ノースキャロライナ州・シャーロットで「NASCAR」を観戦した時、あるひとつの衝撃的な乗り物を見た。レーススタート直前、アトラクションのひとつとして上空に飛来した「B2爆撃機」の浮遊する姿を見てギョギョ、腰を抜かしかけたのである。
B2爆撃機はつまり、アメリカが誇る「ステルス機」である。通称「エイ」。呼称が語るように、水中を漂うエイのようでもあり、扇子を水平に広げたかのような形は、これまでの航空機の常識を覆すフォルムである。
「Stealth(ステルス)」とは、隠密の意味である。航空機やミサイルなどに電波吸収効果のあるフェライトを塗るなどして、レーダーによる早期発見を困難にさせる技術のこと。上方排気は、熱源を感知する赤外線レーダーから逃れる技術でもある。
湾岸戦争時には大活躍した。闇夜の上空から突如として爆弾を落とされるのだから、お化け屋敷でいきなりゾンビが立ち上がるのとはワケが違う。「見えぬ爆撃機」に、敵はさぞかし怯えたに違いない。
つまり、だ。アメリカ空軍は、本来「隠密」を最大の武器とするステルス爆撃機を白昼堂々、20万人が集結したスピードウェイの上空でお披露目したのだ。キノシタが腰を抜かしかけたのはそのことで、狙いは武力の誇示であることは明らかながら、衆目にそれを晒すということはもはや隠すほどの武器ではなく、その裏ではさらに高性能なステルス機が世界のどこかで睨みを効かせている可能性があるそのことに、ただならぬ恐怖を感じたのだ。
実は、昨年訪れたラスベガス空軍基地でもエアショーが開催されており、そこでもB2爆撃機のデモンステレーションフライトが企画されていた。
「チラ見」ではあったけれど、それは世界の警察を自認するアメリカが抑止効果を狙ったものなのだろう。
「チラ見」には男を興奮させるだけでなく、いろいろな効果がある。
ニュルブルクリンクに頻繁に訪れていると、地上の「ステルス車」に出合うことが少なくない。
ま、もったいぶって言うことでもないのだが、ニュルブルクリンクは市販前を控えた車両が頻繁にテスト走行するステージとして有名であり、そこに集結するモデルには「ステルス装備」ならぬ、カモフラージュのための「偽装」がなされていることが多いのだ。
コースを走行したい。だが白昼の走行ではスクープされる危険性がある。だったら、形を変えて走ったれ!という偽装が施されるのである。
市川海老蔵が六本木でデートしたい。だが歓楽街ではスクープされる危険性がある。
だったら、サングラスとマスクで呑んだれ!の発想なのである。
写真1は、日産GT-Rの偽装だが、定番はご覧のような。フロントマスク覆うタイプが定番である。我々関係者は「ブラジャー」と呼んでいるそれである。キノシタのふしだらな発想ではSM女王様のアイマスクに見えるのだが、業界ではブラジャーと呼んでいるのだ。
ただこれが実は奥深い。ただ単にビニールシートをかぶせればいいかというとそんな甘い世界ではない。たとえばGT-Rの場合、300km/h巡航が可能なわけで、しかもそれ、おそらく世界一の高速安定性能が自慢である。だから、簡単に風圧で剥がれてしまってはだらしない。となると工事現場のブルーシートでは役に立たない。最少のカモフラージュで最大の偽装効果が必要なわけで、スタッフの誰かがペタペタとするわけにはいかないらしいのだ。
ちなみにこれ、社内のデザイナーが知恵と技術で開発されたものだという。価格は数百万円にもなるというからハンパない…。ヒェー!
開発の進捗状況によって、日々ブラッシュアップされるともいう。開発初期は、ただ覆っていればすんだかもしれない。だが開発メニューが進行するに従って、軽装にならざるを得ない。
フロントバンパーに開けられているであろうブレーキ冷却用も塞がれており、冷却系になんらかの悪影響もあるはずだ。その速度域になると空力性能がカギを握るわけで、つまり、小さな凹凸も性能に影響を及ぼすから手を抜けない。
開発初期ブルーシート系でも事足りるのかもしれないが、熟成が進めば微細な悪影響だって取り除かなければならず、そのために一枚ずつ纏った衣服を脱ぎ捨てていき、いずれはスッポンポンになる。その直前がこのブラジャー1枚のあられもない姿となるわけだ。そこにデザイナーのセンスが介在するというのだからストリッパー級に深い。
最近の偽装の流行は「幾何学模様」である。かつてのような、あるいは開発初期段階に見られるような、パネル張り合わせではなく、視覚を欺く幾何学模様が流行っている。
そもそも偽装にマットブラックが多いのは、光の反射を抑えることで、面や線の構成を欺くためだ。陰影がなければ、人の目は凹凸の分析力が曖昧になる。そこに、わけわからん幾何学模様をウニウニっとさせれば、さらに認識力が低下するという寸法だ。
シートではなくテープならば、空力的悪影響も最小限に抑えられる。開発進捗に合わせて偽装を作り替えずともすむ。数百万円×進捗分の節約にもなるのだ。今後はこの幾何学模様カッティングシート傾向で進むのだろう。
「86」のそれは、渦巻き模様だった。次期ホンダNSXとおぼしきテスト車両は、つや消しの黒字に筆を振るったかのようなデザインである。ダイハツ・ミライースは、白地にキュートな絵柄があしらわれていた。
おそらく見られることを前提にしていることはあきらか。メーカーもほとんどキャバ嬢と同じで、「見せパン」のようなものなのである。
見せパンの代表が、2008年にGAZOO Racingでニュルブルクリンク24時間だろう。なんといったって、デビュー前にレースに参戦してしまったのだから、もはやマスコミの目から逃れようという気すらない。ボディはマットブラックである。そのあたりに開発車両であることの痕跡が残るものの、もはや見せパンを超越していた。
偽装の仕方によって、開発の進捗状況を予測することも可能である。そのデザインから新型車両のキャラクターも想像できる。そう考えると、スクープもティザー広告の一種であり、偽装もキャラクターアピールの衣装だということができる。
もっとも、白昼堂々ニュルブルクリンクで走るということは、盗まれてもいい技術、もしくは、ライバルメーカーが分析してもパクれない技術って事なのかもしれない。
B2爆撃機がスピードウェイ上空を飛翔するように、スッポンポンになった時にはもう次の開発がスタートしているのだろう。
おっしゃるとおり、駆動方式は用途によって様々なようですね。
キャタピラタイプに乗ったこともありますよ。フォークリフト型なのに、フォークがショベルだったりするのも存在しますね。両方のフォークの中央に座るタイプもあります。働くクルマは、使い方によってとても個性的なのです。
グッドウッドフェスティバル・オブ・スピードに今年も行ってきました。マーチ卿主催の晩餐にも招待されました。となればおのずと、慣れぬタキシードを着込んだりするのです。プチセレブ気分!
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【編集部より】
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