1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第8回:JGTC 1998年 第7戦(最終戦)SUGO 決勝
世界中から多彩な車種が集まり、様々な経歴持つドライバー達が集うGT300クラス。そのおもしろさを語れる人はまさに"SUPER GT通"だ。そんなGT300クラスで名門プライベーターと言われる2チームがジョイント、トヨタMR2を駆り、6戦5勝と圧倒したベテランと新鋭のドライバーコンビがいた。彼らは正にSUPER GT通を納得させる、GT300を象徴するようなチームであった。
プライベーターの雄がMR2でGT300に参戦
1998年、当時は全日本GT選手権(JGTC)という名称だったGT300クラスも競技車両のバラエティが豊富。エンジンの種類や搭載位置、駆動方式まで様々なクルマが参加し、性能調整によってポテンシャルの均整がとられていた。GT500クラスよりパワーが低い分、ウェイトハンディはパフォーマンスに響くため、GT500クラス以上に連勝が難しかった。
にもかかわらず、この年の開幕戦鈴鹿から第4戦富士(第2戦富士は悪天候のため中止)まで3連勝をしたのが、つちやMR2の鈴木恵一/舘信吾(たち・しんご)組だった。チームの主体である土屋エンジニアリングはツーリングカーレースで活躍し、名メカニックと同業者からも尊敬を集める土屋春雄氏が率いる名門プライベーターチーム。この年はTEAM TAISAN(こちらも名門プライベーターチーム)がジョイントし、TEAM TAISAN Jr. with つちやとしてチーム体制を強化しての参戦だった。
ドライバーも1996年にGT300チャンピオンになっているベテランの鈴木恵一をエースに、F3やスーパー耐久でめきめき頭角を現してきた期待の若手、舘信吾を抜擢。気分一新で開幕戦に臨むことになった。
ベテランと若手、ドライバーの良さが融合
この年の開幕戦では金曜日の公式練習中に鈴木が他車に激突されてクラッシュ、右足をケガするハプニングがあった。そこで急遽、若い舘に予選タイムアタックが託される。前年のオールスター戦にスポット参戦し、GT500のスープラを体験していたというものの、これが実質的にGT初レースの舘。にも関わらず舘は、クラス7番手につけた。百戦錬磨のライバル達の間に割って入る結果だけに、十分な及第点と評価された。決勝は、ポールポジションを獲得した新田守男/水野昇太組のMR2が前半独走したが、給油装置のトラブルで2度燃料補給することになり後退。
この時点で、2番手はつちやMR2。舘はレース中、新人らしいコースアウトも見せたが、鋭い追い上げとタイヤ無交換作戦でポジションをアップし、鈴木の負担を最小限にするロングランを果たす。これを受け、鈴木もケガを感じさせない好走でトップチェッカーを受けた。舘に嬉しい初優勝だった。
ちなみに舘信吾は、TEAM TOM'Sを率いる舘信秀代表の息子。「信吾君を育てるのは舘さんへの恩返し」と公言していた鈴木にとっては、早くも実力を発揮する弟子に喜びもひとしおだった。
未だに破られていない年間5勝の記録を達成
第2戦富士が悪天候もあって中止。第3戦仙台ハイランドは舘がスタートでミスするが、彼と鈴木の猛追が功を奏して連勝。第4戦富士ではウェイトハンディ60kgを跳ね返して、舘がポールポジションを獲得。レースでは後半にリアバンパーが壊れてピットインするハプニングがあったが、稼いだマージンと素早い補修作業でリカバー。驚異的な3連勝を達成。ベテランと新鋭、そしてチームが高品質なベース車両のMR2をぎりぎりまで軽量化して、GT500でも使用された素性の良い3S-GTをチューニング。ソフトとハードが噛み合った速さは疑う余地がなかった。
第5戦もてぎでは、当時の限度一杯の80kgのウェイトハンディを背負うことになったが、新シャシーの車両を投入もあって予選2位につけた。決勝でも速さは見せたもののピットインのタイミングで大きく後退。6位に留まる。続く第6戦CP MINEサーキットでも70kgのウェイトハンディものともせず予選2位につけると、決勝でもポールポジションのシルビアを序盤に抜き、その後は独走。4勝目を挙げ、最終戦を待たずにタイトルを決定していた。
シリーズ最終戦のスポーツランドSUGO。現在のようなウェイトハンディのリセットはないため、再び上限の80kgを積んだつちやMR2。しかし、舘は今季2度目のポールポジション獲得で周囲を驚かす。決勝でも快走をみせ、前半を担当した舘がロングラップを引っ張ったことでルーティンピットの際にもトップの座をキープしたまま、正真正銘のポール・トゥ・ウィンを決めて見せた。
シーズン5勝は、GT500も含め、現在も破られていない最多勝記録。「来年はまた、ライバルも速くなってくるだろうし...」とクールに分析するベテランのとなりでルーキーが、「とにかくうれしい。でも(6戦5勝の大記録には)自分でもびっくりしています」とあどけない笑顔で語っていたことが忘れられない。ちなみに、この最終戦から3週間後にTIサーキット英田(現・岡山国際サーキット)で行われたオールスター戦でもポールを奪い、6勝目を飾っている。
