先日のこと、神奈川県第一国道を走っていた時である。はるか前方で、一台のパトカーを発見。「見つけられるより前に、見つけろ」は我家の家訓としてあり、最上の防衛術と心得るキノシタは、すわ「ネズミ取り」に掬われたかと素早く右足を緩めた。
そして直後、腰を抜かしかけた。だってそれ、派手な装いの『アメリカのパトカー』だったのである。
なんてことがあろうはずもない…?
いや、実際にあった。
事情を説明せねば、とうとう目がやられたか錯乱したかと誤解されそうだが、それは街道筋の大きな敷地で中古車販売を営む店の、やはり広大な展示場に飾ってある“売り物”。巨大なフォード・クラウンヴィクトリアには青い帯びが描かれ、『POLICE』の文字が浮き上がっていた。まぎれもない「アメリカのパトカー」だったのである。
レーダー捕捉から逃れた安堵感を感じ、止められずにすんだのに自らクルマを停めた。そして店に駆け込んで店主に話を聞くと、こう。
「いや~、アメリカから輸入したものです」
「カスタムカーでは?」
「いや、ホンモノですよ、実際に活躍していた代物です」
“代物”という言葉の響きになにやら興奮した。
そう言われて“商品”をしげしげ観察すると、たしかにニセモノではとうてい備わることのない殺気が感じられる。『NYPD』と描かれていたから、ニューヨーク市警察からやってきたホンモノである。おそらくマンハッタンの街中を闊歩していた代物に違いない。
「裏ルートで輸入した?」
「いえ、正規ですよ。いわゆる官品払い下げってやつなのでしょうね。もしくは関係者がコッソリ売り払ったやつが回ってきたんでしょ…」
いくらおおらかなアメリカでも、この手の目立つ代物をどう手を尽くせばコッソリ転売できるのか想像すらできないのだが、どうやらアメリカとはそういう国らしい。
いや、治安の良さで有名な日本でさえ、警察官の不祥事を耳にすることは珍しくないから、アメリカがパトカーを転売しても驚くことはないのかも…。
フルサイズのフォードベースのそれは、前後に平たく長い、いかにも日本の市街地ではパトロールには不向きだというサイズである。無骨な鉄チンホイールは少々傷があって生々しい。
左右のサイドミラーあたりに、巨大なサーチライトが備わっている。深夜に逃げ惑う悪漢を、空からヘリが狙い、地上からはパトカーが照らして追いつめるのだろう。
リアガラスは防御ネットで保護されている。おそらくドアは、銃弾を跳ね返すであろう防弾仕様だろう。漂う殺気は、すでに何人もの逃走犯をお縄にしたことの痕跡だ。
「ホールドアップ!」
このドアに平伏せさせ、右足を股ぐらに押し込み、後ろ手に手錠をかけたのがおそらくこのドアなのだろうと想像すると、背中から汗がしたたり落ちた。
コクピットを覗いても、ホンモノ感は際立っていた。数々の特殊無線スイッチがおびただしく設置されていた。助手席にはラップトップPCが口を開けていた。
「これで殺人歴などを検索したんでしょうね」
生々しい言葉にゾクッとした。
このところ新聞を開けば、警官のいっこうに止まぬ犯罪が報道されている。もはや「警官が痴漢で逮捕」や「署内で飲酒、泥酔でパトカー運転」などでは驚くこともなくなった。腐ったリンゴがたくさん詰め込まれている署が悪の巣窟ではないと思わざるを得ないのは悲しい。日本の警察の評判の悪さは目を覆うばかりだ。その悲しき報道はけしてアメリカでも例外ではないのだろうが、街道で陳列されていた派手なパトカーを眺めていると、なんだかクールに見えるから不思議である。
日本の「警察官」とアメリカの「ポリスマン」の違いは、漲る自信にあると思う。すべてが公明正大の聖職業人ではないことは論を待たないが、どこか卑屈にコソコソしているのが「警察官」であり、「ポリスマン」は正義の味方的な威厳がある。「警察官」は万引き逮捕がせいぜい。「ポリスマン」は拳銃乱射犯を捕獲するといった印象。(あくまでイメージですが…)
