1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第9回:SUPER GT 2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 決勝
2006年のSUPER GT開幕戦が行われる鈴鹿で、4台の真新しいGT500車両が大観衆にお披露目された。トヨタ系チームは、これまでスープラに代わり、この年から新型車両としてレクサスSC430を投入したのだ。ロングノーズのスポーツカー然としたスープラに比べ、SC430のシルエットは大人しく感じられた。新車だけに開幕戦の話題の中心ではあったが、速さという点においては優勝候補とは見られていなかった。だが、このSC430の真価を知る男たちは、密かにデビュー戦で勝利を狙っていた。
本領が発揮できなかったスーパーラップ
2002年にトヨタスープラで全日本GT選手権(JGTC)を初制覇した脇阪寿一。名実ともにトヨタのエースとなった脇阪は、この年TOYOTA TEAM TOM'Sに移籍し、OPEN INTERFACE TOM'S SC430を駆ることになった。求められることは、もちろんタイトル獲得だ。脇阪には、もうひとつの課題があった。それは新型SC430を、SUPER GTで勝てるクルマに熟成させることだった。
だが、SC430はシーズンオフのテストでタイムが伸び悩む。もちろん、GT500の3メーカー中で唯一の新型だけに、タイム以上にデータが重要だったこともあった。しかし、開幕戦のレースウィークに入っても、好転の兆しが見えない。金曜日の公式練習でもトップからは1秒の差をつけられていた。
そして迎えた土曜日の公式予選。当時の予選は、予選1回目で上位10台が、予選2回目で単独で走り、ポールポジション以下トップ10を決めるスーパーラップ方式で行われていた。ドライコンディションの予選1回目は、脇阪がトップからのタイム差をコンマ6秒にまで詰め、6位でスーパーラップに進出。しかし、雨となったスーパーラップでは、新型車の難しさが出たのか、脇阪のOPEN INTERFACE TOM'S SC430はラインを乱す。幸いにも、ライバルもタイムが伸び悩み、スターティンググリッドでは5番手とひとつ上げることになった。
強風でライバルたちの足下がふらつく
決勝日は、雲もあったが青空が広がる完全なドライコンディション。ただしサーキットには"鈴鹿おろし"と言われる強風が吹き荒れ、特に鈴鹿の2本のストレートでは、強い追い風が吹いていた。また路面温度もスタートした時点で16度に留まっており、タイヤには厳しい路面コンディションとなっていた。
そんなコンディションの影響もあり、フロントローにつけていたNSX 2台は予選ほどには速さを見せつけることができず。またセカンドローに並んだフェアレディZの2台も苦しい走りで、序盤は混戦模様となる。
一方、他車に比べ風の影響が少なかったSC430は、OPEN INTERFACE TOM'S SC430(アンドレ・ロッテラー)が好スタートを決め、1周終わったところで3番手に浮上する。ロッテラーもこの年にTOYOTA TEAM TOM'Sに加入。脇阪からSC430の特性をしっかり教授されたロッテラーは瞬く間に2番手のNSXも抜き、ポールポジションから逃げるARTA NSXに迫った。
見事な逆転劇でデビュー戦を制したSC430
レースが進むにつれてARTA NSXとOPEN INTERFACE TOM'S SC430の間隔が徐々に詰まってくる。強風に空力性能が乱されるのか、ARTA NSXは、予選で見せた好調さを封じ込められたかのよう。これに対し、OPEN INTERFACE TOM'S SC430は、優れたストレートスピードを発揮し、開幕前の不調が嘘のような快足で追い上げる。そして22周目のスプーンカーブ、OPEN INTERFACE TOM'S SC430はついにARTA NSXをパス。ついにトップに立ってみせた。
脇阪に交替したOPEN INTERFACE TOM'S SC430は、トップをキープして後半戦に突入。終盤、XANAVI NISMO Z(松田次生)の追い上げもあったが「レース前半のアンドレ(ロッテラー選手)の走りで勇気をもらった」という脇阪が渾身のドライブで逃げ切り。記念すべきレクサスSC430のSUPER GTデビューレースを、劇的な逆転優勝を飾ることになった。
レース後の優勝会見で脇阪は「(合同テストが行われた)2週間前に、僕たちの優勝を予想した人はいなかったと思う」と切り出した。そして「でもレースまでにトヨタとTRD、チームが一生懸命に速いクルマに仕上げてくれました」と開発陣の仕事ぶりを称えた。実際、レース中のファステストラップはライバルと互角だった。スープラの後継車両は数々検討されたが、空力の良さからSC430が選ばれたという。強風と低温で走りを乱されたクルマが多かったこのレース、SC430の真価が発揮されたと言えよう。
また、この年チャンピオンとなった脇阪とロッテラーは、2009年にもSC430で再度タイトルを獲得している。このSUPER GTを代表する名コンビ、いや名トリオの第一歩が、この2006年開幕戦鈴鹿であったわけだ。
