レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


73LAP なぜフォークリフトって、前転しないの?      (2012.5.22)

前のめりでいまにも転がりそうだけど…

どうみても前転しそうですね。しないのが不思議である。そのカラクリは、リアでバランスをとるカウンターウエイトにあるのだ。
どうみても前転しそうですね。しないのが不思議である。そのカラクリは、リアでバランスをとるカウンターウエイトにあるのだ。

先日、ふと疑問に思ったことがある。
「なぜフォークリフトって、前転しないの?」
である。

あんなにホイールベースが短いうえに、フロントには数トンを超える荷物を持ち上げるわけで、つまり人間が両手を伸ばしてそれをしたと想像すると、腰を反らして抱きかかえるような姿勢でバランスをとらなければ無理がある。だというのにフォークリフトは、姿勢を整えたままそれをやってのける。
しかも、荷物を高々と掲げることもある。当然、前のめりになるわな…という疑問である。

素朴な疑問が浮かぶと、たとえ「それ知ってどうするの?」的なネタであっても解明せずにはいられない性分。早速、学生時代の先輩が運送会社を経営しているってことで、フォークリフトに乗りにいったのだ。

いわばシーソーの原理です…

小型のフォークリフトでも、カウンターウエイトは必須だ。ただ単純に、鉄の固まりを積んでいるのだ。
小型のフォークリフトでも、カウンターウエイトは必須だ。ただ単純に、鉄の固まりを積んでいるのだ。

「そんなもん、原理は簡単だろが…。前輪は支点だ、でもって、荷物をヒョイッと持ち上げる。それに釣り合うだけの重りが後ろに積んであるって算段なんだわな!」

太い二の腕をたくし上げての一発回答である。

そういえばテールエンドは、ややムッチリとしている。おそらくエンジンかなにかを抱え込んでいるのだと想像していたのだが、その端には「カウンターウエイト」と呼ばれる鉄の固まりを積んでいるというのだ。

タイヤは四隅にある。エンジンはミッドシップ。後輪駆動だ。そして後輪操舵。クルマに置き換えると、まるでスーパースポーツカー然としたレイアウトなのだが、惜しむらくはリアヘビーであることだ。
「うちのフォークなんかは、たいそう偉そうな40トン荷取り(荷物を持ち上げること)用なわけだ。するってぇ~と、リアにも40トンの鉄の固まりを積んでいる計算になる。
こんなにちんこいのに、車重は40トンオーバーあるなんざ、半端な重さじゃねぇよな」

軽量化とは無縁の世界なのだ。
「最近じゃ、ホイールベースを伸ばした仕様もあるって話だ。フォークの爪の先のあたりまでアームを伸ばし、その先にタイヤを括りつけるんだから、想像してみねえ、エジプトのスフィンクスみてぇな姿形にならぁ。支点がずれるから、その分、カウンターウエイトを減らせるっていう寸法なんだわな」

なるほど納得である。だがしかし、東京のちょっと気取った大学を卒業したはずなのに、下町で運送屋を経営して20年もすると、言葉使いまで気っ風のいい江戸弁に変わることが不思議に思った。
「なんか変か?」
「いえいえ、とんでもありません」

フォークの世界の常識は?

操作系は簡素だ。前進後進はレバーで操作。アクセルとブレーキは、クルマ同様で足元にある。センターのレバーは、爪の上げ下げと角度と、張り出し調整用だ。
操作系は簡素だ。前進後進はレバーで操作。アクセルとブレーキは、クルマ同様で足元にある。センターのレバーは、爪の上げ下げと角度と、張り出し調整用だ。

フォークリフトの基本原理は昔から変化がないという。ロングホイールベースやキャタピラー型もあるにはあるが、狭い倉庫での荷取りがある以上、小回り性能が必要である。となるとあまり前後に長くもできない。するとホイールベースはショートにならざるを得ず、おのずとカウンターウエイトが増すのである。

「最高速度は何km/hですか?」
「そんなもの知るかっ!気にしたことがねぇ…」
「走行燃費は?」
「知るわけねぇぜ。まったく移動せず、ただただ荷物の上げ下ろしだけをすることだってあらぁな。するってぇと、走行燃費じゃなくて、時間あたりでどんだけガス喰うかが問題だな」

