか、企画会議への出席依頼がキノシタの元に届いた。
となれば臆することなく場をわきまえないのがキノシタの取り柄である。新幹線で名古屋に向かい、名古屋オフィスの厳粛な会議室で、居並ぶ幹部達の前で、これまで温めてきた企画を提案したのである。
提案したというより、放り投げたと表現したほうが正しい。それが実現するかどうか具体的な方策など、はなから頭にはなく、ただただ、ファンとの一体感を得るための手段を口にしただけなのだ。
かくして採用された企画は、良識ある関係者による取捨選択により、5と6だけとなったわけだ。
1から4までは、一笑の元に却下された。鼻で笑われたといったほうが正確かもしれない。
「メッセージ・ドローイング」が僕の中で具体的な形となったのは、想像のとおり、ニュルブルクリンクに訪れ、一周20.8kmのノルドシュライフェに描かれたおびただしい落書きの数々を目にした時である。だが、その瞬間に閃いたというよりも、ずいぶん古くから目にしていた数々の「イタズラ書き」にヒントを得ていたのだ。
観光地を訪れると、どこかには必ずメッセージが書き込まれている。
「なぜ人は、文字を書き残すのだろう…」
素朴な疑問が浮かび、それが消化しきれずにいた。
キノシタの心は淫らに汚れ、少々ねじ曲がっているようで、この手の文言を見つけるたびに、「けしからん!」だとか「無礼者が!」と憤るよりも前に、ひたすら筆者の環境や精神状態を分析したくなるのである。
どれだけ荘厳な神社仏閣も、自然の力を感じさせる景勝地も、こうなったら一切、目にも耳にも入らない。まるで文芸誌評論家のごとく、分析と評論を加えたくなるのだ。
いわくこんな感じ…。
【●●参上!】
きわめて幼稚だが、自分は生きてここに今日きているという、自己顕示欲が満たされぬことの悲しさがよく現れています。問答無用で最多得票決定です。
【I LOVE △△クン♡と幸せになりますように…】
淡い恋心と、燃え盛る情愛が滲み出るようです。同時に、この恋は長くは続かないというはかなさを、実は無意識に自覚している作品です。
【打倒・警視庁!】
暴走族の常套句としても、いささか時代遅れを感じさせます。実際に恨みつらみを積み重ねた当該者ではないと想像できます。抑えきれぬ怒りに突き動かされたのであれば、こんなのどかな河川敷には書かないでしょう。つまり、なんとなくイキがってみた典型です。漢字に間違いがないという稀な作品です。
【BLACK EMPEROR】
スプレー缶を使用し、さらには「ティーンエイジ・ガールズ2」という書体が彩りを添えている場合は、なかなかの達筆者ですね。明朝体ではこれほどの物々しい雰囲気はでません。おそらく授業中に先生の目を盗んで、なんども練習したのでしょう。勉学よりも美学を求めています。文系に進んでいるのであれば、幸せでしょう。
【東日本の復興を祈っています】
いまもっともポピュラーな成句です。心が温まります。できれば、円満寺の境内ではなく、福島の被災地で書くべきでしたね。
【今年こそ東大合格!】
気持ちはわかります。そんな暇があったら勉強しろ、という叱咤苦言を覚悟していますね。3浪はしたくないという意気込みが感じられます。
念のために記すと、あくまで景観を汚す落書きは犯罪である。断じて推奨できることではない。落書きとメッセージはまったく相容れない異質の行為である。という道徳心を前提に分析するのだが、メッセージは自己顕示欲の発露でもあるのだ。これはキノシタなりの分析なのだが、自らの存在を世間に知ってもらいたいという熱い感情が、公共メッセージというひとつのアートとして刻まれるのだと思う。
観光地でそれが多いのがその現れ。
「僕はここにきたのだ」
「僕はこう考えている」
運命を感じたいのである。
とまあ、四の五の能書きをたれてもしかたがないので話を本筋に戻すと、そんな個人が内包している感情を、自由に解き放そうというのが「メッセージ・ドローイング」を企画した理由である。
