1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第10回:JGTC 1997年 第6戦(最終戦)SUGO 決勝
シリーズ最終戦のおもしろさと言えば、勝負以上に白熱するタイトル争いだ。SUPER GTとその前進である全日本GT選手権(JGTC)では、ウェイトハンディと仕組みもあって、この最終戦が簡単なレースで終わることはまずなかった。決勝レースの順位が変わると共にタイトルに近づく者も変わり、ハラハラドキドキが高まるレース。1997年の最終戦は、GT500クラスのタイトルを4チームが争い、折からの雨もあり、レース中に優位な者がめまぐるしく変わる激戦となった。その中、早々のアクシデントでポイント獲得が難しくなっても、微かな可能性を信じて走る姿があった。
3台のスープラがGT初タイトルを目指す
1997年最終戦(第6戦)をランキングトップで迎えたのは、ここまで2勝を挙げているカストロール・トムス・スープラ36号車のミハエル・クルム/ペドロ・デ・ラ・ロサ組。彼らを4ポイント差で追うデンソーサードスープラGTの影山正美もやはり2勝している。そして13ポイント差のカストロール・トムス・スープラ37号車の関谷正徳/鈴木利男組、19ポイント差のZEXELスカイラインの鈴木亜久里の4チームがチャンピオンのチャンスを残していた。ただ、ポイントを考えると36号車とデンソーサードスープラGT、そして37号車という3台のスープラの戦いとみられていた。また1997年シーズンは、スープラがライバルを圧倒、ここまでの5戦中4戦に勝利し、最終戦を迎えた段階のランキングでも、上位を独占していた。
そして、舞台はスポーツランドSUGO。今では「魔物が棲む...」というキャッチコピーが付けられているが、当時もコース幅の狭さや路面の滑りやすさ、アップダウンが大きいことなど、難コースゆえの条件が重なり、アクシデントやハプニングが度々起きていた。
決勝レースは不安定なレースで波乱が続出
このレースでは、スタート直前に降り始めた雨も状況を悪化させた。そして、決勝スタートは、フロントロー2台のNSXが1コーナーで同士討ちするハプニングで幕を開ける。これでポールポジションのRAYBRIG NSX(飯田章)が脱落し、予選2位のavex 童夢無限 NSX(黒澤琢弥)がレ-スをリードする。その後方にはカストロール・トムス・スープラ37号車の関谷がつけ、この時点でタイトルのチャンスを大きくする。一方、本命視されたカストロール・トムス・スープラ36号車(クルム)だが、当時は最終戦でも降ろせなかった90kgのウェイトハンディに苦しみ、デンソーサードスープラGT(60kg、影山)と共に7番手を争っていた。このバトルが過熱し過ぎたか、19周目に両車が接触!テールを少し破損したもののデンソーサードスープラGTはそのままレースを続けたが、左フロントフェンダーを大破したカストロール・トムス・スープラ36号車はピットに戻って修復することになった。このタイムロスは大きく、このレースでのポイント獲得はまず無理。これでチャンピオンの座は遠く離れてしまうことに。
そのまま走り続けたデンソーサードスープラGTは予定通りのピットイン。だが、タイヤ交換の際に、アクシデントでダメージを受けたフェンダーが災いし1分40秒ものタイムロス。デンソーサードスープラGTも逆転タイトルに黄色信号が灯る。
一方、順調に走行を続けるのがカストロール・トムス・スープラ37号車。後半を担当する鈴木利男は、ポジションをひとつ上げて2番手に。このまま行けば、関谷組のチャンピオン。女神の天秤は彼らに傾いたかに見えた。
だが、この日のドラマはまだまだ続く。20周目辺りからライン上が乾いてきたこともあり、各車ともにドライタイヤに交換してレース後半を戦っていたが、60周目辺りから再び雨が落ち始めたのだ。残り20周ではタイヤ交換は決断できず、ドライバーたちは滑り易い路面と格闘を続けていた。その中、1台、また1台とスピンで後退していく。
わずかな可能性を信じて雨中を走った36号車
