レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


72LAP 華やかなクルマが丸の内を走る      (2012.5.8)

魅惑的なイベント発見

公募の中から選ばれた1台はこんな個性的なカラーリングだった。ドイツのクルマに和風の絵柄が新鮮である。駿河湾の荒波と富士山…。
公募の中から選ばれた1台はこんな個性的なカラーリングだった。ドイツのクルマに和風の絵柄が新鮮である。駿河湾の荒波と富士山…。

先日、東京駅前の再開発地区に建つ「丸の内ビルディング」に買い物に出掛けた。
友人に第2子が生まれたとのことで、気の効いたベイビーグッズでも物色しようとコンランショップに足を運んでいたのだ。

そこで、とってもキュートなイベントに出合った。それは丸ビルの1階フロアの片隅で行われていた小さな催しだった。
『The Beetle PARADE』というそれは、フォルクス・ワーゲン・グループ・ジャパン主催の催し。今春発売されたビートルを祝うイベント。ビートルを画材に、それぞれが自由にペインティングしてくださいという内容なのだ。

といっても実車にペンキを走らせるわけではなく、コンピューター上でデザインを描く。するとそれが実車サイズに変換され、会場の中央の巨大なモニターに投影されるというものだ。

そのオリジナルカーは、モニター上で走る。リアルというほど大袈裟ではないが、自らが描いたビートルが、少なくとも「動く」ことには、両親に手を引かれて訪れていた子供達には好評のようで、キャッキャキャッキャと興奮を隠しきれない様子。

実はすでに一般公募もされていて、約6千点のデザインの中から選ばれたデザインはすでに実車にカラーリングされており、そこに展示もされていたのだ。

キュート系モデルは色鮮やか…

最近、カラーリングが秘かなブームのような気がする。BMWミニやフィアット500、あるいはこのビートルといったキュート系のモデルを題材に、様々なカラーリングを施したクルマを街中で見掛けることがある。

ボンネット前端からリアにかけて、中央に帯を縦断させるカラーリングは、往年のモータースポーツを連想させる。もはや定番と化した。フィアットにイタリアンカラーを引くのも定番のひとつ。痛車ほど痛々しくはなく、万人が微笑ましく眺められる作品である。

それほど気合いを入れずとも、カラーそのものを楽しむ文化は、この手のキュート系モデルでは流行の兆しがある。最近ではマーチがその口火を切ったのだと記憶しているのだが、ヴィッツやレクサスCT200などでは、個性的なカラーリング風カタログが華やかに踊るのだ。

カオスへの反逆か?

なぜ、キュート系モデルには華やかな色合いが多いのか?
混沌とした社会や不安定な政治経済、あるいは東電クライシスに端を発したカオスに対するアンチテーゼ…、なんて分析をすることができるけれど、ようは、気持ちの発露なのであろう。もっとベタに言うならば、「沈んでたってつまんね~からハジケようぜ!」なのだ。

中型車以上の車格になると、とたんに色味は暗く沈みはじめる。白、黒、グレーは定番で、ときにはトーンを落としたエンジや黒と見紛うような紺がある程度。まったく貧相なラインナップが続く。社会的良識が要求されるクルマではハジケられない。取引先との接待ゴルフの送迎に使うのに、派手なクルマでは都合が悪いわなぁ~、といったきわめて日本社会的な用途を考えた時に、暗く沈んだ色合いに妥協せざるを得ないのだろう。

日産は色使いに好感がもてる。スカイラインにもソリッドな赤をラインナップしているのだ。街で「赤いスカイライン」を目にすると、オーナーの勇気とセンスが想像できて気持ちが明るくなる。ソリッドレッドが時代的に「いま」か、といわれれば少々古典的な気がしないでもないが、ともあれ、暗く沈んだ「いま」に埋もれることなく存在感を主張している。

話がそれた。

黒だったり、白だったり、グレーだったりが似合うクルマの仕様もある。ちょっと太いホイールを履かせ、車高を数ミリさげたりすると、この手の地味系カラーがむしろ映えることも少なくない。でも、すべてが寒色系なのは寂しい。