サーキットの路面に文字を記す、といういわばこれまで許されなかったタブーへの解放である。それによって、心のメッセージが文字となって変換される。
ここで心がつながればと思った次第である。
実は我々関係者は前日の夜、もちろん参加するトヨタ系の全ドライバーがここにメッセージを記した。
脇阪寿一も大嶋和也も、石浦宏明も、もちろん木下隆之も、路面にかがみ込んでチョークを走らせたのだ。歓迎の思いを込めて…。
「またサーキットに遊びにきてね!」
「応援よろしく!」
「GAZOOはみんなのために…」
「今日は、精一杯楽しんでください」
ホスト側のメッセージが歓迎する。
「来年もトヨタ、頑張って!」
「いつまでも応援しています」
「絶対、チャンピオン!」
「ニュルブルクリンク優勝祈願!」
ゲストの言葉に心が温まる。
僕は副産物も求めた。路面にメッセージを記したファンが、いつか富士スピードウエイを訪れた時に、自らが記したその場に一瞬でも意識を落としてもらえれば嬉しいと期待していたのだ。「あの時僕はここにメッセージを書いたんだよね…」と。
いつかテレビでレース映像を観た時に、茶の間の会話のひとつになれば嬉しいとも。「このコースに書いたんだね」って。
運営側の事情からすれば、この企画実行は大英断だったと思う。キノシタの魑魅魍魎とした企画を実行に移してくれたトヨタ関係者にも感謝したい。そこにも強い絆ができたような気がする。
なかなか直球の質問である。思わず筆が止まってしまったわい!
こんなタブー系の質問など、本来ならば、見て見ぬ振りをするところなのだが、タブーに踏み込むことこそ美徳とするのがキノシタの信条である。避けて通る気など、さらさらないわい…(汗)
というわけで答えは決まっておる。最速なのはもちろんこの「俺」である。回答者という特権を振りかざすと、答えはおのずと決まってくる(笑)。長年ニュルブルクリンク詣で積み重ねた、日本人最多出場者であるキノシタが、昨日今日の新参者に負けるわけがないのである。2008年では予選アタッカーを命じられ、見事にその大役を全うしたのがその証拠である。
過去には「予選総合5位」、「決勝ベストラップ総合3位」という、いまだに破られない日本人最速記録を保持しているのだ。どうだ!凄いだろ!
とまあ、いきなり鼻息荒く迫ったのにはワケがある。
実は、今年コンビを組んだドライバーは、どいつもこいつも速い。とてつもなく速い。2009年には、飯田章が予選を担当した。2010年で予選最速を記録したのは大嶋和也だ。2011年は脇阪寿一がそれを担当した。A・ロッテラーは2009年に決勝ベストを記録している。誰もがとてつもなく速い。
コースがコースだから、条件によってそれぞれのタイム差があったりなかったりする。ゆえに、誰が一番速いかを確定するのは不可能だが、1周25kmを超えるこのコースでのそれぞれのタイム差は、コンマ数秒にもならないことがそれを証明していると言えるだろう。
これだけは断言できる。
最速のドライバーでなければGAZOO Racingが契約などするわけがない。
ある平日、鈴鹿サーキットで開催された「ワクドキサーキットを走ろう」にゲスト出演した。コース上では、サーキット走行希望者が自由にスポーツ走行を楽しんでいた。エコチャレンジが開催されていた。
するとちょうどお昼頃、グランドスタンドに、小学校低学年生とおぼしき子供達がワイワイとやってきた。そしておもむろにお弁当を広げ、母の味を頬張りはじめたのだ。そしてすべてをたいらげると、スタンドを運動場にみたてて走り回りはじめた。学校の、日帰り遠足のようなものだったのだろう。
サーキットとお弁当と、そして運動場。この、けして混じり合うことがないであろうと決めつけていたすべてが同居している事実に驚かされた。彼らの生活の一部にサーキットがある。鈴鹿サーキットは素晴らしい。
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【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。