1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第6回:SUPER GT 2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 決勝
1994年に本格的なスタートを切った全日本GT選手権(JGTC)は、国際シリーズ化などさらなる発展を目指し、2005年にSUPER GTと名称を変更した。この記念すべき年に自身2度目のドライバーズタイトルを獲得し、名実ともにGTを代表するトップドライバーとなった男がいる。現在、最多タイとなる3度のチャンピオンに輝き、GT500最多勝、最多ポール獲得、1シーズン最多タイの3勝を誇る立川祐路だ。その記録男の立川には、もうひとつ不思議な巡り合わせがあることをご存じだろうか?
14点差を逆転するため立川がレコードで予選1位に
予選でポールポジションを獲得したのは、ZENTセルモスープラ 38号車(立川祐路/高木虎之介)。立川は、1分53秒801のコースレコードを叩き出して、この時点でランキングリーダーのARTA NSX 8号車(伊藤大輔/ラルフ・ファーマン)にプレッシャーを掛ける。
この年、トヨタスープラ勢は好調な活躍を見せ、ここまでの7戦で4勝を挙げている。この予選でもエッソウルトラフロースープラ 6号車(脇阪寿一/飯田章)とOPEN INTERFACE TOM'S SUPRA 37号車(片岡龍也/山本左近)が2、3位となり、予選トップ3をスープラが占めていた。ZENTセルモスープラとタイトルを争うライバル、ARTA NSXは予選6位と出遅れていた。他のチャンピオン候補3台は予選下位に沈んでいた。
とは言え、ARTA NSXとZENTセルモスープラのポイント差は14点。ARTA NSXがレースで6位になれば、ZENTセルモスープラは優勝してもタイトルが逃げてしまう。当時は、現在のシリーズ最終戦のようにウェイトハンディがなくなるわけでなく、ZENTセルモスープラは40kgの、ARTA NSXは90kgのウェイトハンディを搭載していた。この点はZENTセルモスープラ有利だが、ARTA NSXの実力から6位入賞というノルマは軽いと思われていた。
すべての状況を変えてしまった雨の決勝レース
だが、決勝レースは雨。それもスタート直前に土砂降りとなり、セーフティカーに先導されてのスタートが決められた。さらにレース距離が52周から39周/約226.5kmに短縮され、各チームともレース戦略の変更を余儀なくされることになる。ちなみにドライバーの最大周回数は当初のままで35周とされたから、スタートでのセーフティカーラップが4周以上に及んだら、そこでピットインしてドライバー交代して残りを1人で走りきる作戦も可能になる。要は天候をどう読むか。雨が止むのか、このまま強く降るのか? ピットインを早めにするのか、引っ張るのか?
結局、決勝レースは予定より1時間近く遅れてスタート。セーフティカーは結局、4周にわたって隊列を先導し、5周目に入ったところでコースから退去。タイトルを賭けた本当のバトルが始まった。
セーフティカーに続いてピットに向かったマシンも何台かはいたが、 ZENTセルモスープラのスタートドライバーだった高木は、更に1周回ってピットに向かった。同じタイミングで2番手のエッソウルトラフロースープラ(脇阪)もピットに入り、ピットアウトではエッソウルトラフロースープラがZENTセルモスープラの鼻先を制するシーンもあった。しかし1周回ってきた最終コーナーで立川が脇阪をパス。逆転タイトルに向け、雨中を目に見えないライバルを追うという孤独な追撃を開始した。
一方、ARTA NSX(ファーマン)はすぐにはピットインしなかった。やはりピットインを延ばしてトップに立ったOPEN INTERFACE TOM'S SUPRA(片岡)の後ろ、2番手にARTA NSXはつけた。ARTA首脳陣はレースの中止もあると、ポジションキープを選択。ファーマンをそのまま走らせる。もし雨が弱くなるなら、その時点で浅みぞタイヤに替えて追い上げ、6位でOKという作戦だった。だが、17周目に入ったところで、GT300車両のクラッシュでセーフティカーが入ってしまう。
これでピットを延ばしたチームのマージンが激減。追い上げを狙ったZENTセルモスープラに有利になったのだ。ARTA NSXは、このセーフティカーランの最後にピットイン。この時点で11番手まで下がっていた。この後、猛チャージを続けていたARTA NSX(伊藤)だったが、焦りからかGT300車両と接触してドライビングスルーペナルティとなる。彼らにとって終戦の宣告であった。
