僕が歴史上もっとも過激なモータースポーツだと確信するレースが、以前、イギリス・ドニントンサーキットで開催されたことがある
その名は『BTCCシュートアウト』。
当時、全世界でシリーズ展開されていた「2リッター+セダン」を素材にしたスプリントレースなのだが、BTCC(ブリティッシュ・ツーリングカー・
チャンピオン・シップ)を戦ってきたマシンとドライバーが、真の王者を決定するために行われた特別な一戦だ。
選手権とは別の、独立したエキシビジョンと
いった格付けだった。最終戦を終えた後だったから、“よしんばマシンが大破してもかまうこっちゃない”といった理由もあったのだろう。バトルがそこここで勃発。クラッシュ多発。怪我人がでないのが不思議なほどの過激なレースが展開されたのだ。
実はこの頃、僕はイギリスに腰を据えて走っていたことがあった。日産プリメーラ(BTCC仕様)の、エン
ジン開発テストを担当していたのだ。翌年の参戦も視野に入れての開発業務だった。だけど、現地でこれを観戦していた僕は、あまりの刺激に腰を抜かしかけ、おもわず後ずさりした。
「こんなところに踏み込んだら、体がいくつあっても足りないぞ!」
ブルブルと膝が震えたことを記憶している。
「シュートアウト=Shootout」直訳すれば銃撃戦といったところか?
実はシュートアウトの名はBTCCだけでなく、ナスカーでも使われている。北米アイスホッケーやバス
ケットボールでもその名を目にする。いわばサドンデス方式。締まりの悪い同点引き分けゲームを回避するための、特殊な延長戦方式のことを指し示すようなのである。“白黒つけようぜ”ってワケ。BTCCのシュートアウトは、その発展系である。
『BTCCシュートアウト』のルールは単純である。
まず予選が行われ、速さの順位を決定する。だがそれが正規のグリッドにはならない。すべての順位を逆にしてスタート位置とするのだ。つまりリバースグリッド方式である。
そう、『BTCCシュートアウト』を目にしてまずたまげる最初のポイントは、すべてのマシンが逆グリッド対象車であることだ。つまり一番遅い奴がポールポジション(PP)からスタートし、もっとも速い奴が最後尾からのスタートとなる。
しかも、だ。スタートが切られて5周が経過した時点の、最後尾から数えて5台をレース除外とする。スタート&ゴールラインを横
切った瞬間の下位5台は、そのままスゴスゴとうなだれたままピットに戻らなければならない。あえなくレース終了なのである。“遅い奴は去れ!”なのである。
さらに過激さは続く。その翌周から毎周、最後尾のマシン1台がレースから除外されていく。次の周も1台、その次の周もまた1台と、ビリは首を切られていくのだ。そこでは速さこそ正義なのだ。
となると、次第にコース上のマシンが減ってくるのだが、残り5台に絞られた時点からレース除外方式は終了し、最後は、残った5台のマシンによる5周の超スプリントバトルが展開されるのである。
つまりこれがどう言うことかというと…。
予選で最速だったドライバーは、毎周につき最低1台は抜いてこなければならないことになる。じっくり先を考えて待つ、なんてことは許されない。スタート&ゴールラインに最後尾で戻ってきてしまったら、その場でレース除外なのだから、常に攻めのレースが強いられるのだ。
よしんば最終コーナーに、最後尾でやってきたとする。そのままテール・ツー・ノーズでクリア?まさか!そのまま立ち上がっても、どうせレース除外の憂き目なのだ。クラッシュ覚悟でパッシングを試みるしかない。ほとんど尻に火がついた“カチカチ山のたぬき”である。
ちょっとでも隙間があれば、ノーズをねじ込んでくる。隙間がなくても、ドアをこじ開ける。およそパッシングは不可能と思われる距離であっても、まるでパトリオットのようにノーブレーキで突入する。それしか術がないのだからしかたがない。おのずとそこは修羅場と化すというわけである。
運良く最後尾を免れてメインストレートに戻ったとしても、今抜いたばかりのマシンはレース除外だから、せっかく抜いてもまた最後尾である。だからまた抜かなければならない。という繰り返しなのだ。
PPからスタートしたドライバーも安心などしてはいられない。つまりそのマシンはもっとも遅いわけで、背後から速さで優る猛者どもに防戦一方だ。前半の数周はレース除外を免れても、のちには自らがカットオフの対象になるわけで、やはり毎周が、まるで最終ラップのような攻めに耐えるしかない。緊張感は永遠に続くのである。
それが、抜きどころの多いドニントンサーキットで開催されていたのも妙である。特に最終コーナーと、そしてその手前のコーナーはタイトなヘアピン形状でもあり、接触を誘発しやすい。観客の多くが定番の1コーナーではなく、最終コーナーに鈴なりになっていたのはそれが理由だ。
ちなみに、予選に多額の賞金が準備されており、予選で手を抜く人など誰もいなかった。むしろ、観客の目線は最後尾スタートを強制された悲劇の最速ランカーに集まるわけで、いわば名誉である。誰もが予選を全力で戦っていた。
そんなBTCCシュートアウトの流れを汲むのが『WTCC世界ツーリングカー選手権』である。イギリス、ドイツ、イタリア、フランス、ブラジル、ベルギー、スペイン、ポルトガル…。そういったモー
タースポーツ先進国それぞれで選手権が成立していたそれを、世界選手権に昇格させたのが『WTCC』だ。
1日に、レース距離50kmのスプリントが2度行われる。第1予選(Q1)上位10台を逆グリッドとして第2レース(R2)のスタートグリッドとしている。シュートアウトの面影が色濃く残るのだ。ああヤバい!