写真協力:GTアソシエイション
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SC430はこのデビューレースに勝ち、ラストのシリーズ戦となった2013年最終戦でもENEOS SUSTINA SC430が勝利している。
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2002年にはスープラでGT500チャンピオンとなった脇阪寿一。2006年は新チーム、新型車、新コンビで臨んだ。
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開幕戦鈴鹿のGT500クラスのスタート。予選5位から好スタートを切ったOPEN INTERFACE TOM'S SC430のロッテラー(左端)。
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優れた直進安定性を活かしてOPEN INTERFACE TOM'S SC430は快走。強風の影響に苦しむARTA NSXを抜きトップに立った
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レース終盤、XANAVI NISMO Z(松田次生)に迫られるが、脇阪は要所をきっちり抑えて隙を見せずに逃げ切った。
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難しいコンディションになった2006年の開幕戦。GT500の3メーカーのエース車が表彰台を分けあった。
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脇阪とロッテラーはこの鈴鹿が初コンビ。2009年にもタイトルを獲得することとなる名コンビはここからスタートした。
SUPER GT 2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | 周回 | ベストラップ | タイヤ | ウエイト |
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1 | 36 | 500-1 | OPEN INTERFACE TOM'S SC430 | 脇阪 寿一 アンドレ・ロッテラー | 1:43'40.197 | 52 | 1'55.920 | BS | |
2 | 23 | 500-2 | XANAVI NISMO Z | 本山 哲 松田 次生 | 0'03.412 | 52 | 1'56.027 | BS | |
3 | 8 | 500-3 | ARTA NSX | 伊藤 大輔 ラルフ・ファーマン | 0'06.957 | 52 | 1'55.969 | BS | |
4 | 18 | 500-4 | TAKATA 童夢 NSX | 道上 龍 小暮 卓史 | 0'11.299 | 52 | 1'56.348 | BS | |
5 | 1 | 500-5 | ZENT セルモ SC | 立川 祐路 高木 虎之介 | 0'28.344 | 52 | 1'56.307 | BS | |
6 | 6 | 500-6 | Mobil 1 SC | 飯田 章 片岡 龍也 | 0'44.586 | 52 | 1'57.269 | BS | |
7 | 100 | 500-7 | RAYBRIG NSX | セバスチャン・フィリップ 細川 慎弥 | 0'53.470 | 52 | 1'56.534 | BS | |
8 | 25 | 500-8 | ECLIPSE ADVANスープラ | 織戸 学 土屋 武士 | 1'08.973 | 52 | 1'57.624 | YH | |
9 | 3 | 500-9 | イエローハットYMS トミカ Z | 横溝 直輝 J.P.デ・オリベイラ | 1'11.139 | 52 | 1'56.408 | BS | |
10 | 24 | 500-10 | WOODONE ADVAN KONDO Z | エリック・コマス 柳田 真孝 | 1'12.822 | 52 | 1'57.742 | YH | |
11 | 66 | 500-11 | triple a サード スープラGT | アンドレ・クート 平中 克幸 | 1'26.370 | 52 | 1'56.588 | BS | |
12 | 22 | 500-12 | MOTUL AUTECH Z | ミハエル・クルム 山本 左近 | 1Laps | 51 | 1'56.146 | BS | |
13 | 12 | 500-13 | カルソニック インパル Z | ブノワ・トレルイエ 星野 一樹 | 1Laps | 51 | 1'55.758 | BS | |
14 | 35 | 500-14 | BANDAI DIREZZA SC430 | 服部 尚貴 ピーター・ダンブレック | 1Laps | 51 | 1'58.103 | DL | |
