またまたタクシーの話である。
「またまた…」という書き出しで始めたのは、当コラム37LAPで同様の「タクシー最高!」ネタを披露しているからである。
そう、キノシタはタクシーが大好きなのである。正確にいうならばタクシーという物体に対してではなく、そのサービスに惚れ込んでいる。日個連や全個連といった組織に所属する個人タクシーのトレードマークである「提灯」や「でんでん虫」にも哀愁を感じるのだが、タクシーの存在そのものに恋していると断言しても過言ではない。
これほど、キノシタの社会活動に役立つ乗り物はない。特に、アルコールを少々、およそ焼酎一升ほどたしなむ身としては、これ以上に便利な乗り物など見当たらないのである。
もともと歩くのは最長でも50mまでと決めている。となれば自転車かスケボーがその代行となる。実際に数年前まで、スケボー通勤していた時期があるのだが、諸般の事情により今ではそれもままならない。
ほかには、地下鉄も足代わりとなるのだが、大の電車嫌いであるから始末が悪い。東京で半世紀も生活しているのに、地下鉄の路線図などはまだ、魑魅魍魎とした元素配列を解読するに等しく嫌悪感がある。まして路線バスなどは、その意味さえ疑っている。「自動車産業の関係者ゆえ、クルマの生産増に貢献するためにタクシーに乗る」とは詭弁だが、「移動はかならずタクシーで!」は「蕎麦はかならず日本酒で!」と同じくらい“=”で結ばれる関係だ。
もはやタクシー移動を己の信念としているほどなのだ。信念では大袈裟というならば、“流儀”でも“タクシー道”でもいい。
どれだけ“アンチ公共移動手段派”であるかについてだが、たとえば都内の呑み会ではかならずホテル泊を基本としている。クルマでやってくるからだ。泊まって帰るしか術がないのだ。「ワンメーターの距離だと運転手も気分を害するだろうから、酒宴の会場は宿泊ホテルから遠ざけてね」とお願いするほどタクシー移動にこだわるのだ。興味本位で買ったsuicaは、追加チャージの形跡もない。例外は新幹線だけだ。
これでも時にはお歴々の接待系酒宴に誘われることがあるのだが、さんざん酔っぱらい、いいたい放題くだを巻き、千鳥足で店を出た瞬間に至福のときが訪れる。
最低でもクラウン。できればレクサスLS。高級モデルを走らせる個人タクシーに手を上げる。そして自動で開かれたドアをくぐるようにしてどっかりとシートに腰掛ける。そのときに「これをお使いください」だなんてタクシーチケットを手渡されたら、おもわず声がうわずる。あるとき手渡されたチケットは、1万円以上でも使用可能なもので、金色でデザインされていた。その神々しいこと。神棚に飾っておきたいほどである。
閑話休題。
キノシタにとってタクシーは、そのサービスこそが魅力であり、物体が対象ではなかった。
ただし、これだけは別。かの大英帝国の中心街を自在に走り回る“ロンドンタクシー”だけは、クルマとしての完成度に惹かれるのである。
ロンドンの街は混雑している。コンジェスチョン・チャージ・システム、いわばロードプライシング制度によって通行料金が課金されるのだが、それでも交通渋滞は激しい。だから、いったんホテルにチェックイン、クルマを預けたあとは、ロンドンタクシーを満喫することを勧める。
何が凄いって、タクシー専用に開発されているから凄いのだ。乗用車を転用したわけではなく、目的が、問答無用の例外なきタクシーユース。写真のような背の高いフォルムになったのは必然である。幅よりも高さが優っている。
乗り降りには、ちょっと膝を折る程度でいい。
後ろの席はやたらに広い。3列シートのミニバンの2列目を取り外したと思えばいい。3人掛けのシートがドデンと鎮座ましましているのだ。床が完璧にフラットだから、奥座席への移動も容易だ。いったん室内に乗り込んで、車内で入れ代わることもできるくらいの空間が確保されているのはありがたい。子供だったら3時間は遊べる空間である。
それでも、その2列目の位置に、後ろ向きの折りたたみシートがある。それを引き出せば最大5人での移動も可能なのである。家族だったら1時間は楽しく過ごせる。
運転席とはアクリル板によって完璧にセパレートされている。
支払いは、小さな小窓を介して行われる。それがどこかVIPリムジンに送迎されているようで、気分はバッキンガム宮殿に居を構える王族である。
ロンドンタクシーはもともと、英国コンヴェントリーにあるLTI社(ロンドン・タクシー・インターナショナル社)が生産販売を行っていたのだが、株式のほとんどは今、中国の吉利汽車に渡った。パーツの生産は中国に移行され、組み立てのみを英国で行っている。
その歴史は混沌としている。かつてはローバー製のエンジンを積んでいたと聞いているが、ローバーの凋落によって日産製ディーゼルエンジンに載せかえられた。いまは三菱製エンジンだ。日本へは、岩井モータースを経由して行われているから、日本で乗ることも可能だ。
