1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第7回:JGTC 2004年 第3戦 セパン(マレーシア)決勝
SUPER GTは日本唯一の国際シリーズとして存在しているが、そのスタートはまだ全日本GT選手権(JGTC)であった時代だ。かつての日本レース界が欧州の名車、名ドライバーの来訪によりレベルを挙げていったように、新たにモータリゼーションが巻き起こっている東南アジア諸国に日本発のモータースポーツを届ける。さらなるシリーズの発展と共に、そんな大きな目標も持ってマレーシア大会が開催された。そして2003年には、JGTCの醍醐味のひとつであるミラクルな逆転劇を、デンソー サードスープラ GTが披露した。
雨からドライに。変化に戸惑い厳しい予選13位に
2004年シリーズ第3戦「JAPAN GT CHAMPIONSHIP MALAYSIA」は、首都クアラルンプールから1時間ほど、国際空港にほど近いセパン・インターナショナル・サーキットで、開催された。前年は東南アジア諸国を脅かしたSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行による渡航制限で富士スピードウェイでの代替開催となってしまったが、仕切り直しとなったこの大会の決勝日にはマレーシアのみならず、タイやシンガポール、そして日本から、4万人に近い観客が集まっていた。
セパンでは、当時あった金曜日の練習走行からスープラ勢が好調。No.6 エッソウルトラフロースープラ(脇阪寿一/飯田章)やNo.36 WOODONEトムススープラ(土屋武士/マルコ・アピチェラ)らが好タイムを連発していた。
予選日(土曜)午前の予選1回目は、東南アジアらしい突然の雨。このなかで、No.39 デンソー サードスープラ GTは、ジェレミー・デュフォアがトップタイムをマーク。「セパンはウェットコンディションでのグリップがいいんだ。この状態にあったタイヤチョイスができたこともよかった」と語り、ポールポジションへの意欲も見せたデュフォアだったが、ドライコンディションに替わった2回目の公式予選では期待したほどにはタイムが伸びず。予選13位、7列目からと言う後方スタートになってしまった。
手応えが戻ってきた決勝日のフリー走行
しかし、一夜明けるとデンソー サードスープラ GTにドライコンディションの速さが戻ってくる。日曜朝のフリー走行でトップタイムをマークしたのだ。走行を終えてデュフォアは「昨日のセットから特に何も変えていないけど、タイヤがすごくあっていた。満タンでクルマのバランスもかなりいい。13番手というグリッドは残念だけど、決勝ではかなり速いと思うので心配はしていない」と分析し、クートも「チームのムードも、クルマの状態もよくなって、決勝には期待が持てます」とコメント。決勝レースは彼らの期待通りの展開となった。
灼熱のコンディションが少しでも和らぐよう、セパンでの決勝レースのスタートは夕刻になっている。その予定よりやや遅れて17時20分にレースが始まり、フロントローから飛び出した2台、カルソニックIMPUL Z(ブノワ・トレルイエ)とWOODONEトムススープラ(土屋武士)がドッグファイトを展開しながら先行。その後方では激しいバトルが展開された。その間隙を縫うようにデンソー サードスープラ GT(クート)が大きくジャンプアップ。3周を終えた時点で早くも6番手に進出し、さらに5周目にはエッソウルトラフロースープラ(飯田章)に次ぐ4番手、9周目には何と、そのエッソウルトラフロースープラをパスして表彰台圏内の3番手に進出していた。
その後、デンソー サードスープラ GTは、一度はエッソウルトラフロースープラに抜き返されたものの再度抜き返し、レース前半は3番手のポジションを確保。前を行くWOODONEトムススープラ、カルソニックIMPUL Zを追いかけることになる。
下位から激走!見事な逆転劇でセパンを沸かす
ルーティン(所定)のピットインを終えレースは後半戦を迎える。すると、2番手のカルソニックIMPUL Z(井出有治)が、周回遅れのGT300クラス車両と接触してトップ争いから脱落。労せずして2番手に進出したデンソー サードスープラ GT(デュフォア)は、更にトップを行くWOODONEトムススープラに猛チャージする。
タイヤが厳しくなったことに加えてクールスーツにもトラブルを抱え、トップのWOODONEトムススープラ(マルコ・アピチェラ)のペースは上がらない。その差はどんどん詰まっていき、残り10周を切ったところで、ついにトップが逆転した。
驚異的なスピードとパーフェクトなピット作業によって、13番手と後ろから3列目という望み薄のポジションからデンソー サードスープラ GTが、何とトップに躍り出たのだ。
残りの周回も快走を続けたデンソー サードスープラ GTは、1年ぶりのトップチェッカー。これがJGTC初優勝となったデュフォアは「アンドレ(クート)がグリッド後方から追い上げているのを見ていて、クルマが速いのは分かっていた。でもピットがかなり早めで、長く走ることになり、最初の10周はタイヤをセーブした。残り10周くらいでこれが効いた」としてやったりの表情。
