ダックスフント(Dachshund)は、アナグマを表す「Dachs」と、犬を表す「Hund」のドイツ語を合わせたものだという。土穴に潜っているアナグマを狩猟する目的と、負傷した獲物を救い出すため、農夫が改良した犬種だという。
モグラが行き来するような穴蔵に潜り込むには、細く筒型の胴体と、短い足が必要だった。その胴長短足の姿形は、神様の洒落でもなく愛玩のためのデザインではなく、実益に迫られたことで完成したものである。
じゃあ、同じく胴長短足の「ストレッチリムジン」はどうかといえば、巷溢れるメルセデスやマーキュリーやらの巨大なこれらは、突然変異でも偶然でもなく、要求に対応することで得た必然であろう。豪華絢爛、満艦飾のごときキラビやかであり無駄に広大な車内は、そこには需要があるということだ。
ドイツではふつうの乗用車のことをリムジン(Limousine)と呼ぶ。一方アメリカでは、運転席とリアシートに隔壁をもうけ、プライバシーを確保した形態をリムジンと呼ぶ。ことさら長さを求めた改造版リムジンを「ストレッチリムジン」と識別している。
室内は、豪華極まりない。大勢乗るというより、少数がゆったり座るのが目的だから、シートは2座、もしくは真横に長いベンチシートが括りつけられている。その他の余ったスペースには、ワインセラーやオーディオや、あるいは過去にはジャグジーまで備えたというから、まさに動く道玄坂ラブホの趣である。便器がないことが、不思議なほどである。
なぜかハワイでは、この手のクルマが大手を振って闊歩している。そこがラスベガスであれば、VIPの愛車として意義が見出せる。ジャックポットで大金せしめたあかつきには、リムジンにふんぞり返ってトランプスイートでワイン三昧と洒落込みたいもの。だが、わざわざハワイでそれに乗る理由が立たない。相変わらずハワイは日本人観光客で賑わっている。つまり、ストレッチリムジン・レンタカーの優良顧客は日本人なのだろう。
新婚旅行の思い出に…ってな理由が大半なのだろう。
実はストレッチリムジンは、実利ではなく洒落の世界でも話題が少なくない。米国トヨタ販売は昨年のSEMAショーに、サイオン『xB』(和名カローラルミオン)のストレッチリムジンを発表した。全長が1,220mm伸ばされているというから、ダックスフント似である。
英国日産は昨年、7台もの廃車を継ぎ足したリムジンをお披露目した。といっても発売する気はなく、旧車から新車に乗り換える促進プロモーションの一環だという。
全長は11mにも及ぶ。故意に継ぎはぎだらけに仕立ててあるから、とてもVIPがのるような代物ではないのだが、巷の視線を釘付けにするであろうことは明白。話題性は満点だったという。
そんなストレッチリムジンに、先日、初試乗することになった。試乗と聞いて、迷わず運転席に回り込むのは、長年の貧困生活で染み付いた悪しき習性による。
運転感覚は、はたから想像するほど不自然ではない。内輪差でゴリゴリやりそうなのだが、意外にも最初のカーブをひとつ曲がっただけで、すぐさまコツが呑み込めた。
昨年5月のこと、米国オバマ大統領がアイルランド訪問中、氏を乗せたキャデラック「プレデンシャルリムジン」がまさかのスタック。米国大使館を出ようとした時、約8トンという重量とロングホイールベースが災いし車体の底が段差に干渉、亀の子状態になって立ち往生してしまった。その様子はユーチューブで世界発信され、大恥をかいたのだが、注意点は内輪差ではなく亀の子状態である。
なかなか慣れなかったのは、後席の乗員との隔たり感である。あきらかに遠い。会話が成り立たないほど遠いのだ。
「次は、どこに曲がる?」
怒鳴るようにして、大きな声を出した。
「ズケ丼、召し上がるか、って?」
まったく会話にならないのである。
しびれを切らしてリアシートに座ってみたものの、落ち着かないことこのうえない。投げ出した足は、どこかに突き当たらないと所在がない。
一度だけ、何かの間違いで機上してしまったファーストクラスでの、手持ち無沙汰の11時間フライトを思い出した。
改造手法はしごくシンプルである。ホイールベースの中央に電動カッターの刃をあてて、勢いよく切断する。その失った中央部分を補うために、梯子型の鉄棒をはめ込む。
鉄板を貼付ければ形は出来上がる。プロペラシャフトや電気配線も、伸ばしたいだけ伸ばして組めばそれでできあがりなのだ。
タイヤは前端後端にある。ホイールベースが伸ばされたということは、よほど補強しないと、まるで橋桁が中央で陥落するように折れる。したがって入念な補強の分だけ、重量がかさむ。
「一生に一度くらい乗ってみたいものだね」
そう言ったら、取材に応じてくれたストレッチ業者の社長さんがこう言った。
「誰でも一度はお世話になるんですよ…」
実は国内外にストレッチリムジンを専門に架装業者は少なくないのだ。だが、業務のほとんどがリムジンかというとそうでもないらしい。ストレッチして重宝されるのはVIPカーだけではなく、霊柩車も含まれる。ホイールベースを長く伸ばし、室内を改良すればそれになる。
最近は和風の神宮寺宮型四方破風ではなく、洋風のリムジン型が流行だという。和風の物々しい造形は敬遠される傾向にあるというのだ。最新の霊柩車などは、バンなのかどうか見分けがつかないという。
「まだお世話になるのは早いでしょ…ムフ」
「ええ…(汗)」
ミャンマーには、中古となったストレッチ霊柩車が、日本から輸出されているという。それがどう変化するかを聞いて腰を抜かしかけた。
「日本の霊柩車はとても豪華です。それが現地に渡ると、結婚式の送迎車になるのですよ」
どこにどう座るのかは予想がつかないが、少なくとも、豪華さという意味ではどこか納得できなくもない。
ハワイでは新婚さんがストレッチリムジンで愛を語る。最後は、ストレッチリムジンで火葬場に向かう。人生の頂点と終焉を、ストレッチリムジンが誘うのである。ミャンマーでは…?
冠婚葬祭を艶やかに彩る、貴重な乗り物なのだ。あの独特のオーラの源は、どうやらそのあたりにありそうだ。
先々号の質問に、答えているようで答えていなかったね。
「レーシングドライバーは普段スポーツカーに乗っていますか?木下アニキの愛車は?」たしか質問はこうだった。だけど、ドライバーの傾向だけを紹介して、自分の愛車を紹介していなかったね。
改めまして、キノシタの愛車は3台。
メルセデスベンツSL500。
コルベットC6クーペ。
ダイハツ・ハイゼット(軽トラック)
すべて2シーター。狂ってるでしょ?
その理由?
ミッドシップ+4速マニュアルミッション+後輪駆動だからなのだ。
アクセル床踏みしても80km/hしか出ないけれど、カーナビ+ETC+レーダー探知機装備です。
「まさか遠距離ドライブでもするつもり?」
「ええ、します」
「速度オーバーで、捕まりようがないんですけど…。」
「見栄です」
新年の「走り初め」は、刺激的なモデルにすると決めている。「一年の計は元旦にあり」というように、この一年を託すのに相応しいモデルから新年の空気を吸おうと思っているのだ。そんなキノシタの気持ちを汲み取ってくれている「ル・ボラン編集部」が、こんなクルマを用意してくれた。「ランボルギーニ・アヴェンタドール」と「フェラーリFF」である。どう凄いって?そりゃもう、キノシタの2012年は前途洋々です。
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【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。