15 | 32 | 500-15 | EPSON NSX | ロイック・デュバル 武藤 英紀 | 2Laps | 50 | 1'56.551 | DL | |
16 | 88 | 300-1 | アクティオ ムルシェ RG-1 | マルコ・アピチェラ 桧井 保孝 | 1:44'23.259 | 48 | 2'06.923 | YH | |
17 | 7 | 300-2 | 雨宮アスパラドリンクRX7 | 山野 哲也 井入 宏之 | 0'26.744 | 48 | 2'07.696 | YH | |
18 | 110 | 300-3 | TOTALBENEFIT GREENTEC BOXSTER | 松田 秀士 菅 一乗 | 0'29.171 | 48 | 2'07.337 | YH | |
19 | 19 | 300-4 | ウェッズスポーツセリカ | 松田 晃司 脇阪 薫一 | 1'18.509 | 48 | 2'06.547 | YH | |
20 | 87 | 300-5 | トライク ムルシェ RG-1 | 山西 康司 WADA-Q | 1Laps | 47 | 2'05.844 | YH | |
21 | 2 | 300-6 | Privée Zurich・アップル・紫電 | 高橋 一穂 加藤 寛規 | 1Laps | 47 | 2'06.885 | YH | |
22 | 27 | 300-7 | direxiv ADVAN 320R | 密山 祥吾 谷口 信輝 | 1Laps | 47 | 2'07.816 | YH | |
23 | 96 | 300-8 | EBBRO BTEC MAZIORA 350R | 黒澤 琢弥 黒澤 翼 | 1Laps | 47 | 2'09.369 | DL | |
24 | 14 | 300-9 | ハンコックエンドレスポルシェ | 木下 みつひろ 峰尾 恭輔 | 1Laps | 47 | 2'08.539 | HK | |
25 | 47 | 300-10 | 吉兆宝山 DIREZZA Z | 長島 正興 安田 裕信 | 1Laps | 47 | 2'08.820 | DL | |
26 | 52 | 300-11 | プロμ太陽石油KUMHOセリカ | 竹内 浩典 嵯峨 宏紀 | 1Laps | 47 | 2'09.557 | KH | |
27 | 46 | 300-12 | 吉兆宝山 DIREZZA Z | 佐々木 孝太 番場 琢 | 2Laps | 46 | 2'07.862 | DL | |
28 | 9 | 300-13 | LeyJun ADVAN モスラーMT | OSAMU 壷林 貴也 | 2Laps | 46 | 2'09.546 | YH | |
29 | 5 | 300-14 | プロμマッハGOGOGO車検320R九州 | 玉中 哲二 筒井 克彦 | 2Laps | 46 | 2'11.048 | YH | |
30 | 910 | 300-15 | 洗剤革命TEAM UEMATSU&石松RSR | 植松 忠雄 菊地 靖 | 2Laps | 46 | 2'10.645 | YH | |
31 | 13 | 300-16 | エンドレスアドバンCCI Z | 影山 正美 藤井 誠暢 | 2Laps | 46 | 2'07.329 | YH | |
32 | 70 | 300-17 | 外車の外国屋アドバンポルシェ | 石橋 義三 平川 晃 | 2Laps | 46 | 2'11.068 | YH | |
33 | 62 | 300-18 | WILLCOM ADVAN VEMAC408R | 柴原 眞介 八木 宏之 | 3Laps | 45 | 2'07.172 | YH | |
34 | 10 | 300-19 | T&G FACE NETWORK DUNLOP F360 | ヒロミ 尾本 直史 | 4Laps | 44 | 2'11.166 | DL | |
777 | 300 | 梁山泊 apr MR-S | 田中 実 大嶋 和也 | 21Laps | 27 | 2'09.027 | MI | ||
666 | 300 | ライフワークBOMEXアップル NSX | 周防 彰悟 山下 潤一郎 | 31Laps | 17 | 2'12.781 | YH | ||
101 | 300 | TOY STORY Racing MR-S | 新田 守男 高木 真一 | 33Laps | 15 | 2'09.606 | MI | ||
11 | 300 | JIM CENTER FERRARI DUNLOP | 田中 哲也 青木 孝行 | 43Laps | 5 | 2'07.848 | DL | ||
111 | 300 | ARKTECH GT3 | 飯島 寛也 Guts 城内 | 44Laps | 4 | 2'18.163 | YH |
目次ページ
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1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)
- 第10回:1997年 第6戦(最終戦)SUGO 諦めず走り続ける価値 (2015年4月24日公開)