レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


74LAP 真面目なドイツ人と、クソ真面目な日本人?      (2012.6.12)

エスニック・ジョークによるとドイツ人は…?

国民性を巧みなジョークで表現する早坂隆氏の「世界の日本人ジョーク集」(中公新書ラクレ)に、こんな一節がある。

  各国の人が二人以上集まると、一体何が生まれるのだろうか?
  ドイツ人が二人集まると、三つの規則と、四つの法律が生まれる。
  ユダヤ人が二人集まると、三つの意見と、四つの政党が生まれる。
  日本人が二人集まると、三つの銀行と、四つの会社が生まれる。
  アメリカ人が二人集まると、三つの諍いと、四つの正義が生まれる。

民族や人種による行動や思想の違いを比較し、それぞれを笑いの種にすることを「エスニック・ジョーク」と呼ぶらしい。そんな人種ネタでは一般に、民族のアイデンティティはこんな性格が前提になっている。

  アメリカ人は、独善的で、傲慢、ケンカ好き。
  イギリス人は、紳士であり、堅苦しい。
  フランス人は、好色で、自己中心的。
  ユダヤ人は、狡猾で金儲けが上手い。
  イタリア人は、女好きで、情熱的。
  日本人は、勤勉でお金持ち。
  ドイツ人は、頑固、真面目。

概ねこんなところだろう。

速度表示は頑固一徹に…?

写真1:
ただの速度表示看板は、決して速度取り締まり用ではなく親切心の現れなのだ。
写真1:
ただの速度表示看板は、決して速度取り締まり用ではなく親切心の現れなのだ。

ドイツという国をクルマで走っていると、つくづくこの国の民族性は「真面目」だと思う。定規で測ったような、きっちりした生活を送っているようなのだ。

たとえば路肩に林立する「速度標識」などはそれを端的に表している。

写真1をよくよく確認してほしい。

これは、ドイツの片田舎であるアイフェル地方の、どこでも見かける平凡な牧歌的な風景を切り取っただけなのだが、そこにもドイツ人の頑固で真面目な国民性が色濃くにじみ出ているのだ。

ドイツの一般道の制限速度は、100km/hである。ところがそんな郊外を走行中、70km/h規制の看板が現れた。
さらにその先には50km/h看板へと続き、そして「クランク状のカーブ」があることを知らせる。それが200m先にあると語り、そしてそのタイトなカーブにさしかかると、ご丁寧に、赤白のゼブラ表示となった。

さらによくよく目を凝らすと、路面に妙な矢印が、三本も記されている。ちょうど、危険なコーナーが200mに迫っていることを伝える表示の手前にそれは描かれており、つまり、追い越し中のクルマはここで本来の走行車線に戻りなさいと命じているのである。

実はこの手前は、約1kmほどの直線であり、見通しは開けている。対向車もほとんどない、村と村をつなぐ、対向車もまばらな生活道路なのだ。そのコーナーは視界の影になるブラインドコーナーでもなんでもなく、遥か手前から見渡せるにもかかわらず、ご丁寧に速度を指示してくれているのだ。

つまり、なんとも無機質な看板の連なりなのだが、そこにもある意味上から目線で、「この標識に従いなさい!」と突きつけているわけだ。

親切さに納得!

ただし、この、ある意味では独善的な指示表示も、裏読みすれば、交通の流れを優先するための親切表示であることがわかる。

70km/h規制看板はつまり、「ここまでは100km/hで走っていいよ」と薦めてくれているのだ。「追い越しを終えろ」と指示する矢印はつまり、「そこまでは自由に追い越ししてもいいのだよ」とも読み取れる。

この手の速度標識は、「道路交通法規上の規制」といったお役所的な数字ではなく、実際に「走行する上で可能な安全な速度」を正しく表示している。ともすれば窮屈な権力意識の象徴のように感じられるそれさえも、実は、それさえ守ればあとは自由ですよというわけである。まさに交通先進国らしい。