カストロール・トムス・スープラ37号車の鈴木は、グループCカーの海外戦で優勝経験もある実力者。2位でOKの彼らがチャンピオンを掴んだかに見えたラスト5周。ヘアピンで、何とその鈴木もスピン! コースに復帰した時点でポジションはチャンピオン圏外の4番手に落ちてしまう。これで再びタイトルの可能性が見えてきたのはデンソーサードスープラGT(谷川達也)。谷川は万全とは言えないスープラを懸命のドライブし、7位でチェッカー。修復に時間の掛かったカストロール・トムス・スープラ36号車(デ・ラ・ロサ)は、レースに戻ったが、結局最下位クラス15位で終わり、まさかのノーポイントに終わった。
この結果、36号車クルム組と39号車影山はまったくの同ポイントに。その場合、優勝回数でチャンピオンを決定することになるが、2台は優勝回数ばかりか2位入賞回数も同数であった。最終的に、3位を獲得した回数(クルム組が1回、影山が0回)で決着が付くことに。
タイムロスを考えるとどんなに走ってもノーポイントだった36号車。だが、彼らはかすかな可能性を求め、そして雨中で見守るファン、治してくれたチームのために走った。そのクルムとデ・ラ・ロサが初チャンピオンとなった。
確かに荒れたレースだったが、「チームオーダーは出さないし(37号車が)デンソーサードスープラGTを抑えるようなことはしない」とTOYOTA TEAM TOM'S首脳陣が語る通り、スープラ同士による死力を尽くしたクリーンなレースだった。
なお、混乱のレースを制したのは6番手グリッドから着実にポジションを上げて行った5ZIGEN SUPRAの田嶋栄一/マーク・グーセン組。ドライバーにとっても、チームにとっても、これが嬉しい初優勝だった。
写真協力:GTアソシエイション
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チャンピオンを争うカストロール・トムス・スープラ36号車とデンソーサードスープラGT。後方には同じカラーの37号車とセルモの38号車も。
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レース序盤、予選9位の36号車のクルムはZEXELスカイラインを抑えながら、先行するデンソーサードスープラGTを追う。
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降ったり止んだりの雨により、優勝争いも次々とリーダーが変わる。手堅いレースを進めた5ZIGEN SUPRAがGT初優勝。
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シリーズチャンピオンの表彰台で喜ぶクルムとデ・ラ・ロサ、TOM'Sの面々。彼らにもスープラにとっても初のJGTC制覇だ。
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この年のフォーミュラ・ニッポンも制したデ・ラ・ロサはその後F1に。クルムは後に日産へ移籍し2度目のタイトルを獲っている。
JGTC 1997年 第6戦(最終戦)SUGO 決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | |
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1 | 5 | 500 | 1 | 5ZIGEN SUPRA | 田嶋栄一 M.グーセン | 2:12'33.526 |
2 | 100 | 500 | 2 | RAYBRIG NSX | 高橋国光 飯田 章 | 0'44.771 |
3 | 2 | 500 | 3 | ZEXELスカイライン | 鈴木亜久里 E.コマス | 0'53.459 |
4 | 37 | 500 | 4 | カストロール・トムス・スープラ | 関谷正徳 鈴木利男 | 1'09.011 |
5 | 18 | 500 | 5 | avex 童夢無限 NSX | 黒澤琢弥 山本勝巳 | 1laps |
6 | 8 | 500 | 6 | POWER CRAFT SUPRA | W.ガードナー 長坂尚樹 | 1lap |
7 | 39 | 500 | 7 | デンソーサードスープラGT | 影山正美 谷川達也 | 2laps |
8 | 34 | 500 | 8 | STPタイサンアドバンバイパー | 土屋圭市 松田秀士 | 2laps |
9 | 30 | 500 | 9 | 綜合警備PORSCHE | 山田洋二 茂木和男 | 3laps |