背後から迫るライバル。逃げ切った立川が2度目の戴冠
終盤までスタートドライバーのジェームズ・コートニーで引っ張っていたOPEN INTERFACE TOM'S SUPRA 36号車がピットイン。これでZENTセルモスープラが、トップに浮上。だが「出てすぐのコースは水か多くて、大変だった。怖いくらい。それに正直、途中まで自分が何位を走ってんのかわからなかった」と、レース後に立川は語る。事実、彼らの後方からは、立川より速いペースでザナヴィ ニスモ Z 1号車(リチャード・ライアン)が迫っていた。
もし、ザナヴィ ニスモ Zが立川の前でゴールすれば、タイトルは彼らのものとなる。ともにスタート直後にピットインしていたから、彼らのレインタイヤは限界に近かった。それでも、エース・立川は、綱渡りのような滑る路面で渾身のドライブを続けた。
その差は1.5秒。「無線で『抜かれちゃダメよ〜』と言われて。そんな、わざわざ抜かれるつもりはなかったですけどね(笑)。周りの状況があるから、ゴールするまでチャンピオンを獲れたんだかどうだかわからなかった。ゴールしてから聞いて知ったんです」と立川。ZENTセルモスープラは、辛くも逃げ切り、シーズン3勝目を飾る。これで立川は2度目のドライバーズタイトルを手に入れた。そしてこの年、JGTC初年度から活躍してきたスープラが、トヨタの主力車としての役割を終えた。そして、立川が3度目のタイトルを獲得した2013年は、その後継車LEXUS SC430の最終年であった。SUPER GT/JGTCで数々の記録を持ち、この2005年以外にも名勝負を演じてきた立川だが、こんな巡り合わせを持つ男でもあるのだ。
写真協力:GTアソシエイション
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2005年で2回目、通算3回目のポールポジションを獲得した立川。現在は最多と共に国内開催全6コースで獲得という記録も持つ。
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鈴鹿サーキットは2009年に大改修を行い現在に至る。2005年当時のピットビルは今と違うため、ピットレーンの風景も少し違う。
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強い雨に見舞われた決勝レース。スタートから4周はペースカーが先導した。この後の天気の予測とピット戦略が明暗を分けた。
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レース周回数が短縮され、ドライバーの最低周回数も4周となる。38号車は5周でスタートドライバーの高木をピットインさせた。
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「作戦がうまくいった。トヨタとチームが速いクルマを作ってくれた。ほんとうれしい!」と優勝と共にタイト獲得を喜んだ。
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実質1周で後を立川に任せた高木は「(見た目の順位と違っても)計算ではトップだったし、安心して見てましたよ」と語る。
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第2戦と第6戦富士に続き、3勝目を挙げた38号車。優勝以外の入賞は7位が1回という浮き沈みの激しいシーズンだった。
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この後立川は、数々の記録を打ち立ていく。高木は彼を支えるチーム監督と立場を変えたが、良好なコンビは今も顕在だ。
SUPER GT 2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | 周回 | ベストラップ | タイヤ | ウエイト |
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1 | 38 | 500-1 | ZENTセルモスープラ | 立川 祐路 高木 虎之介 | 1:41'36.807 | 39 | 2'12.236 | BS | 40 |
