動くものがあれば、やがて競争に行き着くのが人の常。クルマがあればカーレース。船があればボートレース。空には航空機のレースまであるというから、どうやら人間には競い合うという闘争本能がDNAの回路に植えつけられているようである。
先日、久しぶりの休日をマリーナで過ごしていると、どこからともなくバリバリと空気の壁が引き裂かれるような爆音が響き渡った。基本的に動力を持たないヨットは、風の力だけをたよりに優雅にクルージングしていた。クルーザーも桟橋につながれ、プカプカと波間に揺れている。そんな穏やかな休日に不釣り合いの爆音が、安らぎのひとときを襲ったのだ。
爆音の主は、競争用パワーボートだった。
パワーボートには、自動車レースの世界がそうであるように、いくつかのカテゴリー分けがされている。
「フォーミュラークラス」「ハイドロクラス」「Vクラス」といったコンパクトな単座マシンでの戦いに対して、前後に長い2名、もしくは3名で操船する「オフショアクラス」が基本構成。
特にキノシタが興味深いのはオフショアクラス。これこそがまさに海のF1と呼ばれているマシン。とにもかくにも大きなエンジンを積み、ひたすら最高速度にこだわっているタイプだ。男気一本槍である。
中には、8リッタースーパーチャージャーによって1200馬力を発する超絶エンジンを、しかもご丁寧に4基搭載するようなバケモノもあるらしい。最高速度は200km/hに達するというから正気の沙汰ではない。
ちなみに海で50km/hはかなりの速度。シートベルトなしでは跳ね飛ばされそうになる。ということから換算すると、海の速度は地上の3倍から4倍の違いがある訳で、だから海の200km/hは地上の800km/h?
ほとんど空の世界である。たしかに、海の上ではあるものの、ほとんど海面から浮き上がっている。
水の抵抗は凄まじく、そのストレスを「象を牽引しているのと同じ…」と表現されることもあるほどだから、水の抵抗をパワーで押し切るためには、数1000馬力の推進力があってしかるべきである。だがしかし、4基掛けとは恐れ入る。したがってスクリューは4ペラである。
ボートレースの本場はアメリカ。かつて日本でも、熱海オーシャンカップが華やかであり、自動車レース界の猛者も余暇のひとつとして参加していた時期もあった。いまでもマリンとサーキットの両刀を使う酔狂も残存しているものの、かつての隆盛は影を潜めた。それでもまだ、あの刺激を忘れることのできない御仁は少なくないのである。
木下がオフショアクラスに惹かれる理由は実は、その特殊な操船方法にある。
ひとりがステアリングを操作し進路を決める。ひとりがスロットルを操り、加減速を担当。もうひとりのナビゲーターが、コース取りなどを指示するのだ。
レーシングドライバーの常識からは大きく異なる。なんと最大3名のクルーが同時に操船するというのだから腰を抜かしかける。
特に重要なのは、スロットルマンだという。
ボートは水面を飛び跳ねるように進む。川面に投げる平石のごとく、だ。だから、スクリューは船体の最下端に設置されているとはいえ、頻繁に空がきする。ひたすらスロットルオンではオーバーレブが避けられないため、スロットルマンが着水状態を意識しながらスロットル調整するのである。
その脇で、コース取りを指示するナビゲーターとステアリングマンが、進路を導くといった具合なのだ。
もしそれが自動車レースだったら?
他人にエンジンや進路を託しているなんて、絶対にイヤである。
仮に自分がステアリングを握っており、だが助手席の誰かがスロットルペダルを操作するとする。心臓がいくつあっても足りないだろう。それをパワーボートレースの世界では、1200馬力×4=4800馬力の世界でこなすというのだ。ごめんこうむりたい。
それでも男は競争に没頭する。その気持ちはわからなくはない。かつてキノシタはジェットバイクのレースにのめり込みそうになった。それはそれで刺激的だったのだ。…という話はいつかしようと思う。
ニュルブルクリンク24時間仕様のLFAは、輸出仕様がベースになっているので左ハンドルです。ニュルブルクリンク24時間仕様も、同じ理由で左ハンドルなんです。かつてはポルシェ911でスーパー GTを戦っていたし、BMWでのシーズンも長かった。だからあまりハンドルの位置にはこだわらない。まったく気にならないというのが正直なところだよね。
ただ、人によっては左ハンドルに違和感を感じる人もいるらしい。
そもそも人間は、左旋回の方が曲がりやすいという性質があるという。運動場のトラックも左回り、野球のダイヤモンドも左回りだ。スピードスケートも左旋回だ。真偽のほどは確かではないけれど、左旋回が感覚的に違和感がないというのだ。
だとすると、左カーブでは、ドライバーの体重分だけ荷重移動が理想的なわけで、左ハンドルの方が心理的違和感もなく、物理的にも理にかなっている。スムースにコーナリングしやすいということになる。
ハンドルの位置は慣れ次第。だけど、左ハンドルが理想的なのかもね。
【編集部より】
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