レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


75LAP 戸越銀座商店街的なキノシタの、地価公示価格を高めるためには…      (2012.6.26)

銀座四丁目のオーラは痺れるようで…

銀座四丁目の山野楽器銀座本店が立派にそびえている。横の横が銀座四丁目の交差点。角に松屋銀座本店でその正面が三越銀座本店。交差点の方が高いのかと思ったら、2軒隣が最高値なんですね。
銀座四丁目の山野楽器銀座本店が立派にそびえている。横の横が銀座四丁目の交差点。角に松屋銀座本店でその正面が三越銀座本店。交差点の方が高いのかと思ったら、2軒隣が最高値なんですね。

日本でもっとも地価が高いのは「銀座四丁目」なのだそうだ。

このところの経済活動の沈静化によって土地神話は崩れたと聞いている。それでも地価公示によると、銀座は相変わらず高嶺の花だという。

2012年の「一等地」は、山野楽器銀座本店(銀座4-5-6)に輝いた。再開発が進んでいる東京駅前も大躍進。丸の内ビルディングが同価格で並ぶ。

では、その一等地はいくら?

「2700万円!」

単位は?

「1平方メートル!」

新聞紙を広げた程度の100センチ×100センチのスペースに2700万円の値がつくというのだから、銀座の一等地はいまだに凄い。

仮にレクサスショールームがそこにあったとして、仮に3750万円のレクサスLFAを展示したとする。それでも国内最高価格のレクサスLFAより、4つのタイヤが踏んでいる土地代のほうが高いというのだから、狭い国土に旺盛に経済活動を展開している日本特有の現象だ。銀座四丁目にはシャネルやエルメスなどの路面店舗が林立しているわけで、つまり、Tシャツやパンツの陳列スペースがおよそ2700万円の敷地にディスプレーされている計算だ。

銀座四丁目あたりを“銀ブラ”していると、夥しい数の看板やネオンが瞬いている。それも2700万円にそびえ立っていると考えると、いったいあの看板代はいくらなのだろうと想像する。想像してクラクラっとするのだ。

我々はいくら?

今年のレクサスLFAドライバー3人の記念写真である。胸の一等地はもちろん「GAZOO Racing」。その下段に、お世話になっている協賛企業の名が並んでいる。気持ちとしては平等なんですけどね…。左胸の「TOYOTA」の下に空間があります。お安くしておきますよ!
今年のレクサスLFAドライバー3人の記念写真である。
胸の一等地はもちろん「GAZOO Racing」。
その下段に、お世話になっている協賛企業の名が並んでいる。気持ちとしては平等なんですけどね…。
 左胸の「TOYOTA」の下に空間があります。お安くしておきますよ!

閑話休題。

実は、我々、プロのレーシングドライバーにも「一等地」という概念が存在する。

我々がスポンサーを背負って走るひとつの広告媒体とするならば、レーシングスーツは希少な広告スペースでもある。そう、あのレーシングスーツにある協賛企業のロゴは、見栄でも虚勢でも、趣味でもカッコいいから貼っているわけでもない。広告媒体としての露出効果やイメージ効果の対価としていただいているのである。

となれば当然、貼る場所やサイズによって“定価”が異なるのは道理。貼る場所によって金額が上下するのだ。

では、レーシングスーツの一等地はどこだ?

やはり常識的には、両胸の前が一等地だろう。もっとも目立つ場所だからだ。たいがいそこには、メインスポンサーのロゴが燦然と輝いているわけで、我々ドライバーからすれば、もっとも“お手当”をはずんでくれた企業にそのスペースを捧げるというわけである。

背中にドカーンも準一等地。たいがいそれは、前面とセットになっている。

では、その次は?

胸の左右に順に並べられているスペースが「二等地」である。しかも、上部になればなるにしたがって定価が高いのが相場だ。バストアップの写真が撮影され、それがテレビや雑誌で報道されることがあるわけで、だったら露出頻度が高い方が値段も高くなるという計算だ。それが腹近くまで下がると、ギリギリ見切れて映らないこともある。という理由で価格が下がる。上段の方が高価なのである。

ただし最近、ハンスという頸椎保護システムを背負っているから、上段の露出効果が低下している。そろそろ公定地価の変動があるかもしれない。

表彰台は絶好のチャンスなのに…

このところその慣習がなくなったけれど、かつては表彰台で、月桂樹の花輪を渡されていた。それを肩からかぶり、勝者であることを表すのだ。たしか、五輪競技の影響だったと思う。

だが、キノシタはへそ曲がりだから、それを被らなかった。手渡されたそれをヒョイッと足元に立て掛けていたのだ。

なんどもそれを続けていた。するとある時、主催者からお叱りの言葉が。

「なぜかぶらない?みんなの憧れですよ」
「スポンサーロゴが隠れるからです」
「ふむ~…」

せっかくの表彰台である。せっかくの露出チャンスである。その決定的な瞬間を逃すのは忍びなかったのだ。

もしからしたら、そんな影響が、花輪の慣習をなくさせたのかもしれない。

そこで、質問です。

「ドライバーの鎖骨あたりの胸上段スペース、左右でも価格に違いがある場合がある。では、どっちが高い?」

回答は…。

「向かって左です。ドライバーからすれば右側の方が、左側より高価なのです」

その理由は?