発祥は英国。生産は中国。エンジンは日本。これほど血筋が入り乱れたというのに、どこからどうみても国籍は英国であるところが凄い。もっとも、かつてはロールスロイス風の格調高いルックスだった。それが現行のようにややモダンになった。それを嘆く英国人も多いらしいが、極東からの旅行者の目には十分格式を感じることができる。
環境汚染に悩まされているロンドンのことだから、いっそのこと、トヨタ製ハイブリッドでも搭載したらどうだろう?トヨタのiQだって、アストンの筆が入るとジェームス・ボンドになる。姿形は英国センスを投入してもらい、中身だけを最新の環境エンジンに載せかえるのは妙案だ。無音で走るロンドンタクシーなら、傾きはじめたビッグベンの音色も優しく響きそうである。
大まかなスペックは以下の通り。
全長×全幅×全高:4566mm×1783mm×1823mm
エンジン:三菱製 直列4気筒2.4リッター
最高出力:152ps
最大トルク:21.6kg-m
最小回転半径:4.27m
販売価格:368万円(日本)
はっきりいって、乗り心地はそれほどいいとはいえない。
広さだけが機能的な取り柄だ。ただし、進化の途絶えたモデルなどではまったくない。先の2つの写真は現行型モデルで、より格式漂う旧型からのフルモデルチェンジがなされているのだ。
実は今年の春、欧州のとあるテストコースでレクサスLFAレース仕様の開発をしていた。本格的なサーキットや、永遠に300km/hオーバーで周回可能なオーバルコースも備えた超本格的なテストコースだった。そこには世界の開発車両が集結していたのだが、ポルシェ911GT2やメルセデス・ベンツや、あるいは今をときめくランボルギーニ・アヴァンタドールLP750など発売前のスーパースポーツに混じってロンドンタクシーもタイヤを鳴らしていたのである。
「えっ、最高速テスト?」
テスト内容は不明だが、ともかく、過激なフィールドでテストが繰り返されていたことは事実である。
ちゃ~んと造っているのである。
もっとも、僕にとってはそんなことは二の次だ。ここが最大の魅力なのだが、運転手の質がとても高いのである。
なんでもタクシーの営業許可を取得するには、厳しい試験を突破する必要があるという。住所を聞いただけで、目的地に辿り着く必要があるらしい。カーナビも地図も見ずに、だ。接客にも厳しい試験があるという。
「イズ・ゼア・エニー・ジャパニーズレストラン、ニアヒア?」
流暢なカタカナ英語で伝えたら、けして聞き直すことなく即座に最良のレストランを案内してくれた。キノシタの発音は完璧なのである。
きちっとした制服を着ているわけでもないし、どこかルーズな雰囲気も漂うのだが、なぜか心落ち着いてしまうのは、英国紳士であるがゆえか、はたまた土地勘のない不安からだろうか?いや、キノシタが熱狂的なタクシーマニアだからだろう。
ロンドンタクシーが日本にないことが不思議である。アメリカにはイエローキャブがあり、英国にはロンドンタクシーがある。日本には、でんでん虫と提灯だけなのが不思議でならない。
KTY48さん…。
ハンドルネーム、なんの略だろうね…。
ところで、「カスタマイズしやすいクルマ?」
そりゃたくさんあるでしょ。アルミホイールやタイヤの交換といった基本中の基本なら、どのクルマでも可能だしね。エアロだってサスペンション系だって、たいがいの商品が市場に出回っている。
キノシタ的にはまず、アルミホイール交換は必須。車高もチョイ下げる。タイヤはツライチが基本。太くなくてもいいから、フェンダーとの隙間を可能な限り狭める。それから…。
後は好み次第なのだが、アウトドア仕様というとちょっと悩ませられるね。ただし、もしKTY48さんがアウトドア派ならばなにも悩む必要はない。マウンテンバイク趣味ならアタッチメントを装着するだけで立派にカスタマイズとなる。キャンプ派ならば、仮装も楽しいだろう。
実は昔、自家用のワゴンのリアバンパーに、ボート牽引用のフックをつけていた友人がいた。「クルーザー所有してますって錯覚してくれるかと思ってね」だってさ。それもカスタマイズ?
「ガソリンスタンドにやってきたクルマ」。つまりなんでもないカットです。でも、とてつもなく不自然です。「いらっしゃ~い!」と威勢良くやってきた店員さんも、それと気づくまで数秒を要しました。最後まで気づかなかったのは、給油マシンだけです。「給油口を開けてノズルを…」なんども繰り返していました。ちょっとしたイタズラ心が芽生えたわけです。
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【編集部より】
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