昨年までは2リッターマシン規定だったのだが、今年から「1.6リッターターボ」になった。小排気量をターボ過給圧で補うから、コントロール性は相当に悪い。つまり、思いどおりドライビングすることが困難だ。
よって接触多発。毎戦、熾烈なバトルを展開しているのである。
参加マシンは、最速シボレーと対抗BMW、そしてセアト、ボルボ。
僕はCS放送「GAORA」でWTCCのレース解説を仰せつかって長いのだが、まったく飽くことなくいつも展開される過激なバトルにはほとほと呆れるばかりだ。僕はこれを『ケンカバトル』と命名した。シュートアウトの精神と流れを汲んでいることはあきらかであり、平凡に終わったレースなど記憶にない。
時には5台横並び状態も少なくない。道幅が4台分だけであっても、だ。過去には、ペースカーに激突!なんてこともあったほどである。チーム間の確執も表面化する。『ケンカバトル』とはまさに言い得て妙であると、自画自賛している。
そのレースが今年も日本にやってくる。2011年10月21(金)~23(日)まで鈴鹿サーキット東コースを舞台に展開されるのだ。もちろんGAORAでもライブ放送する。
Y・ミュラーとR・ハフのチャンピオン争いはヒートアップしている。大人気のT・コロネルも第2の故郷への凱旋である。今シー
ズンレギュラー参戦している谷口行規は最強シボレーで凱旋
レースを迎える。ラリーストの新井敏弘もシボレーでのスポット参戦になった。吉本大樹はセアトで初参戦。毎年日本戦に参戦しつづけている狩野政樹は、慣れ親しんだBMWでの挑戦となる。話題は豊富なのである。
もっとも個人的には、あの過激な猛者たちが、鈴鹿をどう攻略するかを楽しみにしているのだ。東コースは抜きどころのないサーキットとされている。といっても、彼らが大人しく隊列を整えたまま周回するとは思えない。無理矢理ドアをこじ開けてくるに違いない。S字カーブをショートカットする人が、かならずいると思う…。ヤバッ!
最近のレースは、接触に対して神経質になっている。F1しかりスーパーGTしかり、無用な接触に対しては厳しい制裁が科せられる。萎縮しながらドライバーは戦っているのだ。だが、それはそれで、攻め度が誘引されるという罪がある。
WTCCに無用な縛りはない。あるのは闘争心だけだ。鼻息荒いレーシングドライバーの鼻先に大金をちらつかせれば、おのずとこうなるという典型的なケースだろう。もし問答無用の「ケンカバトル」が観たかったら、WTCCは見逃せないイベントだと思う。
タカヒロさん…。キノシタにラブソング?プロポーズに相応しい歌?聞く相手、間違えてない?色恋沙汰にはからきし無頓着なオレ、運転にはちょっと自信があるけれど、女心に関しては不得手なのです。好きこそものの上手なれとはいうけれど、女性は好きでもこればっかりは…(笑)
ちなみにキノシタの音楽趣味は雑種系です。サザンやチューブの湘南サウンドはもちろんのこと、兄弟船(鳥羽一郎)や君に恋してる(坂本冬美)の演歌系、はたまたレッツダンス(デヴィット・ボーイ)の洋楽系、そしてアイネ・クライネ・ナハトムジーク(モーツァルト)まで、なんでも聞きます。彼女とドライブの最中、クローズ・ユア・アイズ(長渕剛)を大音量で響かせて、ドンビキされたこともあったっけ!
そんなキノシタのお気に入りは、DEENのアルバム『グラデュエーション』です。爽やかな池森サウンドが心地良いのです。ドライブにはもってこいだと思うよ。「このまま君だけを奪い去りたい」や「瞳そらさないで」も聞ける。
なかでも「NEXT STAGE」は次の未来を前向きに語っているから元気が沸く。作者が語ろうとしているのは仲間との友情なのかもしれないけれど、彼女との将来のことに置き換えてもいい。ともかくDEENサウンドは彼女とのドライブに最適だと思う。今度、感想とプロポーズの結果を報告してくださいな!
ドイツのサーキットで心温まるメッセージを発見した。とあるポルシェのリアウインドーに、東日本大震災を悼む言葉が貼られていたのだ。ドイツ語と日本語で…。「ご冥福をお祈りします」。ちょっとニュアンスが違うけれど、気持ちだけは伝わってきました。ありがとう…。なんだかその
チームを応援したくなりました。
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【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。