レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム ~木下アニキの俺に聞け!~クルマ・スキ・トモニ

人とクルマの、ともすれば手の平から溢れてしまいそうな素敵な思いを、丁寧にすくい取りながら綴っていくつもりです。人とクルマは、いつまでも素敵な関係でありたい。そんなGAZOOが抱く熱く溢れる思いが伝わりますように…。
レーシングドライバー 木下隆之氏


98LAP ボートというよりほとんど飛行機です!        (2013.6.11)

休日の安らぎを引き裂くものは…?

こうして並ぶと迫力満点だね。まさに速さのために贅肉を削り落としたフォルム。本物だけが持つ殺気が漂う。 こうして並ぶと迫力満点だね。まさに速さのために贅肉を削り落としたフォルム。本物だけが持つ殺気が漂う。

動くものがあれば、やがて競争に行き着くのが人の常。クルマがあればカーレース。船があればボートレース。空には航空機のレースまであるというから、どうやら人間には競い合うという闘争本能がDNAの回路に植えつけられているようである。

先日、久しぶりの休日をマリーナで過ごしていると、どこからともなくバリバリと空気の壁が引き裂かれるような爆音が響き渡った。基本的に動力を持たないヨットは、風の力だけをたよりに優雅にクルージングしていた。クルーザーも桟橋につながれ、プカプカと波間に揺れている。そんな穏やかな休日に不釣り合いの爆音が、安らぎのひとときを襲ったのだ。

爆音の主は、競争用パワーボートだった。

海のF1

パワーボートには、自動車レースの世界がそうであるように、いくつかのカテゴリー分けがされている。

「フォーミュラークラス」「ハイドロクラス」「Vクラス」といったコンパクトな単座マシンでの戦いに対して、前後に長い2名、もしくは3名で操船する「オフショアクラス」が基本構成。

特にキノシタが興味深いのはオフショアクラス。これこそがまさに海のF1と呼ばれているマシン。とにもかくにも大きなエンジンを積み、ひたすら最高速度にこだわっているタイプだ。男気一本槍である。

中には、8リッタースーパーチャージャーによって1200馬力を発する超絶エンジンを、しかもご丁寧に4基搭載するようなバケモノもあるらしい。最高速度は200km/hに達するというから正気の沙汰ではない。

ちなみに海で50km/hはかなりの速度。シートベルトなしでは跳ね飛ばされそうになる。ということから換算すると、海の速度は地上の3倍から4倍の違いがある訳で、だから海の200km/hは地上の800km/h?
ほとんど空の世界である。たしかに、海の上ではあるものの、ほとんど海面から浮き上がっている。

水の抵抗は凄まじく、そのストレスを「象を牽引しているのと同じ…」と表現されることもあるほどだから、水の抵抗をパワーで押し切るためには、数1000馬力の推進力があってしかるべきである。だがしかし、4基掛けとは恐れ入る。したがってスクリューは4ペラである。

ボートレースの本場はアメリカ。かつて日本でも、熱海オーシャンカップが華やかであり、自動車レース界の猛者も余暇のひとつとして参加していた時期もあった。いまでもマリンとサーキットの両刀を使う酔狂も残存しているものの、かつての隆盛は影を潜めた。それでもまだ、あの刺激を忘れることのできない御仁は少なくないのである。

  • サビひとつないなんて、実は船では珍しいことなんだ。徹底的に整備されているのは地上のマシンと同様だ。
    サビひとつないなんて、実は船では珍しいことなんだ。徹底的に整備されているのは地上のマシンと同様だ。
  • もっとも遠くに横づけられるのは、前後で着座するタイプ。まさに戦闘機のようだ。
    もっとも遠くに横づけられるのは、前後で着座するタイプ。まさに戦闘機のようだ。
  • 最近評判のホンダの船外機を搭載。環境性能の点でも評判はいい。
    最近評判のホンダの船外機を搭載。環境性能の点でも評判はいい。

三人四脚?

