トヨタ名古屋自動車大学校「女性ショールームスタッフ科」という、ちょっと長い名前の教育機関を訪れたのは、2年前の春のことだ。
その名のとおり、将来のショールームスタッフを育成する。自動車大学校のカリキュラムだから、それは自動車ディーラーのショールームをさす。それまでは販売会社が独自に行っていた教育を、学校法人として担うのが目的だ。
2年課程である。
授業内容は大きくわけて3種類。専門科目、教養科目と一般教育科目。
専門科目は、クルマの構造から点検整備までを習得する本格的なもの。
接客がメインの仕事といえども、ディーラーで働く以上クルマの基礎知識は不可欠である。実際に整備用つなぎを着てスパナを握る。卒業時にはなんと、国家資格である「3級自動車ガソリン・エンジン整備士」が取得できるというからなかなか本格的なものだ。
ずらりと並んだエンジンを前に、それぞれが組みつけ作業に没頭していた。その姿は、ショールームレディ養成というより、ほとんどプロメカニック教育機関であるかのよう。3級自動車ガソリン・エンジン整備士の取得は、ここまでやらねばならないのかというレベルにビックリである。
教養科目は、法律から店舗経営などに及ぶという。スキル次第では店長に登り詰めることも夢じゃないのである。
一般教養も徹底している。国語・英語はもちろん、華道や茶道、あるいは着付けまで習得する。クルマを売るにはまず自分を売らねばならない。これは商売の鉄則。ここではまず、魅力的な女性を目指すのである。
開校初年度のその年は、高校を卒業したばかりの初々しい生徒が12名、学校訪問した時には偶然、「接客ロールプレイング」の最中。
「いらっしゃいませ。車検の予約をされている○○さんですね。お待ちしておりました」
ディーラーを模した教室で、実践さながらの授業が展開されていたのだ。
「お客様の目を見て話しかけます。第一印象はそこで決まります」
「腿の裏側に力を入れ、頭が上に引かれているように立ちます」
「“ありがとうございます”の“あ”の言葉を大切に…」
社会人として磨かれるわけだ。
「“よろしかったですね?”と過去形で質問するのは失礼です」
ぜひ、ファミレスやコンビニのバイト君達に教えたいほどである。
もっとも、そこはそこ、まだ高校を卒業したばかりのいわばギャル。まだまだ幼さが抜けない。
教室は女子高校がこうであろう空気が漂っていた。化粧の香りが甘く漂うなか、キャピキャピと笑い声が響く。
何人かの生徒に質問をしてみた。
「好きな科目は?」
「洗車!」
「洗車?」
「あっ、洗車、です!」
顔を赤らめて言い直す表情は初々しい。
「面白かったことは?」
「クルクルが笑えた、いや、笑えました!」
「クルクル?」
「タイヤ交換の時、クルクル回すやつです」
「十字レンチね」
「それそれ、…です!」
「なんでショールームスタッフ科を選んだの?」
「まだ仕事はしたくないっていうか…」
「だから学校を?」
「本当は美容師になりたかったんですけど、就職が厳しいっていうし…」
昨今の女性は、なかなか正直で堅実なのである。
この学校を卒業すると、ディーラーへの就業斡旋が充実しているという。よしんばディーラーでなくとも、身につけた接客術は他の業種でも生かされるに違いない。
「将来はレクサス店希望?」
「いえ、そこらへんの近所が希望です」
「そこらへん?」
「近所のおっちゃんと絡みたいっていうか…、あっ、接客したいと希望しております」
不思議と不快感はなかった。その笑顔のせいだろう。
「ところで、女性ショールームスタッフ科という名称って長くない?」
「長いですね」
「普段はなんて呼んでいるの?」
「スタッフ科ですよね、普通」
するとどこからともなく声が響いた。
「ショスタっす!」
あれから2年、彼女達はこの春卒業を迎える。全員がキャピキャピを脱して、立派なショールームスタッフとして、いやショスタとして巣立って行くのだろう。機会があれば、彼女達が働く職場を訪問してみたいものだ。
近所のおっちゃんとして…。
仕事をする意義がわからないって、ちょっと寂しいことだよね。うむ~残念!
キノシタが掲げている格言は「いつも楽しく生きる」です。ねっ、幼稚でしょ?
楽しいと感じることしかしない。するつもりはない。楽しいと思える人としか仕事はしない。するつもりもない。いや、できない。まったく無責任でかつ、いい加減な考え方なのです。
人間の能力なんて小さいもの。だけど、その仕事が楽しければ、もしくは楽しい人達との仕事ならば、一生懸命になれる。努力も辛くない。となれば、乏しい能力を100%発揮できるのではないかと…。そんな思いなのです。納得ならない仕事では、そもそも乏しい能力の数%しか発揮できない。それでは寂しいからね。
そうそう、レースの話ね。なんでレースしているかって?
頭では理解できていないのだ。欲求の赴くままです。誰よりも速く走りたいという闘争本能がレースをさせている。幸い魅力的なメンバーと出会うことができた。有力チームと仕事ができるのは嬉しいし、金がもらえるのは助かる。もっともっと金も欲しい。凄いねって言われたい。邪念だらけです。
ともあれ、根底は、速く走りたいという本能だけ。楽しく速く…なわけです。
ノンキな男の信念なんて、あまり参考になりそうもないね(笑)。
2013年のニュルブルクリンク24時間参戦車両の完成が迫っている。撮影した2月18日現在ではまだシートも取付けられておらず、これから、って感じだけど、こうしてマシンを見ると気持ちが高揚してくるものだね。今年の課題は軽量化。「軽さは七難隠す」とはキノシタが常日頃口にしている言葉です。それが真実かどうかは5月のニュルブルクリンク24時間で判明するのだ。
www.cardome.com/keys/
【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。