といった気持ちの発散が、暖色ブームをもたらしていると思える。

心和ませるクルマ達…

このイベントには、ふたつの功があると思えた。
ひとつは、「クルマに描くというタブーの打破」
もうひとつは「子供達の心の片隅にクルマを…」である。

クルマに自由に筆を走らせるという禁忌を犯す爽快感は、大人でこそ得られる。
同時に、子供の意識の中に、ビートルという存在が刻み込まれる。シンプルにして魅力的なイベントだと思った。

僕は日がな一日、そのイベントを観ていた。
次々に訪れる平和な家族が足を止め、可愛いビートルに見入っていた。
おそらくその中の多くの子供達の心の中に、それは潜在的に刻まれるのだろう。

そのあと僕は、コンランショップに向かい、3800グラムの大きな男の赤ちゃんのために、大きなダイニングチェアーを買った。色は「鮮やかな赤」にした。
「男の子に赤かよ」と友人に叱られそうだが、「ビートルのイベントに刺激されたから…」と言い訳することにする。
なんだか明るい気持ちになった。
暖色系のクルマには、そんな功もある。

  • 会場中央の巨大モニターの中で、それぞれがバーチャルで描いた作品が走る。ルーフは木目、サイドにはタコメーター。斬新な発想におもわず笑みがこぼれる。
    会場中央の巨大モニターの中で、それぞれがバーチャルで描いた作品が走る。ルーフは木目、サイドにはタコメーター。斬新な発想におもわず笑みがこぼれる。
  • ビートルだから「カブト虫」カラーは定番だが、一方でタータンチェックや水玉模様も多かった。円形がモチーフのビートルには、たしかに似合う。
    ビートルだから「カブト虫」カラーは定番だが、一方でタータンチェックや水玉模様も多かった。円形がモチーフのビートルには、たしかに似合う。
  • 再開発が話題の丸の内ビルディング界隈は、ビジネスの街からお洒落なスポットへ変貌しようとしている。そのフロアの片隅に控えめに行われているのが、ちょっといい感じだった。ふと目をとめて見入る家族連れで賑わっていた。
    再開発が話題の丸の内ビルディング界隈は、ビジネスの街からお洒落なスポットへ変貌しようとしている。そのフロアの片隅に控えめに行われているのが、ちょっといい感じだった。ふと目をとめて見入る家族連れで賑わっていた。
木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「nur48h」さんからの質問
いよいよニュル24時間レースが近づいてきましたがレース出場のオファーはいつくるのですか?
あと、GAZOO Racingチーム以外からオファーが先に来た場合はどうしますか?

なかなかマニアックな質問ありがとうございます。
もしかして同業者?(笑)

レースのオファーがあるのはおよそ開幕戦の半年前ほどだろうね。
たとえばスーパーGTだったら開幕戦が3月だから、遡って前年の9月頃。ニュル24時間だと、年末から年明けあたりが契約交渉が始まる時期なんだよね。正式契約調印は、2月頃が相場ですね。

木下に別チームからオファーがきたら?
もちろんギャラ次第で、いつでも移籍するよ!
というのは冗談で、いくつかの条件を確認して最終判断する。
自分にとって魅力的なチームであるかどうか?
チームに歓迎されているかどうか?
そんなところが判断材料だろうね。
チーム体制。勝てるかどうか。コンビを組むドライバーとの相性。チーム内のポジション。エースなのかサポートなのか?が重要だ。

ドライバーも人間だから、求められているかどうかにも心が動かされる。「今年も頼むぞ」なんて言われるとほだされるのである。もちろん求められている度合いのわかりやすい尺度が契約金に表れていたりするのだけどね。

僕の場合は、金額の大小ではなく、チームメンバーとの相性と志が一致しているかで決めます。命をかけた戦いの場なのだから、志がひとつにならないと走る気にはなれないものなんですよ。

キノシタの近況

 新型911にアストン・バンテージS、R8にマセラS。ル・ボランの企画なのだが、なかなか刺激的な1日でしたねぇ。「この中で欲しいクルマを2台あげて?」 そんな編集者の質問に「アストンとレンジ」と答えたら叱られた。「それは違います。レンジはカメラマンの愛車ですから…」
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。