今年のレースシーズンが終ったいま、なんだか例年のように、どこか寂しさを感じている。
事務所の棚には、これまで僕の体を守り続けてくれてきたヘルメットが並んでいる。なんだか寂しそうに…。
今年かぶってきたヘルメットを手にとって、ちょっと愛おしく眺めていると、ずいぶんと傷ついていることに気づいた。その傷がいつどこで刻まれたのかは覚えていないけれど、やっぱりニュルブルクリンクだったり、マシンテストのときだったり、ファンのみんなとの触れ合いイベントのときのものなのだろう。僕のヘルメットは何も言わないけれど、僕のことをじっと見つめつづけてきたのだ。
ニュルブルクリンク24時間レースのスタート直後の1コーナーで、メルセデスSLSとコツンとやり合ったあの瞬間だって、漆黒のノルドシュライフェの恐怖におののく僕の気弱な走りに、意外と意気地がないんだね…、なんて感じながら見ていたのだろう。ということは、GAZOO Racing最高順位を手にした瞬間のあのチェッカーフラッグだって、嬉しそうに見ていてくれたはずなのだ。
ただ、傷だらけである。健気に働くヘルメットを僕は、ずいぶんと酷使してきたんだなぁと思う。ごめんね。ありがとう。
プロドライバーはたいがい、1年にひとつやふたつのヘルメットを新調する。多い人なら、3つも4つもだ。
ただ僕はたいがいふたつ。ひとつをレギュラー扱いして、もうひとつはスペア。ふたつをまんべんなくローテーションすればどちらもピカピカのままシーズンオフを迎えられるのだとは思うけれど、なんだかどちらかに偏ってしまうのだ。
インナーの形状は、顔の形にあわせて特注してもらっている。だけど、ちょっと太ったり痩せたりしているうちに、インナーの形も変化してきて、結局はどっちか優先的に馴染んできてしまう。一方に偏るのはそれが理由なんだね。
基本的にデザインは変えない主義。レースを始めたときにこしらえたデザインはたった1年で衣替え。F3時代までは、青のところが赤だっただけで、サイドから眺めると僕のイニシャルの「K」をモチーフにしたそのまま。もうこのデザインで20年以上経つのだ。
ということはつまり、あのぼろ負けして無様なレースも、派手に優勝したレースも、すべて見てきているのだ。
意匠チェンジしない理由は、そんな愛着によるのだろう。
ドライバーって、ヘルメットをかぶってしまうと、ほとんど素顔なんて見えやしない。だからデザインそのものが表情なわけ。コロコロ変えない理由はそれかもしれないね。流行のメッキにしたり、キラキラ入れたりといった小さな変化はさせているけれど、遠くから見ても、あれがキノシタだってわかるようにね。
ともあれ、今年のヘルメットは今年の思い出をつぶさに見てきたもう分身。思い出をまたひとつ、棚にそっと置く。
自動駐車は日進月歩で進化している。まだツカエルレベルではないとは感じるけれど、次々と使い勝手が良くなっているようだね。あと数年で、モタモタしないシステムになると思う。運転の苦手な高齢者の人には待望のシステムになる。必ず。
だけど、駐車をスパッと決めるのも、男として欠かせないポイントだよね。誰かを助手席にのせているときなどは、絶対にしくじれない瞬間がそれ。華麗に決めたとき、ドヤ顔を隠すのに苦労することもある (笑) 。
やっぱり自動駐車じゃなくて、自分の運転センスを磨きたいところだな。
ル・ボランの取材で「プレミアムスポーツセダンの乗り比べ」をした。
完成度ではアウディが抜きん出ていた。だが、味という点では…。
つい数年前までは平凡なジャンルだったこの世界も、とびきり個性的になってきた。世界は個性を求めているのだ。
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【編集部より】
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