レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


89LAP 散水量は10L/sec!それで世界が潤います        (2013.1.22)

それを性癖と呼ぶ

動くものなら何でも好きなんだなぁ。
 子供の頃から自覚している症状である。これはもう、病気といってもいいほどである。門外漢ならば、性癖と呼び蔑むかもしれない。

船、旅客機、もちろんクルマ。陸海空問わず、動くものに吸い寄せられる性癖があるのだが、特にクルマ、ハンドルがあれば、たいがいが興味の対象となる。

そう、「散水車」なんてもう、興奮の絶頂である。下手をすると、スポーツカーよりも楽しかったりするのだから、やはりもう性癖と言い捨てられることのほうが正しい。

先日、TGRFで演出した「86パフォーマンスショー」のリハーサル時間は、キノシタにとって至福のひとときだった。劇車はドリフト仕様に仕立てられた3台の86だった。だがキノシタは86には目もくれず、いや、ガソリンが空になるまで走らせたのだが、ちょっとした休憩時間に興味深いクルマを発見。すると居ても立っても居られず、傍らに待機していたコース清掃用の散水車に飛び乗ったのである。
 結局、リハーサルに準備されていたその日1日、86を走らせていた時間よりも散水車体験時間の方が多かったと思う。

散水車初ドライブ。場所は富士スピードウェイという幸運。GAZOO Racingのスタッフジャンバーも誇らしげだ。次期型GRMNは、散水車になるはずである。
散水車初ドライブ。場所は富士スピードウェイという幸運。GAZOO Racingのスタッフジャンバーも誇らしげだ。次期型GRMNは、散水車になるはずである。

たかが散水車、されど散水車。もしキノシタが将来とっても裕福になって、テニスコートサイズのガレージを持つ身になったら、10台目くらいに散水車を買うと思う。それほど惚れてしまった。

だってまず、装置が特殊である。

あたりまえといっちゃあたりまえだし、だからなんだと言われれば二の句が継げない。散水車なのだから、散水装置がなければ散水車じゃない。それを言っちゃおしまいよと、柴又あたりから声が聞こえそうである。
 だけど、少なくともキノシタの愛車にはそれはないわけで、つまり、新しいモノに触れる喜びが人を惹き付ける源なのだ。

儀式を行う興奮で人を惹きつけます

その散水車は2トントラックをベースとする特殊車両である。
 操作はそれほど難しくはない。ただし、決められた段取りがある。これがワクワクする瞬間なのだ!

  1. バブルを「吸入」にアジャスト (散水だけでなく、放水もできるのだ!凄い!) 。
  2. スロットルを高速に設定 (ダイヤルだけでいわば散水量が選べるのだ。もちろん超高速設定! ドキドキしてきた!) 。
  3. コクピットに乗り込んでエンジンを始動 (ディーゼル車だから、独特の振動が心地良い!) 。
  4. シート横の安全装置を解除 (サイドブレーキ状のレバーがそれ!) 。
  5. 水ポンプエンジン始動 (左側タンクの下に、補助エンジンが備わるのだ。電気モーターじゃないぞ、エンジンだぞ、エンジン!つまり、ツインエンジンなわけだ! キャッホー凄い!)。
  6. 散水バルブ開放 (後方散水なのか前方散水なのか、それとも両方なのかを選択する!もちろん前後全開だわな!) 。
  7. すると前後の散水口からジャバジャバと派手なサウンドが響く。いわば天使の咆哮だ (しばらくすると、我が身が乗るトラックの回りが水に包まれていくのだ!池の上で浮遊しているみたいだったぞ!) 。

これ、ほとんどスーパーGTマシンを走らせる前の儀式のようです。アドレナリンが沸々と沸いてくるのです。

  • どうだ、この誇らしげな勇士。威風堂々。乾いたコンクリート砂漠を潤いで満たしていく。殺伐とした路面は、鏡面に輝く。散水車は人を詩人にもします。
    どうだ、この誇らしげな勇士。威風堂々。乾いたコンクリート砂漠を潤いで満たしていく。殺伐とした路面は、鏡面に輝く。散水車は人を詩人にもします。
  • どうだ、この力強さ。補助エンジンの圧倒的なパワーが、水膜を路面に叩き付ける。陶然はしだいに恍惚となっていく。ただし、背中に背負った4トンの水が空になるのはあっという間。20分ほど酔いしれていたら、給水に向かわねばならなかった。
    どうだ、この力強さ。補助エンジンの圧倒的なパワーが、水膜を路面に叩き付ける。陶然はしだいに恍惚となっていく。
     ただし、背中に背負った4トンの水が空になるのはあっという間。20分ほど酔いしれていたら、給水に向かわねばならなかった。

散水は芸術的センスが要求されます

それからがまた楽しい。
 散水エリアをまんべんなく、水深を一定に散水していくのにはちょっとしたコツが必要だ。
 路面には凹凸もあれば、傾斜もある。それを読みながら、水撒きする必要があるのだ。
 レーシングドライバーが路面のアンジュレーションを感じながら戦うように、だ。
 数往復して振り返る。路面が鏡のように光り輝いていれば、夢精してしまったかのような快感が走る。やり遂げたことの喜び。自らのスキルに満足する。

鏡面は煌びやかな光沢を放っており、これが現世とは信じられない。おそらく天国とは、こんな光景が広がっているのだろう。そうキノシタは病気なのである。

まだまだ快感は終らない。
 すべて水を巻き散らしてしまったら水タンクは空になる。するとまた至福の一時、給水が待っているのだ。
 給水は太いパイプから…。

もういいですね。キノシタにとっては神から与えられたもうた陶酔の余暇であっても、この記事を読んでいる門外漢には苦痛の時間でしかない。
 このあたりで失礼しよう!