 ではこれで、交通後進国の日本だったらどうなるか…?
 おそらくこんな表示で規制して、すませることだろう。

「この先、カーブ、危険」

それはまるでレースのスタート&フィニッシュラインのごとく…

速度無制限であり無料の世界屈指の高速道路「アウトバーン」でも、このところ事故が多発するという理由で、速度規制が敷かれはじめている。ただしそれは、のべつまくなし無闇に規制するのではなく、ほとんどそれは、旋回Rの厳しいカーブ区間か、もしくは街を貫く区間だけである。

とはいうものの、それでも、日本の高速道路の規制速度よりも大幅に高い「130km/h」程度なのだが、そこまでは200km/hでも300km/hでも自由な速度で矢のように飛ばしても許される。その速度でパトカーを追い抜いてもなにも咎められない。だが、その看板に差し掛かったら、誰もが頑固に130km/hを守るから感心するのだ。

さらに惹かれるのは、街中や危険区間を過ぎ去った後にはかならず、「速度規制解除」の看板が設置されていることだ。「ここからは自由に飛ばしていいんですよ」と誘っているわけである。

ドイツのドライバーは、かなり厳格にその表示に従う。

130km/hを守るのは、その表示を目にした瞬間ではなく、その看板に差し掛かった瞬間である。アクセルペダルを踏み込むのは、速度規制解除の看板が目に入ったところからではなく、その看板をかすめたその瞬間からである。まるで見えないホワイトラインが道路を横断しているかのように、さながらレースのスタートの瞬間のように、アクセルを床踏みしはじめるから滑稽である。いたって性格が厳格で真面目なのである。

「ここは何キロ?」「誰が何キロ?」

写真2:
村の入り口にはたいがいこんな電光速度表示板が設置されている。ここまでは100km/h。だがここからは…。
写真2:
村の入り口にはたいがいこんな電光速度表示板が設置されている。ここまでは100km/h。だがここからは…。

そんなだから、街中の速度表示も、かなりはっきりと電光表示される。

写真2がそれなのだが、牛が草を食む丘陵区間の先に村が表れると、速度管理をはっきりと突きつける。するとドライバーは、驚くほど厳格にその速度を守る。そして村を過ぎれば「速度規制解除」の看板がある わけで、そこからまた本来のハイスピードに舞い戻るというわけだ。

写真3も同様に、村の入り口にある電光表示である。
「SIE FAHREN」はつまり「あなたの速度」である。スピード表示がされるのである。

ちなみに写真4と写真5も、人気のない小さな村の入り口に立っていた速度表示である。

上はトラックを対象とした表示。通常は100km/h規制であり、片道規制の場合のみ30km/hであることを示す。トラックでさえこんな狭い道を100km/hで疾走が許されているなんて、他人事ながら心配してしまうほどハイアベレージである。どこかの国の高速道路のトラック速度規制は何キロでしたっけ?

問題は下の看板である。なんと砲台も凛々しい戦車のシルエットが描かれているではないか…!

ということはつまり、片側規制の時には20km/hに落とせば、たとえ戦車でさえ100km/h走行が許されているというわけである。

いかに陸続きの大陸とはいえ、有事の際に、軍隊の戦車操縦士が、速度規制看板を確認しながらノコノコと敵戦するとは思えないから、平時の移動の場合を示しているのだろう。だが、ちょっと頬が緩む。

  • 写真3:
たった20戸ほどの小さな村にもしっかりと…。
    写真3:
    たった20戸ほどの小さな村にもしっかりと…。
  • 写真4:
いくら自己責任の国だからって、ちょっと速すぎませんか?
    写真4:
    いくら自己責任の国だからって、ちょっと速すぎませんか?
  • 写真5:
陸続きの大陸だからって、そんなにしょっちゅう、物々しい乗り物が走るんですかねえ?
    写真5:
    陸続きの大陸だからって、そんなにしょっちゅう、物々しい乗り物が走るんですかねえ?

安全な速度とは…?