このボートは2名乗車。右のクルーはステアリング担当。左のクルーはスロットル担当。役割分担されている。船体に記されたネーミングでそれがわかる。 このボートは2名乗車。右のクルーはステアリング担当。左のクルーはスロットル担当。役割分担されている。船体に記されたネーミングでそれがわかる。

木下がオフショアクラスに惹かれる理由は実は、その特殊な操船方法にある。

ひとりがステアリングを操作し進路を決める。ひとりがスロットルを操り、加減速を担当。もうひとりのナビゲーターが、コース取りなどを指示するのだ。

レーシングドライバーの常識からは大きく異なる。なんと最大3名のクルーが同時に操船するというのだから腰を抜かしかける。

特に重要なのは、スロットルマンだという。

ボートは水面を飛び跳ねるように進む。川面に投げる平石のごとく、だ。だから、スクリューは船体の最下端に設置されているとはいえ、頻繁に空がきする。ひたすらスロットルオンではオーバーレブが避けられないため、スロットルマンが着水状態を意識しながらスロットル調整するのである。

その脇で、コース取りを指示するナビゲーターとステアリングマンが、進路を導くといった具合なのだ。

もしそれが自動車レースだったら?

他人にエンジンや進路を託しているなんて、絶対にイヤである。

仮に自分がステアリングを握っており、だが助手席の誰かがスロットルペダルを操作するとする。心臓がいくつあっても足りないだろう。それをパワーボートレースの世界では、1200馬力×4=4800馬力の世界でこなすというのだ。ごめんこうむりたい。

それでも男は競争に没頭する。その気持ちはわからなくはない。かつてキノシタはジェットバイクのレースにのめり込みそうになった。それはそれで刺激的だったのだ。…という話はいつかしようと思う。

木下アニキの俺に聞け 頂いたコメントは、すべて目を通しています!するどい質問もあって、キノシタも大満足です!言っちゃダメなことなど。オフレコで答えちゃいますよ!
ニックネーム「LFAほしい」さんからの質問
ニュルお疲れ様でした。
ところで、ニュルを走るLFAは左ハンドルだと思いますが、木下さんは、左・右どちらが運転しやすいですか?

ニュルブルクリンク24時間仕様のLFAは、輸出仕様がベースになっているので左ハンドルです。ニュルブルクリンク24時間仕様も、同じ理由で左ハンドルなんです。かつてはポルシェ911でスーパー GTを戦っていたし、BMWでのシーズンも長かった。だからあまりハンドルの位置にはこだわらない。まったく気にならないというのが正直なところだよね。

ただ、人によっては左ハンドルに違和感を感じる人もいるらしい。

そもそも人間は、左旋回の方が曲がりやすいという性質があるという。運動場のトラックも左回り、野球のダイヤモンドも左回りだ。スピードスケートも左旋回だ。真偽のほどは確かではないけれど、左旋回が感覚的に違和感がないというのだ。

だとすると、左カーブでは、ドライバーの体重分だけ荷重移動が理想的なわけで、左ハンドルの方が心理的違和感もなく、物理的にも理にかなっている。スムースにコーナリングしやすいということになる。

ハンドルの位置は慣れ次第。だけど、左ハンドルが理想的なのかもね。

キノシタの近況

いまさらだけど、ニュルブルクリンク24時間レース、僕らが駆る86はクラス2位を獲得した。
最後の最後はトップに2分差まで迫ったけれど、力尽きた。ライバルの圧倒的速さの前に、力負けしたのが悔しい。
ともあれ、コーナリング性能は抜群で、なんども大外刈りをかますことができたのは快感。速さでは負けたけど、爽快感では勝ったような気がする。
応援ありがとう。

【編集部より】
木下アニキに聞きたいことを大募集いたします。
本コラムの内容に関することはもちろんですが、クルマ・モータースポーツ・カーライフ…等のクルマ情報全般で木下アニキに聞いてみたいことを大募集いたします。“ジミーブログ”にてみなさまのご意見、ご感想をコメント欄にご自由に書き込みください。