レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


85LAP もうひとつの僕        (2012.11.27)

傷の数は思い出の数

こうしてコクピットに収まっていると、ヘルメットが顔になる。
こうしてコクピットに収まっていると、ヘルメットが顔になる。

今年のレースシーズンが終ったいま、なんだか例年のように、どこか寂しさを感じている。

事務所の棚には、これまで僕の体を守り続けてくれてきたヘルメットが並んでいる。なんだか寂しそうに…。

今年かぶってきたヘルメットを手にとって、ちょっと愛おしく眺めていると、ずいぶんと傷ついていることに気づいた。その傷がいつどこで刻まれたのかは覚えていないけれど、やっぱりニュルブルクリンクだったり、マシンテストのときだったり、ファンのみんなとの触れ合いイベントのときのものなのだろう。僕のヘルメットは何も言わないけれど、僕のことをじっと見つめつづけてきたのだ。

ニュルブルクリンク24時間レースのスタート直後の1コーナーで、メルセデスSLSとコツンとやり合ったあの瞬間だって、漆黒のノルドシュライフェの恐怖におののく僕の気弱な走りに、意外と意気地がないんだね…、なんて感じながら見ていたのだろう。ということは、GAZOO Racing最高順位を手にした瞬間のあのチェッカーフラッグだって、嬉しそうに見ていてくれたはずなのだ。

ただ、傷だらけである。健気に働くヘルメットを僕は、ずいぶんと酷使してきたんだなぁと思う。ごめんね。ありがとう。

お気に入りはひとつ

プロドライバーはたいがい、1年にひとつやふたつのヘルメットを新調する。多い人なら、3つも4つもだ。

ただ僕はたいがいふたつ。ひとつをレギュラー扱いして、もうひとつはスペア。ふたつをまんべんなくローテーションすればどちらもピカピカのままシーズンオフを迎えられるのだとは思うけれど、なんだかどちらかに偏ってしまうのだ。

インナーの形状は、顔の形にあわせて特注してもらっている。だけど、ちょっと太ったり痩せたりしているうちに、インナーの形も変化してきて、結局はどっちか優先的に馴染んできてしまう。一方に偏るのはそれが理由なんだね。

もう20数年の付き合いである

基本的にデザインは変えない主義。レースを始めたときにこしらえたデザインはたった1年で衣替え。F3時代までは、青のところが赤だっただけで、サイドから眺めると僕のイニシャルの「K」をモチーフにしたそのまま。もうこのデザインで20年以上経つのだ。

ということはつまり、あのぼろ負けして無様なレースも、派手に優勝したレースも、すべて見てきているのだ。

意匠チェンジしない理由は、そんな愛着によるのだろう。

ドライバーって、ヘルメットをかぶってしまうと、ほとんど素顔なんて見えやしない。だからデザインそのものが表情なわけ。コロコロ変えない理由はそれかもしれないね。流行のメッキにしたり、キラキラ入れたりといった小さな変化はさせているけれど、遠くから見ても、あれがキノシタだってわかるようにね。

ともあれ、今年のヘルメットは今年の思い出をつぶさに見てきたもう分身。思い出をまたひとつ、棚にそっと置く。

  • ファン感謝デーでプレゼントしたり、スポンサー様のショールームに飾ってもらったりで、意外に減っている運命のヘルメットの中で、縁あって傍らに寄り添うことになったヘルメット達だ。ここに納め切れなくなったのは、自宅に保管してある。白地の無地は、極秘テスト用。
    ファン感謝デーでプレゼントしたり、スポンサー様のショールームに飾ってもらったりで、意外に減っている運命のヘルメットの中で、縁あって傍らに寄り添うことになったヘルメット達だ。ここに納め切れなくなったのは、自宅に保管してある。白地の無地は、極秘テスト用。
  • 青いのは昨年仕様。赤いのはF3時代にかぶっていたタイプ。基本的なデザインは踏襲している。スポンサーロゴも思い出の印。
    青いのは昨年仕様。赤いのはF3時代にかぶっていたタイプ。基本的なデザインは踏襲している。スポンサーロゴも思い出の印。
  • 成瀬さんが亡くなってから、ニュルブルクリンク用ヘルメットには「NARUSE LIVES」を刻んでいる。コース図の中に、生きている。
    成瀬さんが亡くなってから、ニュルブルクリンク用ヘルメットには「NARUSE LIVES」を刻んでいる。コース図の中に、生きている。
木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「たあたん」さんからの質問
最近テレビで、車が勝手に縦列駐車をしている映像を見ました。
まるでSF映画のワンシーンのようでビックリしました。
本当に人が運転しなくても勝手に駐車してくれるのような車が開発されているのでしょうか。
もしそうなら、私の母のような高齢者も安心して車に乗ることができ、とても素晴らしいと思うのですが。

自動駐車は日進月歩で進化している。まだツカエルレベルではないとは感じるけれど、次々と使い勝手が良くなっているようだね。あと数年で、モタモタしないシステムになると思う。運転の苦手な高齢者の人には待望のシステムになる。必ず。

だけど、駐車をスパッと決めるのも、男として欠かせないポイントだよね。誰かを助手席にのせているときなどは、絶対にしくじれない瞬間がそれ。華麗に決めたとき、ドヤ顔を隠すのに苦労することもある (笑) 。

やっぱり自動駐車じゃなくて、自分の運転センスを磨きたいところだな。

キノシタの近況

 ル・ボランの取材で「プレミアムスポーツセダンの乗り比べ」をした。
 完成度ではアウディが抜きん出ていた。だが、味という点では…。
 つい数年前までは平凡なジャンルだったこの世界も、とびきり個性的になってきた。世界は個性を求めているのだ。
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。