先日、アメリカに行った時、1台のパトカーが交通整理をしていた。というより、目につくところに日がな1日、まるで日光浴でもするように停車していたといった方が正確だろう。
傍らには、「何かあったらいつでもぶっ放してやるぜ!」とでも言いたそうな熊のような腕の黒人がヘラヘラと暇をつぶしていた。なんでこいつら、黒のサングラスが似合うのだろう。
思わずカメラを向けると、そのうちの一人が、あきらかに不審者を見るような威圧的な態度で迫ってきた。
「おいジャップ、いま何を撮った!」
「いえ、ただ景色を撮影しただけです。空気が澄んでいたもので…へへっ」
「カメラ型のピストルじゃねぇ~だろうなぁ」
「いえ、滅相もございません…」
「おまえはテロリストじゃねぇ~だろうなぁ」
「いえ、私は観光に来ただけで…。アメリカ、ビューティフル…」
「両手を後ろに回して、ひざまずけ…」
「ひぇ~、お許しください…」
ガシャリと手錠でつながれ…。
といったことになろうはずもなく、熊ポリスマンはこう言って笑った。
「撮影するなら、カッコ良く写してくれよ」
そういいながらパトカーに乗り込み、運転席でポーズをとった。
ああなんという気さくなポリスマンなのだろう。というか、これでアメリカが守れるワケがないと心配に
なった…。
話を中古車展示場に戻す。
例の、アメリカからの官品払い下げのパトカーをデジカメに納めようと数日後に来店したら、転売されたばかりだという。
あんな目立つパトカーを乗り回そうという奇特な御仁がどこかにいるのだろうか?
もしくは郊外のハンバーガーショップのディスプレイかなにかになっているのかもしれない。
日本にいながら、日本のパトカーが中古車展示場に並んでいたって話は聞いたことがない。官品払い下げは、せいぜいが郵便スーパーカブ程度である。だが、ホンモノのパトカーが遥々海を渡って日本に来ているのは何とも不思議である。
かつては悪漢逮捕に一役買ったかもしれないパトカーが、遥々海を渡り、その後の人生がどうなったのかはわからないけれど、その数奇な運命を想像したら楽しくなった。
ひぃー さん、「過給機付き6MTのマークX」というとドリフト御用達マシンを連想してしまう。たしかに素材としては可能性は高そうだ。
ともあれ、GRMNはともかく、クルマライフがワクワクするようなモデルが相応しいと思う。しかも、メーカーでなければ簡単にはできないグレードであるべきだと思う。
個人的な願望だけど、たとえば「86オープン」だとか「iQピックアップ」だとか、「FRヴィッツ」だとかね…。想像は羽ばたきます。
トヨタには、たくさんのカスタムセクションがある。GAZOO Racingが手掛けている中にはG'sもあるわけだし、そことかぶらないような「超個性的なモデル」が理想だよね。
「過給機付き6MTのマークX」も候補のひとつ。ハイパーでMTだなんて、走り、楽しいだろうなぁ…!
「86」の記者試乗会の一コマ。試乗会場に並んだ十数台の86は、この日のためにトヨタ広報部が用意したものである。よくよく見ると、登録ナンバーがどれも「品川××の86…」で始まっている。「わざわざ希望ナンバーで登録したの?」「いや、偶然なんです」トヨタの粋な計らいかと思ったら、たまたまその数字が割り当てられたらしい。キノシタが割り当てられた試乗車は「8622」だった。「ということは“8623”もあるの?」「いや、“ハチロク・ニッサン”も偶然なかったんです」なんだか目出たいことなのだろうと思った。
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【編集部より】
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