なるほどトリップメーターは装備されておらず、稼動時間をしめすアワーメーターが組みつけられていた。

フォークリフトの世界も、動力源は主に3パターンだという。ガソリンとディーゼルと、そして電気モーター式である。

ディーゼルはトルク型だから、重たい荷取りに適している。電気モーターは排気ガスを出さないから、室内の作業に向いている。ガソリンはその中間だそうだ。振動も少なく、トルクもそこそこらしい。

意外にも乗り心地がいいぞ

フォークリフトというかブルドーザーというか…。ホイールベースが長く、その中にコクピットがある。カウンターウエイトは軽量ですむ。なんだか乗り物に乗るというより、ブルドーザーの素材の一部になったような不思議な感覚でした。
フォークリフトというかブルドーザーというか…。ホイールベースが長く、その中にコクピットがある。カウンターウエイトは軽量ですむ。なんだか乗り物に乗るというより、ブルドーザーの素材の一部になったような不思議な感覚でした。
コマツ製の巨大なフォークリフトである。ガラス張りのコクピットには、梯子をのぼって辿り着く。クレーン車感覚である。
コマツ製の巨大なフォークリフトである。ガラス張りのコクピットには、梯子をのぼって辿り着く。クレーン車感覚である。

乗り味に特徴があるのだろうか?
「スプリングはないし、タイヤも潰れないような硬いものだ。環境は最悪だ」

ほぼ1日の作業はさぞかし辛かろう。
「ただし、シートにはスプリングが組み込まれているから、乗り心地はバカにするほど悪くはないぞ」

そうして指差す先にはシートアジャスターがあり、数字が刻まれていた。乗員の体重をセットすると、見合う硬さにアジャストされるという。高級セダンにもない装備である。

実際にドライブしてみたのだが、乗り心地は優しいことに驚いた。たしかにシートそのものがフワフワと上下動して振動を吸収するのだ。
「どうだぁ、1台、買って帰るか?」
「でも使い道がないですよ」
「公道で走らせるなら小型/大型特殊免許が必要だ、自宅だったら資格はいらないぞ」
「考えてみます…」

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「TS」さんからの質問
お誕生日おめでとうございます!
私は未だ弱冠20代中盤ですが、木下アニキのように30年後も元気に車を楽しみたいと、密かに目標にしております。
そこで伺いたいのですが、歳を重ねても若造には負けないために心懸けておられる事があれば教えて下さい。
また、きっと今は円熟の境地に居られるアニキにも荒削りだった頃があったのだと思いますが、ドライビングの技術、フィジカル、メンタルはどのように変化しましたか?
お答え頂けますと幸甚です。

長く続けられる方法?

さて、何故なんでしょうね?

これだけは言えるのは、まだ貪欲にドライビングを磨こうとしていることが、衰えない理由かもしれないね。

逆にいえば、まだまだ自分のドライビングには満足していないんだ。向上心は若い頃と差がない。若い世代の台頭にも負けない自負がある。体力も気力も充実している。
これからももっともっと強く速くなりたいと願っているうちは、続けていけるのだと信じているのだ。

日常でクルマに乗っている時間の99%は、クルマのことを考えているよ。どうすればこのカーブをスムーズに曲がれるか?どうすれば乗り心地良く走れるか?サーキットを走っていない時も、クルマの運転を意識している。

実は今年ようやく「左足ブレーキ」が完成したんだ。

僕の世代では左足派は稀だと思う。だが時代は2ペダルだから、左足が有利になることはわかっていた。だけど、いまさら慣れ親しんだ右足から左足にスイッチするには、時間と努力と、そしてリスクを背負う。プロ野球のベテラン選手がフォーム改造に挑むみたいなものだね。

だけど、僕はまだまだ走りつづけるつもりだから、あえて「左足ブレーキ」の移行に取り組んだんだ。それがようやく、今年完成したように感じている。つまり、これからの十数年に向けてまたひとつ武器を手にすることができたというわけ。

まだまだ走るよ!応援よろしく…。

キノシタの近況

 今年もスーパーGTテレビ解説をしてます。これは第2戦・富士スピードウェイ戦の様子。脇阪寿一と石浦宏明の乗るレクサスSCが優勝したレースも担当しましたよ。ともにニュルブルクリンク24時間を戦う仲間だから、ついつい私情を挟んでしまいそうで…、挟んでしまいました。Jsportsで放映。よろしく!
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。