陽の落ちかけの夕方、八百屋や魚屋を求める客で賑わう戸越銀座商店街を30km/hで走行することが許されているのに、ひたすら地平線まで直線の北海道の大地が60km/h規制というアンバランスな日本からすると、ドイツ人の真面目さには整合性があり、筋が通っていると思う。

時には、「オービス」が設置されていることもある。だがそれは、速度規制区間に差し掛かったのちにある。見渡すかぎり平野の広大な直線の草むらで速度取り締まりレーザーを設置するような、日本の不粋からすれば、実に羨ましい。

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「ルーキーちゃんの大ファン より」さんからの質問
ニュルブルクリンク24時間耐久レースにて、LFAそして、86のクラス優勝大変おめでとうございます!!
自分の事のようにとてもうれしく思います。そしてお疲れさまでした。
質問です。参戦車両を見ていて…タイヤメーカーのロゴ・ステッカーが、2種ありますね?
BS と FALKEN ですね?
それぞれで晴用、雨用で使い分けをしてるのでしょうか??
そしてLFA・86それぞれでのタイヤサイズはどんなのか興味があります。
市販車の装着サイズと同じなのですか?教えてください!
耐久レースでの、タイヤ装着ルール等も混えていただければ、興味深く観戦できると思います。
よろしくお願いします。

なかなか観察力が鋭いですねぇ。感心です(^^)

GAZOO RacingのLEXUS LFAは、ブリヂストンの全面的な協力を得て戦っています。
2008年の参戦以来、体制に変更はないんですよ。

なのに「ファルケン」のステッカーが貼ってあります。しかも、フロントタイヤを包み込むように、フェンダーの目立つところにデカデカと…。不思議ですねぇ。

答えをお伝えしましょう。あの「ファルケン」ステッカーは、レースそのものの協賛ブランドなのです。主催者は、「参加マシンすべてにステッカーを貼らせるから…」という理由で協賛を募る権利があり、それを行使したのです。

実は、エントリーフィーとは別に金を払えば、ステッカー貼付を拒否できるという方法もあるのですが、我々は受け入れたというわけです。

したがって、ドライ路面ではブリヂストンを履き、雨が降ってきたらファルケンタイヤを履く…などという奇襲をしたわけではないのです。

タイヤメーカーとの協力体制がまったくないプライベーターの一部には、路面によって銘柄を違える、なんてチームもありますが、きわめて少数派ですね。その場合も、大会協賛ステッカーを貼るという義務は残ります。

ちなみに、ショックアブソーバーブランドである「ビルシュタイン」のステッカーも貼ってありますが、それも大会スポンサーなのです。我々はKYBの高性能ショックアブソーバーを使用しているんですけれどね…。

さて、我々LEXUS LFAのタイヤサイズは、市販車よりも大幅に戦闘力を高めるために、スーパーGTで使用している超太いタイヤを装着しています。86は市販車の開発参戦という意義が深いこともあって、標準サイズで参戦しました。

日本に帰国して、一番に食したい、食べ物は何ですか?

ドイツ飯も嫌いじゃないし、チームはホスピタリティに和食を用意してくれている。

だから食事に困ったことなんて一度もない。もともと、その国々での個性的な味を楽しみにするタイプだからね。

ただ、やはり日本で味わう食事が一番。帰宅してまず最初に味わうのは、「キンキンに冷えたビール」なんだ。ドイツはビールの本場だから、地ビールが豊富だ。だけど、あまり冷えてないんだ。日本で育つと、やっぱりビールはヒエヒエで…となる。

なんの変哲もない家庭の食事もごちそうである。

「カレーライス」「天ぷら」とかね…。やっぱり自宅の味が最高である。

キノシタの近況


※画像をクリックして、拡大して見てくれ!

 スーパーGTの決勝日、富士スピードウェイに向かう道すがら、とても気になる交差点に差し掛かりました。ほとんど交差するクルマのない交差点でしたが、ネーミングがキノシタの心に引っ掛かったわけです…。
 ねっ?ただそれだけですが、そんな些細なことで、この日一日が楽しくなってしまう自分の性格が、ちょっと好きです♡
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。