レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


71LAP 覆面パトカーが愛車?      (2012.4.24)

憧れのクルマがいつしか…

イベントに展示されていた宮城県警のパトカーに緊急試乗。運転席に座ったのは初めてです。
イベントに展示されていた宮城県警のパトカーに緊急試乗。運転席に座ったのは初めてです。

子供の頃、あれほど憧れたパトカーなのだが、不思議なことに、大人になってみるとどうも嫌悪感を抱くものだ。いや、不思議でもなんでもなく、あの不吉な「白黒」を目にすると、思わず顔を背けたくなるのは、たたけば埃がでる身だからだろう。
高速道路走行中、背後で追走する「白黒」をバックミラーで発見し、心臓が止まりかけた経験を多くの人がしているに違いない。

もっとも、世の中は広いもので、パトカーをこよなく愛するマニアが存在するというから不思議である。今回は、奇特にも、警察車両をこよなく愛する人のこと。それも白黒のパトカーではなく、「覆面パトカー」を愛車にする男の話である。

先日のこと、「覆面パトカー」マニアなる人に出会った。といっても、写真やミニカーの収集で興奮するタイプではなく、愛車を忠実にそれに再現することを喜びとする偏執狂なのだ。
「本当は白と黒のパトカーがいいのです。ただ、それをそっくりパクると公道を走れません。だから覆面で妥協しました」
そう口にする大久保(仮名)君は、偏執狂であることを自覚しているという。

今年で24歳とのことだが、年令よりも落ち着いているように見えた。ようは老けているのだ。オタクという総称が相応しい出で立ちだ。
「これで公道を走っていますと、一瞬ドキッとするようで、みんなアクセルを緩めます。楽しいですよ…」
まったく悪趣味である。
幼少の頃の憧れの具体ではなく、ちょっとヤラレテいる感じなのである。

どこまでも忠実に…

超古典的な覆面パトカーですね。Y31型セドリックがベース。鉄チンホイールが雰囲気の源です。
超古典的な覆面パトカーですね。Y31型セドリックがベース。鉄チンホイールが雰囲気の源です。

大久保君の愛車は、ガンメタのレガシーB4だった。覆面定番のクラウンやセドリックなのかと想像していたら、なんともお地味なレガシーで乗りつけてきたのは意外だった。

クルマ愛好家なのだろうが、ボディにはそれほどツヤはない。
「ワックスはかけません。ただ洗車をするだけです。そのほうが雰囲気が出ますから…」
陰気な空気が漂う。
「埼玉の交通機動隊レガシーを再現いたしました。東北自動車道でも見掛けます。赤色警光灯が内蔵されているのが特徴です」
そういって屋根をポンと叩いた。ルーフの中央に、切り取ったような形跡があり、それが赤色警光灯の内蔵部分だという。
「天井格納式といいます。このフタが反転し、赤色灯が現れます。我々は“洗面器”と呼んでいます」
室内をのぞくと、天井部分に赤色灯を覆うカバーが見えた。たしかにそれは、洗面器を裏返して天井に貼付けたような形をしていた。

赤色灯は、フロントグリルの内側にも取付けてあった。
「光るの?」
「灯火可能ですよ。もちろん」
「いつ光らせるの?」
「自宅で光らせますよ。走りながら回転させると道交法違反になります。でも見たくないですか?覆面パトカーがパトカーに停止命令されているところ…」
ぜひ遭遇したいものである。

ホイールキャップははずされ、黒の鉄ホイールが剥き出しになっていた。
「これは唯一のウソなんです。実際にはホイールキャップは装着されたままなのですよ。だけど、それでは覆面パトカーらしくないものですから、はずしました」
それがただひとつの違いとはいうものの、すべてがウソである。
サイドミラーはお約束の2段重ねである。

あまり愉快な空間ではない…?