F3世界選手権とも称されるマカオGPで優勝をしているクート。F1のテストドライバーも務めたデュフォア。この2人のスプリントランナーを、日本チームで最初にル・マン24時間に挑戦したチームをルーツに持ち、そしてル・マン制覇を成した大橋孝至監督が巧みに操る。スタートのポジションが悪くても、勝ちを諦める必要はない。そんなJGTCのおもしろさを、セパンの観衆に、そして私たちに改めて教えてくれた一戦となった。
写真協力:GTアソシエイション
-
スコールが降り注いだ予選1回目で、デンソー サードスープラGTのデュフォアは暫定ポールポジションを獲得する。
-
フォーメーションラップへ向かうGT500の隊列。予選13位に沈んだデンソー サードスープラ GTは画面左後方にいる。
-
「クルマの状態も良く、タイヤ選択も上手くいった」というクートは、中団のライバルを次々抜き、ポジションを挙げていく。
-
ル・マンをはじめ国内外の耐久レースで活躍してきた名門チーム、SARD。レース中のピット作業もお手のものだ。
-
クールスーツの故障で、WOODONE トムススープラのアピチェラは熱中症寸前でペースダウン。後ろにデュフォアが迫る。
-
暑さを避けるため夕方スタートとなったセパン戦は、夕日の中での終盤戦を迎える。デンソー サードスープラ GTはトップを快走。
-
この勝利でSARDは2003年10月以来のGT通算4勝目、スープラにとってセパン戦2勝目となった(ノンタイトル戦で1勝)。
-
クートは2001年以来の2勝目、デュフォアは嬉しい初勝利。この年、2人は最終的にランキング2位という好成績だった。
JGTC 2004年 第3戦 セパン(マレーシア)決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | 周回 | ベストラップ | タイヤ | ウエイト |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 39 | 500-1 | デンソー サードスープラ GT | J.デュフォア A.クート | 1:53'47.096 | 54 | 2'02.318 | BS | 10 |
2 | 35 | 500-2 | イエローハットYMSスープラ | 服部尚貴 脇阪薫一 | 0'02.113 | 54 | 2'03.309 | DL | 10 |
3 | 1 | 500-3 | ザナヴィニスモ Z | 本山 哲 R.ライアン | 0'21.470 | 54 | 2'02.739 | BS | 40 |
4 | 3 | 500-4 | G'ZOX・SSR・ハセミ Z | 金石年弘 E.コマス | 0'36.077 | 54 | 2'02.507 | BS | |
5 | 37 | 500-5 | DYNACITY トムス スープラ | J.コートニー 片岡龍也 | 0'42.987 | 54 | 2'03.043 | BS | 20 |
6 | 22 | 500-6 | モチュールキーバリューZ | 影山正美 M.クルム | 0'45.702 | 54 | 2'02.754 | BS | 30 |
7 | 38 | 500-7 | auセルモスープラ | 立川祐路 荒 聖治 | 1'14.961 | 54 | 2'03.669 | BS | 80 |
8 | 18 | 500-8 | TAKATA童夢NSX | 道上 龍 S.フィリップ | 1'25.118 | 54 | 2'03.923 | BS | +1 |
9 | 32 | 500-9 | EPSON NSX | 松田次生 A.ロッテラー | 1'51.137 | 54 | 2'04.171 | BS | 10(+1) |
10 | 36 | 500-10 | WOODONE トムススープラ | 土屋武士 M.アピチェラ | 2'20.890 | 54 | 2'02.552 | BS | |
11 | 8 | 500-11 | ARTA NSX | 金石勝智 伊藤大輔 | 1Laps | 53 | 2'05.746 | BS | +1 |
12 | 15 | 500-12 | AMPREXムルシエラゴ R-GT | 橋本元次 N.サイモン | 3Laps | 51 | 2'05.739 | MI | |
13 | 7 | 300-1 | 雨宮アスパラドリンクRX7 | 山路慎一 井入宏之 | 1:55'33.427 | 51 | 2'11.953 | YH | 15 |
14 | 21 | 500-13 | フェラーリ550GTSマラネロ | 光貞秀俊 植松忠雄 | 3Laps | 51 | 2'07.046 | DL | |
15 | 16 | 300-2 | M-TEC NSX | 山野哲也 八木宏之 | 1Laps | 50 | 2'11.046 | DL | 30 |
16 | 5 | 300-3 | プロジェクトμB-1マッハ号GT320R | 玉中哲二 三船 剛 | 1Laps | 50 | 2'12.488 | YH | |