2 | 1 | 500-2 | ザナヴィ ニスモ Z | 本山 哲 リチャード・ライアン | 1.538 | 39 | 2'12.417 | BS | 30 |
3 | 6 | 500-3 | エッソウルトラフロースープラ | 脇阪 寿一 飯田 章 | 23.605 | 39 | 2'12.681 | BS | 20 |
4 | 3 | 500-4 | G'ZOX・HASEMI・Z | 金石 年弘 エリック・コマス | 31.772 | 39 | 2'14.076 | BS | 30 |
5 | 36 | 500-5 | OPEN INTERFACE TOM'S SUPRA | 土屋 武士 ジェームズ・コートニー | 32.925 | 39 | 2'12.168 | BS | 20 |
6 | 18 | 500-6 | TAKATA 童夢 NSX | 道上 龍 小暮 卓史 | 33.804 | 39 | 2'11.984 | BS | 40 |
7 | 37 | 500-7 | OPEN INTERFACE TOM'S SUPRA | 片岡 龍也 山本 左近 | 39.778 | 39 | 2'11.852 | BS | |
8 | 22 | 500-8 | モチュールピットワーク Z | ミハエル・クルム 柳田 真孝 | 41.345 | 39 | 2'13.979 | BS | 60 |
9 | 12 | 500-9 | カルソニックインパル Z | ブノワ・トレルイエ 井出 有治 | 45.902 | 39 | 2'12.695 | BS | 40 |
10 | 32 | 500-10 | EPSON NSX | 松田 次生 アンドレ・ロッテラー | 1'00.621 | 39 | 2'14.510 | DL | 40 |
11 | 39 | 500-11 | デンソー サード スープラGT | アンドレ・クート ロニー・クインタレッリ | 1'01.876 | 39 | 2'11.081 | BS | |
12 | 8 | 500-12 | ARTA NSX | 伊藤 大輔 ラルフ・ファーマン | 1'09.987 | 39 | 2'11.929 | BS | 90 |
13 | 35 | 500-13 | イエローハットYMSスープラ | 服部 尚貴 ピーター・ダンブレック | 1Lap | 38 | 2'15.773 | DL | |
14 | 25 | 500-14 | ECLIPSE ADVANスープラ | 織戸 学 ドミニク・シュワガー | 1Lap | 38 | 2'15.972 | YH | 10 |
15 | 21 | 500-15 | ノマドフェラーリ550GTS | 黒澤 琢弥 光貞 秀俊 | 1Lap | 38 | 2'18.109 | DL | |
16 | 11 | 300-1 | JIM GAINER FERRARI DUNLOP | 田中 哲也 パオロ・モンティン | 1:43'03.058 | 38 | 2'22.957 | DL | 40 |
17 | 34 | 500-16 | BANDAIスープラ | 荒 聖治 横溝 直輝 | 2Laps | 37 | 2'14.907 | DL | +1 |
18 | 0 | 300-2 | EBBRO M-TEC NSX | 黒澤 治樹 細川 慎弥 | 1Lap | 37 | 2'22.667 | DL | 100 |
19 | 30 | 300-3 | RECKLESS MR-S | 佐々木 孝太 山野 哲也 | 1Lap | 37 | 2'23.134 | MI | 75 |
20 | 46 | 300-4 | Dream Cube's ADVAN Z | 星野 一樹 青木 孝行 | 1Lap | 37 | 2'24.867 | YH | 60 |
21 | 10 | 300-5 | MACH-GO FERRARI DUNLOP | 三船 剛 松田 秀士 | 1Lap | 37 | 2'23.152 | DL | |
22 | 2 | 300-6 | Privée Zurich アップル RD320R | 高橋 一穂 渡辺 明 | 1Lap | 37 | 2'24.688 | YH | +2 |
23 | 31 | 300-7 | 吉兆宝山MR-S | 田中 実 中嶋 一貴 | 1Lap | 37 | 2'23.390 | MI | 30 |
24 | 43 | 300-8 | ARTA Garaiya | 新田 守男 高木 真一 | 1Lap | 37 | 2'21.639 | MI | 100 |