「ヒントは、襟首のデザイン的な処理にあります…」

勘のいい方なら察しがついたことだろう。ドライバーがしっかりと襟元をただしているなり写真撮影に応じるなどしているのなら左右に露出効果の差はない。だが、だらしなく胸元をはだけていると、合わせの関係上、向かって左側の襟が垂れ下がる。せっかくのスポンサーロゴを覆い隠してしまう危険性がある。よって、常に露出が確保される「向かって左」が時折ロゴが隠れることのある「向かって右」よりも高価なのである。

前が見えずに…

ねっ、なんとなくステッカーを斜めにずらす意味がわかるでしょ?
ねっ、なんとなくステッカーを斜めにずらす意味がわかるでしょ?

同様に、ヘルメットにも「一等地」という考えがある。

一等地は想像どおり、ヘルメットバイザーである。たいがいそこも、メインスポンサーが確保する権利を持つ。左右のアゴの部分は準一等地。写真撮影などで頻繁に露出する場所であり、そこが高価であることはレーシングスーツと同様である。

順に、ヘルメットバイザー、ヘルメットの唇あたり、左右のアゴ、サイドゾーン、背後、頭頂部…であろう。

木下も昔、できるだけ多くの協賛企業に露出効果を高めたいという思いで、ヘルメットバイザーにペタペタとステッカーを貼っていたら、バイザーを降ろした瞬間、視界が妨げられて慌てた…、といった失態を犯したことがある。

希少な広告スペースに拘りすぎた代償として、前が見えずにレースで負けたのは苦い思い出だ!

涙ぐましい努力…

やっぱり上段の露出効果が高い。今回は気を配って、腕のロゴもカメラに向けました。実は撮影される時、常に露出効果を意識しているのだ。散々お世話になっているのだから、そのくらいの配慮は当然だよね。
やっぱり上段の露出効果が高い。今回は気を配って、腕のロゴもカメラに向けました。実は撮影される時、常に露出効果を意識しているのだ。散々お世話になっているのだから、そのくらいの配慮は当然だよね。

かくかくしかじか、ドライバーの体という限られたスペースを協賛企業に捧げるにあたって、かように緻密な“公示価格”が存在するのだ。

ただし、公示価格はドライバーの露出効果によって変化する。
ドライバーとしてのランクや参戦カテゴリー、あるいは成績などによって変動するわけだ。スポンサーからしてみれば、銀座四丁目級のジェンソン・バトンと、戸越銀座商店街レベルの木下隆之が同じ金額では納得できないだろう。その数字に大きな隔たりがあるのも道理。(汗)

じゃどうするかといえば、レースで得た地位や名声はいかんともしがたいが、戸越銀座商店街を銀座級に引き上げるには、努力とアイデアと、そして小さな配慮が欠かせない。公示価格を高めるために努力しているのである。

ヘルメットバイザーが一等地である。それに違いはない。だがそこに知恵を加えた。左右アンバランスに貼りつけることで、より一層の露出効果を狙ったのだ。右ハンドルのマシン用と左ハンドル用で、中心を左右のどちらかにずらす。貼り方に変化を加えているのである。

なぜって?

つまり、我々は、スタート前にコクピットに座り、精神を集中している瞬間を写真に切りとられることが少なくない。カメラマンは、開け放ったドア側からレンズを向ける。つまり、正面からではなく、やや斜めからの被写体となるわけだ。

その時もし、バイザーステッカーが正面に向いていたとしたら、スポンサーロゴが欠けることことになる。

「GAZOO Racing」のロゴが、「????ZOO Racing」になってしまう。

「なんじゃ????ZOO Racingって!動物園かい!」

それを避けるため、貼り位置を左右にずらしているのだ。

どうです、この涙ぐましい配慮! 戸越銀座商店街を銀座四丁目に…
とまではならないまでも、五反田遊楽街並には成長させたいわけである。

ちなみに、仮にジェンソン・バトンのレーシングスーツにロゴを貼るとする。
それが一等地の前面胸だとすると、およそひとつのロゴが10センチ×33センチ。つまり30分の1平米である。

勝手にジェンソン・バトンの公示価格を想像すると、それを仮に1億円として銀座四丁目に換算すると、『ジェンソン・バトン公示価格は30億円!』となる。なかなかいい商売である。

ところでキノシタの地価は?

「……」

お世話になっている協賛企業のご恩を金銭に替えるなどという不粋なことはいたしません…!(涙)

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「走り屋」さんからの質問
自分はマラソンをやっていまして、
多い時は年に1万キロを走ったことがありますが
プロのレーサーはいったい車で年に何万キロ走る(走り込む)のでしょうか?

どれだけ走るって?

難しい質問ですね。マシンテストやレースを加えると、いったいどれだけ走っているのでしょう?自分たちでもわかりません。

簡単な試算をすると、たとえばFポンが1レースで200kmで7レース。
スーパーGTがひとり150kmで7レース。今年キノシタは、ニュルブルクリンク24時間で900kmほど走りました。それに予選やらテスト走行やらを加えると、1万kmを超えているんでしょうね。

それでも最近は、テスト機会が制限されたこともあって、走行距離は短縮される傾向にあります。バブル全盛の頃のメーカー系ドライバーは、年間の200日をサーキットにいた、といった事もありました。1日200km走行するとして、4万km。体がボロボロになりましたよ。

「それだけ走れば上手くなるでしょ!」

そんな声が聞こえてきそうです。

キノシタの近況

  先日、とある駐車場で見掛けたクルマを勝手にパチリ!あまりにフェミニンなインテリアに感動してしまったわけだ。ピンクにピンク。ダッシュボードにはピンクの造花まであしらっていた。クルマを大切にしていることが強く伝わってきた嬉しかった。どんな可愛い女性の所有車なのかを確認すべくしばらく張り込みしたのだが、そこに現れたのは…。
ガ~ン!
怖くて写真撮影できませんでした。
もっとも、無精髭の男がピンク好きではいけない理由はございません。
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。