このところ米国仕事が続いたことで、またまた「NASCAR熱」が再燃の気配である。
デトロイト→テキサス→ロサンジェルス、一度日本に戻ってまたロサンジェルス往復。人足仕事をこなしたのも束の間、ほとんどパンツとシャツを荷造りしただけでロサンジェルスで10日。一度ニュルブルクリンク4時間参戦を挟み、その翌週にはまたニューヨークである。ここ数年は、活動の拠点は日本とドイツだったから、数年ぶりに富める国アメリカのおおらかさに浸っているわけだ。
となれば、根っからのNASCAR好きがムクムクと頭をもたげてくる。
ヨーロッパ型レースを続ける日本では、その対極にあるアメリカンレースはマイナーな存在だ。だけど、そのエンターテイメントぶりは凄まじい。貴族のスポーツから発展したヨーロッパ型レースは自らが楽しむもの、移民の国であるアメリカのモータースポーツは、観るものをエキサイトさせるものという、根底が異なる。それにキノシタが惹かれるのも道理なのである。俺はこっちが本物だと思うな!
そんなキノシタに、NASCARの魅力を教えてくれたのは、東洋人唯一のNASCARスプリントカップカードライバーである福山英朗先輩である。
ちなみに、スプリントカップとはNASCARのカテゴリーの1つ。レベルと人気によって10段階くらいのカテゴリーが積み重なるピラミッドの頂点となる、最上級カテゴリーである。福山さんは、1998年鈴鹿で開催されたNASCARエキジビジョンレースの活躍がNASCARチームオーナーの目にとまり、2002年に本場アメリカに渡った。NASCARのパイオニアである。いまではNASCAR伝道師として活躍されている人だ。
ではNASCARとは? ってことなのだが、「クルマ・スキ・トモニ」はモータースポーツ専門コラムではないので、詳細は省略。実際に本場で戦った本人のコメントを交えて、NASCARの凄さと魅力を紹介しよう。
木下「福山さん、320キロでバンクに飛び込むのは怖いですか?」
福山「そうだねぇ~、高速道路を150キロで走っていて、そのままノーブレーキでランプウェイに飛び込むような感覚かな?」
ゲゲッ!
木下「ブレーキを踏まないで?」
福山「初めてオーバルを走った時、『ブレーキの効きが甘いから、もっと強めて欲しい』ってチームにリクエストしたんだよ。そうしたらこう言われたよ。『大丈夫だよ、このコースではブレーキは踏まないんだから…』ってね」
木下「凄い横Gなんでしょうね」
福山「最初は、日本のレーシングスーツを着た。そうしたら、脇から腰にかけて、糸の縫い目があるだろ?あれが肌に食い込んで青あざになったんだ。オーバルはずっと同じ横Gが続くからね」
木下「オーバルコースには、ピットロードにガレージがないですよね。走行するたびに、わざわざパドックにあるガレージから出入りしていますね。面倒ではないですか?」
福山「じゃ、日本のレイアウトは?」
木下「観客立ち入り禁止のガレージから、立ち入り禁止のピットロードを通過してまた、立ち入り禁止のガレージに戻ることになります」
福山「それがヨーロッパ型のスタイルだよね」
木下「それが一般的です」
福山「だとすると、ファンはいつ、マシンに接近することができる?