ネットで中古車販売を検索した。
 すると、数台がヒット。しかし、流通している物件はほとんどが2トン車であって、キノシタが攻め込んだ4トン車を発見できなかった。
 とっても希少なマシンをドライブしたことになる。
 ちなみに、世界限定500台のレクサスLFAならば、7台の中古車がヒット。レクサスLFAオーナーよりも選ばれた人になったわけだ!

「愛車に1台いかが?」

メーカー名 日野自動車 車種名 デュトロ
本体価格 346.5万円(税込) 支払総額 ---
年式 11(H23)(年式(初度登録年)) ミッション フロア5MT
走行距離 0.3万km 乗車人数 3
車検 13(H25)/09 ハンドル 右ハンドル車
排気量 4000cc ドア 2
保証 保証無 禁煙車 非禁煙車
整備 整備無 リサイクル リ済別
PR L-02843 極東開発製 散水車 2トン(2000L)積み レンタカー可能平成23年式 走行3000km 車検付 日野デュトロ 全ての作動良好 修理歴 修復歴無し
オプション
エアコン パワステ パワーウィンドウ CDデッキ ×
MDデッキ × カーナビ × TV × ETC ×
キーレスエントリー × エアバック ABS アルミホイール ×
エアロパーツ × ローダウン車 × サンルーフ × 本革シート ×
ワンオーナー車 × ディーラー車 × 福祉車両 × 定期点検記録簿 ×
4WD ×
  • 左サイドの散水コントローラー群。ターポーチャージャーに見えるのは、給水ポンプシステムだ。まさに加給して水を撒く。ほとんど2000馬力級ドラックエンジンのよう。おもわず見とれた。
    左サイドの散水コントローラー群。ターポーチャージャーに見えるのは、給水ポンプシステムだ。まさに加給して水を撒く。ほとんど2000馬力級ドラックエンジンのよう。おもわず見とれた。
  • 富士スピードウェイには、給水ステーションが備わっている。ここからの給水は満タンまで20分。
    富士スピードウェイには、給水ステーションが備わっている。ここからの給水は満タンまで20分。
  • タンクの中身は水だわな。比重は1.0。最大容量が4000リットルということはつまり、最大積載量は4000kg。このわかりやすさが男らしい!
    タンクの中身は水だわな。比重は1.0。最大容量が4000リットルということはつまり、最大積載量は4000kg。このわかりやすさが男らしい!
木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「くまっこ」さんからの質問
こんにちは。はじめて質問します。
年末に大掃除をしていた時に、少し前のGTのDVDが出てきて、つい懐かしくて見入ってしまいました。
その時、「水冷式レーシングスーツ(?)」というものが出てきました。
マレーシアなど熱い場所でレースをする際、ドライバーが着用するもので、中で水が循環すると解説されていたのですが、どんな仕様になっているのでしょうか?
それに、水が入ったスーツを着たら重量も重くなり、レースに不利なのでは…?
途中で壊れたりしたら、水が出っ放しになるのでしょうか?
どんなものか、教えていただけると嬉しいです!

「水冷式レーシングスーツ」が懐かしい?
 いやいや、いまだに現役で活躍していますよ。

ここ数年、エアコン式のクールスーツが増えているけれど、それは資金が潤沢なワークス系チームで普及しているにすぎない。GT300の多くはいまだに、水冷式のお世話になっているんだよ。

システムは簡単そのもの。レーシングスーツの内側に、フード付きのベストを着る。そのフードとベストには、細い管が張り巡らされている。ストローの半分くらいの径の管がね。その管に冷水を循環させるんだ。

冷水は助手席に設置したクーラーボックス(アウトドアショップで売っている製品を改良する)を冷却水(ラジエター用のクーラントね)で満たし、氷(かき氷用サイズ)で冷却する。機構はいたってシンプル。
 だがこれが、おっしゃるとおり、頻繁に壊れる。

ポンプが故障して循環しなくなることもある。配管が抜けて、コクピットが水浸しになったこともある。キノシタは過去に、このふたつを何度も経験しているね。

セパンのレース中にドライバーが倒れる、というのはたいがいこのパターン。よしんば壊れなくても、氷が溶けたら温水スーツになる。これも灼熱地獄。ドライバーチェンジの度に、氷チェンジをしなければならないというタイムロスもある。かなりローテクだよね。

急速に技術が進歩するレースの世界で、もっとも遅れているのが「水冷クールスーツ」かもしれない。実は25年ほど前から、ドライバークーリングシステムの開発は始まっていた。僕がニスモドライバーの時になんども実験していたんだ。だけど、なかなかモノにならなかった。ようやく進化の兆しが見えたってところだね。

キノシタの近況

  珍しくモーターショー観戦である。動くものにしか興味がないから、つまり、展示してあるだけのモーターショーを見たいとは思わないできたんだ。「クルマは走ってナンボ」を格言としてきたからね。だけど、実際に訪れてみると、違った喜びがあることに気がついた。メーカーごとの意気込みやもてなしの細工などを確認できたのも収穫。最高なのはやはり、デビューしたてのホカホカ物に触れることができること。C7コルベット、ドキドキしました。僕が乗っていたC6の方が好きだけど。アキュラNSXは、相当にいいぞ。かっこいい!
www.cardome.com/keys/

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。