こっちは本物のパトカーです。インパネには警察無線を装備。やはり欠かせないアイテムです。実は大久保君所有のニセ覆面パトカーの撮影は許されなかったのだ。やはりどこか後ろめたいらしい。
こっちは本物のパトカーです。インパネには警察無線を装備。やはり欠かせないアイテムです。実は大久保君所有のニセ覆面パトカーの撮影は許されなかったのだ。やはりどこか後ろめたいらしい。

室内がまた、陰気である。
シートは、ツルツルと黒光りしたビニール素材でカバーされており、わざわざチープに仕立ててある。いかにもといった暗く淀んだ雰囲気はそれが源だ。

コンソールボックスには、警察無線が組み込まれていた。しかもご丁寧なことに、注意事項や説明文を印字したテプラが貼られている。

「追尾時要連絡」
「マル暴検挙時消灯」
「巡回時赤色灯」
「格納時注意」

記憶はあいまいだが、たしかそんなような印字だったと思う。本来ならメモするなりデジカメで記録しておくべきだと思ったが、実は断られていたのだ。
「撮影などはご遠慮していただいています。機密なので…」
なにが機密なのかわからなかったが、そんな理由により、写真がないのである。

「無線は使えるの?」
「警察無線は常に傍受しています」

そう言われて確認すると、ラジオもCDデッキも装備されていなかった。本来組み込まれているはずのそれが、警察無線に置き換えられているのだ。

「音楽を聴くことはありません。おそらく警官も、業務中は聞いてないでしょうから。というより、警察無線を聞いていたほうが、楽しいですしね…」

まったく奇特な神経の人もいるものだ。

  • いかにもの安普請のシートです。いかにもビニールのシートカバーです。いかにも辛気くさい。
    いかにもの安普請のシートです。いかにもビニールのシートカバーです。いかにも辛気くさい。
  • バックミラーをみるとこの顔が…。とても嫌な気分になりますよね。
    バックミラーをみるとこの顔が…。とても嫌な気分になりますよね。
  • お約束の2段重ねのミラーです。一般車両と覆面との決定的な識別点ですね。
    お約束の2段重ねのミラーです。一般車両と覆面との決定的な識別点ですね。

いまから検挙に?

そんな時、大久保君の携帯電話がけたたましく着信音を響かせた。
あわてて手にとり耳に当てた。
その会話を端で聞いて、我が耳を疑った。

「はい、こちら大久保警察」

“けいさつぅ”と語尾をわずかにあげて言ったのだ。
そしてこう続けた。

「了解、田中警察現着フタ・マル・ヒト・マル…」
「逃走犯検挙現認よろしく…」

それからしばらく、不穏なやりとりをして電話を切った。

「警察からなの?」
「いえ、友達からです」
「大久保警察って?」
「自分、大久保ですから…」
「ということは、電話の相手は田中君?」
「田中は、クラウンに乗ってます」
「もしかして、そっちも覆面パトカーなの」
「そうです。神奈川交通機動隊仕様です」
「その田中君と待ち合わせすると…」
「今晩20時10分に彼と合流します」
「逃走犯検挙現認とは?」
「森野君がこのところ連絡がつかなかったもので…」
「逃走犯って森野君のこと?」
「ええ、彼はセドリックに乗ってます。シルバーの、埼玉県警の…」

そこからは会話にならなかった。

偏執狂もここまでいくと、恐ろしい…。

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「ミシガンの男」さんからの質問
VLN2お疲れ様でした。
ニュルのレースは、チーム競技だと思いますが、他のドライバーやメカニックの方達と作戦会議をするのですか?

作戦会議?頻繁にするよ。チームの和が大切だからね。

だってまず、今年の体制が決まってすぐに、全員が一同に集って会議をするんだ。そしてチーム監督から戦いのコンセプトやそれぞれの役割が伝達される。
勝ち狙いなのか、完走が主眼なのか、はたまた人材育成が目的なのか、といったことで気持ちの統一を図るのである。

全員で壮行会と称する食事会などをすることも多い。気心が知れていないと、チームワークが乱れるからね。

サーキットに行ってからも、走行前後にはかならずミーティングが行われる。そのたびにそれぞれがコメントをする。情報の共有が必要だからなのだ。そして今後の方向性を話し合い、次のステップに映るという段取りなのだ。
もちろん食事も一緒。常に一緒。そうして強固なチームワークが出来上がっていくのです。

キノシタの近況

 今年もWTCC世界ツーリングカー選手権の解説をします。全10戦の「ケンカバトル」をご覧あれ。CS放送GAORAで放送します。それにしても今年も開幕戦から、接触アリアリの超スプリントバトルに終始した。めまぐるしく順位が入れ替わる。おそらくパドックでは、誰かと誰かがほんとうのケンカをしているに違いない。というほどのバトルである。実況はピエール北川くんです。
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。