NASCARではねぇ、走ってきたばかりの、チンチンに熱を持ったマシンが、パドックの大勢のファンの前を通過してガレージに戻るんだよ。間近で観れるのさ。そのためのレイアウトなのさ」
木下「儲かるんでしょうねえ?」
福山「みんな自家用機を持ってるよ!」
木下「空港からサーキットに向かう?」
福山「庭に滑走路がある」
木下「賞金はいい?」
福山「ビッグレースでは、優勝して1億5000万円」
木下「じゃ、絶対に優勝したいですね」
福山「もちろんだけど、ビリでも3000万円くらいもらえることもある。ビリがあるからトップがいるっていう精神が流れているんだよ」
木下「サーカス団に、ピエロがいるから空中ブランコのスターが惹き立つってこと?」
福山「観客目線だからね」
木下「無線の指示を聞きながら走っている?」
福山「スポッターのことだね。スタンド最上段からレースを観ながら、ドライバーに指示を出すんだ。右側に移れだとか、左を注意しろだとかね」
木下「ドライバーが自分で判断するのではないの?」
福山「基本的にはドライバーの判断だけど、ライバルとの車間距離は数センチ、後ろも数センチ、左右も数センチ、何も見えないんだ」
木下「渋滞路?」
福山「それが320キロのスピードで展開されるんだよ」
木下「年間、何レース?」
福山「38戦!」
木下「1年間は48週しかないんですけど…」
福山「だからほとんど全米を移動している。その都度、20万人の観客が集まるんだ」
木下「巨人vs阪神戦だって、せいぜい5万人ですのにねぇ…。クラッシュしたら、次のレースまでにマシンの修復が間に合わないですね」
福山「大丈夫だよ。トップチームは5台やそれ以上のマシンを常に並行して造っているから。というより、レース中には別の部隊が次の開催地に向かって旅立っているんだよ」
木下「福山さんも?」
福山「僕のチームも、僕専用のマシンが5台ほど常に用意されていたよ」
木下「ところで、マシンはローテクですよね。電子制御は禁止だし、カーボンのような高価な素材も禁止、タイヤも小さいし…」
福山「では質問です。見えないところのボルトを高価なチタンにしたりカーボンにすると、観客は喜ぶのかなァ?トラクションコントロールやABSをつければ、ドライバーの力量が見えなくなるよね。答えはそれだよ」
福山「でもパワーは凄いよ。900馬力!」
なんだか話が尽きないから、今回はこのあたりに留めおくことにしよう。
ともかく、NASCARのスケールは桁が違うのだ。観客目線のエンターテイメントの最高峰だと思う。
NASCAR伝道師の福山さんは、「福山英朗と行くNASCARツアー」を企画してくれています。興味ある方はこちらまで…。
●福山英朗さんと行くNASCARツアー
http://www.collins.ne.jp/fukuyama/index.html
「クルマの開発」といっても、いろいろなパターンがある。本腰を入れて、一から開発に携わるパターンと、開発途上のどこかのタイミングで試乗し、簡単なコメントを残すパターンに大別されると思うよ。
前者となれば、責任重大。クルマに試乗してコメントする…というレベルを超えて、コンセプトや開発の組織作りにもアドバイスする。クルマには、部内外問わず、必ずメインとなる開発ドライバーがいる。彼らがそれを担当するわけだ。レクサスLFAだったら「故・成瀬弘さん」。日産GTRだったら「鈴木利男さん」がその役目を果たす。
後者であれば、時に声がかかり、意見を差し挟む。軽く触れたり乗ったりした印象をコメントで伝え、開発メンバーが、クルマ造りの参考にするわけだ。
「足が硬いですねぇ…」「いやいや、操縦性が整っていますねぇ…」なんて具合にね。「僕はこのボディカラーは嫌いですね」なんて意見もあるかもしれない。
開発には大勢のメーカー社員が参画しているけれど、社内だけで完結させようとすると発想や感覚が偏ってしまう。だから、常に世界のクルマに触れている人、クルマとは別の世界で生きる人、そんな部外者の意見にも耳を傾けるのである。
で、「乗ってすぐにわかるの?」なのだが、答えは「わかる」。
特に、限界の走りを求めたマシンであれば、さすがに優秀なテストドライバーであっても覗けない世界であるわけで、そのあたりの領域は我々レーシングドライバーの意見は貴重なのである。
ただし、「木下がこういったから、すぐにその通りにしましょうか」なんて安直なことではないけれどね。
最近ハマってるのが、GAZOORacingのマスコット「ルーキーちゃん」。これは名古屋オートトレンドの楽屋でのカット。どんだけハマっているって、一心同体になるほどハマってます。ぜひ応援に来てくださいな。
www.cardome.com/keys/
【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。