10 | 71 | 300 | 1 | シグマテック 911 | 星野 薫 城内政樹 | 3laps |
11 | 26 | 300 | 2 | タイサンスターカードRSR | 鈴木恵一 新田守男 | 3laps |
12 | 25 | 300 | 3 | つちやMR2 | 土屋武士 長島正興 | 3laps |
13 | 7 | 300 | 4 | RE雨宮SuperG RX7 | 山路慎一 松本晴彦 | 4laps |
14 | 38 | 500 | 10 | カストロール・セルモ・スープラ | 竹内浩典 金石勝智 | 4laps |
15 | 19 | 300 | 5 | RS☆Rシルビア | 織戸 学 福山英朗 | 5laps |
16 | 6 | 300 | 6 | ワイズダンロップBP MR-2 | 加藤寛規 藤田孝博 | 5laps |
17 | 21 | 300 | 7 | ダンロップ-BP-BMW | 一ツ山康 水野文則 | 5laps |
18 | 81 | 300 | 8 | ダイシンシルビア | 大八木信行 木下隆之 | 6laps |
19 | 51 | 300 | 9 | コブラポルシェ | 石原将光 池谷勝則 | 7laps |
20 | 510 | 500 | 11 | RH CERUMO SUPRA | B.ガショー P.ベルモンド | 7laps |
21 | 54 | 300 | 10 | シュネル ポルシェ SDR | 田中信幸 斉藤和重 | 8laps |
22 | 20 | 300 | 11 | アイ・オートGABポルシェ | 高橋健二 須賀宏明 | 8laps |
23 | 910 | 300 | 12 | ナインテンポルシェ | 袖山誠一 玉本秀幸 | 8laps |
24 | 16 | 300 | 13 | BMW 325クーペ | 関根基司 藤島敏也 | 8laps |
25 | 13 | 500 | 12 | エンドレスアドバンGTR | 木下みつひろ 藤村満男 | 8laps |
26 | 88 | 500 | 13 | LOC ディアブロ GTR | 和田孝夫 和田 久 | 9laps |
27 | 12 | 500 | 14 | カルソニックスカイライン | 星野一義 本山 哲 | 9laps |
28 | 911 | 300 | 14 | ナインテン TIBポルシェ | 芳賀重光 高橋規一 | 9laps |
29 | 55 | 300 | 15 | Castrol SF RX7 | 深沢寿裕 長島正明 | 9laps |
30 | 60 | 300 | 16 | ワイズダンロップBPキャバリエ | 佐藤久実 田中 実 | 9laps |
31 | 70 | 300 | 17 | 外車の外国屋アドバンポルシェ | 石橋義三 小宮延雄 | 11laps |
32 | 57 | 300 | 18 | SiFo Spider Ver.GT | 砂子智彦 吉富 章 | 15laps |
33 | 36 | 500 | 15 | カストロール・トムス・スープラ | M.クルム P.デ・ラ・ロサ | 24laps |
556 | 500 | KURE R33 | 影山正彦 近藤真彦 | 50laps | ||
91 | 300 | バーディークラブ・MR-2 | 松永雅博 三原じゅん子 | 45laps | ||
77 | 300 | クスコスバルインプレッサ | 小林且雄 古谷直広 | 43laps | ||
27 | 300 | シェル・フェラーリ F355 | 太田哲也 S.アンドスカー | 36laps | ||
17 | 300 | 東京科芸専:REロードスター | 野上敏彦 細野智行 | 21laps | ||
3 | 500 | ユニシアジェックススカイライン | 長谷見昌弘 田中哲也 | 17laps | ||
28 | 300 | TEAM FCJ フェラーリ | 山崎正弘 P.バン・スクート | 0lap |
目次ページ
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1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)
- 第10回:1997年 第6戦(最終戦)SUGO 諦めず走り続ける価値 (2015年4月24日公開)