17 | 30 | 300-4 | RECKLESS MR-S | 佐々木孝太 後藤 聡 | 1Laps | 50 | 2'12.239 | BF | 10(+1) |
18 | 10 | 300-5 | JIM Gainer アドバンF360 | 田中哲也 余郷 敦 | 1Laps | 50 | 2'12.822 | YH | 15 |
19 | 81 | 300-6 | シーウエストダイシンアドバンZ | 柳田真孝 尾本直史 | 1Laps | 50 | 2'12.199 | YH | +2 |
20 | 80 | 300-7 | エンドレスダイシンアドバンZ | 木下みつひろ 星野一樹 | 1Laps | 50 | 2'11.790 | YH | +1 |
21 | 52 | 300-8 | プロジェクトμ太陽石油セリカ | 竹内浩典 西澤誠剛 | 1Laps | 50 | 2'13.952 | DL | +1 |
22 | 11 | 300-9 | JIM RodeoDrive アドバンF360 | 松田秀士 菅 一乗 | 1Laps | 50 | 2'12.661 | YH | 30 |
23 | 26 | 300-10 | エンドレスタイサンADVAN GT3R | 山岸 大 浅井亮博 | 1Laps | 50 | 2'14.357 | YH | |
24 | 9 | 300-11 | ADVAN K-STADIUM MT | 清水 剛 細川慎弥 | 1Laps | 50 | 2'13.892 | YH | |
25 | 17 | 300-12 | エスペリア Kosei セリカ | 長島正興 松永まさひろ | 1Laps | 50 | 2'14.954 | YH | 20 |
26 | 20 | 300-13 | FK/Massimo ADVAN ポルシェ | 井上高志 宮川やすお | 2Laps | 49 | 2'13.870 | YH | |
27 | 63 | 300-14 | LEYJUNダンロップ320R | OSAMU 吉本大樹 | 2Laps | 49 | 2'11.182 | DL | 30 |
28 | 910 | 300-15 | 高見沢整骨院アドバンポルシェ | 高見沢一吉 砂子塾長 | 2Laps | 49 | 2'15.443 | YH | |
29 | 51 | 300-16 | NSC・AUTO-STAFF・ADVANシルビア | 加藤正将 筒井克彦 | 2Laps | 49 | 2'15.264 | YH | |
30 | 2 | 300-17 | プリヴェチューリッヒ・クムホ NSX | 高橋一穂 渡辺 明 | 2Laps | 49 | 2'14.828 | KH | +2 |
31 | 77 | 300-18 | クスコスバルADVAN インプレッサ | 小林且雄 谷川達也 | 3Laps | 48 | 2'14.472 | YH | +2 |
32 | 111 | 300-19 | ARKTECH ENDLESS ADVAN GT4 | 飯島寛也 大井貴之 | 4Laps | 47 | 2'16.785 | YH | |
33 | 70 | 300-20 | フィールズ外国屋ADVANポルシェ | 石橋義三 ヒロミ | 5Laps | 46 | 2'17.548 | YH | |
34 | 6 | 500-14 | エッソウルトラフロースープラ | 脇阪寿一 飯田 章 | 10Laps | 44 | 2'02.809 | BS | 20 |
35 | 43 | 300-21 | ARTA Garaiya | 新田守男 高木真一 | 8Laps | 43 | 2'12.766 | BF | 20 |
36 | 31 | 300-22 | A'PEX i-mobisess MR-S | 田中 実 松田晃司 | 8Laps | 43 | 2'13.746 | BF | |
37 | 100 | 500-15 | RAYBRIG NSX | 中野信治 加藤寛規 | 12Laps | 42 | 2'04.247 | BS | +2 |
25 | 500 | ECLIPSE ADVAN スープラ | 織戸 学 D.シュワガー | 20Laps | 34 | 2'04.601 | YH | 50 | |
12 | 500 | カルソニック IMPUL Z | B.トレルイエ 井出有治 | 23Laps | 31 | 2'02.080 | BS | 10 | |
72 | 300 | アドバンBOROポルシェ | 平川 晃 福山英朗 | 22Laps | 29 | 2'13.017 | YH | ||
88 | 500 | JLOC ムルシエRG-1 | 山西康司 WADA-Q | 30Laps | 24 | 2'09.831 | DL | ||
19 | 300 | ウェッズスポーツセリカ | 青木孝行 谷口信輝 | 38Laps | 13 | 2'14.152 | YH | 55 |
目次ページ
-
1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)