25 | 19 | 300-9 | ウェッズスポーツセリカ | 加藤 寛規 谷口 信輝 | 1Lap | 37 | 2'27.177 | YH | 35 |
26 | 13 | 300-10 | エンドレス アドバン Z | 木下 みつひろ 影山 正美 | 1Lap | 37 | 2'24.040 | YH | 45 |
27 | 86 | 300-11 | JLOC ムルシェ RG-1 | 山西 康司 古谷 直広 | 2Laps | 36 | 2'25.751 | YH | |
28 | 7 | 300-12 | 雨宮アスパラドリンクRX7 | 山路 慎一 井入 宏之 | 2Laps | 36 | 2'26.194 | YH | 5 |
29 | 77 | 300-13 | クスコスバルADVANインプレッサ | 小林 且雄 谷川 達也 | 2Laps | 36 | 2'26.874 | YH | +2 |
30 | 27 | 300-14 | direxiv ADVAN 320R | 密山 祥吾 吉本 大樹 | 2Laps | 36 | 2'26.948 | YH | |
31 | 47 | 300-15 | CCI・リカルデント・ADVAN Z | 清水 剛 藤井 誠暢 | 2Laps | 36 | 2'27.266 | YH | +2 |
32 | 112 | 300-16 | ARKTECH RodeoDrive WAKO'S GT3 | 余郷 敦 壷林 貴也 | 2Laps | 36 | 2'29.821 | YH | |
33 | 5 | 300-17 | プロμMACH5B-1320R TEAM KYUSHU | 玉中 哲二 筒井 克彦 | 2Laps | 36 | 2'30.199 | YH | +2 |
34 | 52 | 300-18 | プロμ太陽石油 KUMHO セリカ | 竹内 浩典 平中 克幸 | 2Laps | 36 | 2'25.686 | KH | |
35 | 26 | 300-19 | DIRECTION TAISAN TOTAL S GT3R | 山岸 大 伊橋 勲 | 2Laps | 36 | 2'27.821 | YH | |
36 | 777 | 300-20 | 梁山泊・TEAM高見沢ADVAN GT3 | 高見沢 一吉 砂子 塾長 | 3Laps | 35 | 2'28.607 | YH | |
37 | 170 | 300-21 | 外国屋アドバンポルシェ | 石橋 義三 井上 貴志 | 3Laps | 35 | 2'29.883 | YH | |
38 | 62 | 300-22 | WILLCOM ADVAN VEMAC350R | 柴原 眞介 植松 忠雄 | 3Laps | 35 | 2'25.650 | YH | 10 |
39 | 9 | 300-23 | Gulf ADVAN FORTUNE MT | 山下 潤一郎 周防 彰悟 | 4Laps | 34 | 2'32.512 | YH | |
40 | 110 | 300-24 | ARKTECH TOTALBENEFIT BOXSTERGT | 菅 一乗 大井 貴之 | 4Laps | 34 | 2'29.597 | YH | |
41 | 72 | 300-25 | T.T.O ADVANポルシェ | 和田 博 平川 晃 | 4Laps | 34 | 2'31.841 | YH | |
87 | 300 | JLOC ムルシェ RG-1 | マルコ・アピチェラ WADA-Q | 15Laps | 23 | 2'25.433 | YH | ||
111 | 300 | ARKTECH with TeamLeyJun 968GT4 | 飯島 寛也 Guts 城内 | 31Laps | 7 | 2'45.787 | YH | ||
100 | 500 | RAYBRIG NSX | セバスチャン・フィリップ ジェレミー・デュフォア | 34Laps | 5 | 3'21.903 | BS | 40 |
目次ページ
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1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)
- 第10回:1997年 第6戦(最終戦)SUGO 諦めず走り続ける価値 (2015年4月24日公開)