写真協力:GTアソシエイション
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土屋エンジニアリングのMR2は、凝った空力などは持たなかったが、軽量でMRの特性を活かした機敏なクルマだった。
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1996年にポルシェでGT300を初制覇したベテランの鈴木恵一。この年はエースと言うよりGTデビューの舘の師匠役として参戦。
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最終戦決勝のフォーメーションラップ。当時GT500とGT300は一団で隊列を組んでいた。左列2台目がGT300ポールのつちやMR2。
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トップを走るつちやMR2の舘信吾。後ろは予選2位のアペックスDLモモコルセMR2で、このMR2もシリーズ3位になっている。
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つちやMR2は、最終戦で80kgとGT300最大のウェイトハンディにもかかわらず、ポール・トゥ・ウインを決めて見せた。
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優勝記者会見での舘(当時21歳)と鈴木(同49歳)。鈴木は現在、チーム監督やTV解説を務める。
JGTC 1998年 第7戦(最終戦)SUGO 決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | タイヤ | ウエイト |
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1 | 16 | 500-1 | Castrol 無限 NSX | 中子 修 道上 龍 | 1:56'38.356 | BS | 40 |
2 | 37 | 500-2 | カストロール・トムス・スープラ | 鈴木利男 K.バート | 0'05.281 | DL | |
3 | 38 | 500-3 | FK/マッシモセルモスープラ | 竹内浩典 野田英樹 | 0'12.272 | BS | |
4 | 12 | 500-4 | カルソニックスカイライン | 星野一義 黒澤琢弥 | 0'14.168 | BS | 40 |
5 | 3 | 500-5 | ユニシアジェックススカイライン | 長谷見昌弘 田中哲也 | 0'14.558 | BS | 10 |
6 | 23 | 500-6 | ペンズオイル・ニスモGTR | E.コマス 影山正美 | 0'18.530 | BS | 70 |
7 | 8 | 500-7 | FET SPORTS SUPRA | W.ガードナー 田中 実 | 1 lap | BS | |
8 | 50 | 500-8 | ARTAスカイライン | 本山 哲 土屋武士 | 1 lap | BS | |
9 | 2 | 500-9 | ZEXELスカイライン | 鈴木亜久里 影山正彦 | 1 lap | BS | |
10 | 25 | 300-1 | つちやMR2 | 鈴木恵一 舘 信吾 | 4 laps | YH | 80 |
11 | 61 | 300-2 | テイボン・トランピオ・FTO | 中谷明彦 原 貴彦 | 5 laps | TY | |
12 | 19 | 300-3 | ウェッズスポーツセリカ | 織戸 学 山本勝巳 | 5 laps | YH | 40 |
13 | 15 | 300-4 | ザナヴィシルビア | 近藤真彦 青木孝行 | 5 laps | BS | |
14 | 21 | 300-5 | ダンロップ-BP-BMW | 一ツ山康 加藤寛規 | 6 laps | DL | |
15 | 7 | 300-6 | RE雨宮マツモトキヨシRX7 | 山路慎一 松本晴彦 | 6 laps | DL | |
16 | 9 | 300-7 | 大黒屋ぽるしぇ | 羽根幸浩 河野尚裕 | 6 laps | DL | |
17 | 81 | 300-8 | ダイシン ダンロップ シルビア | 福山英朗 大八木信行 | 7 laps | DL | 10 |
18 | 60 | 300-9 | TOYOTA CAVALIER | 佐藤久実 渡辺 明 | 7 laps | DL | |
19 | 70 | 300-10 | 外車の外国屋ダンロップポルシェ | 石橋義三 P.バン・スクート | 7 laps | DL | |
20 | 911 | 300-11 | ナインテンPCJポルシェ | 高橋規一 斎藤和重 | 11 laps | DL | |
21 | 77 | 300-12 | クスコスバルインプレッサ | 小林且雄 玉本秀幸 | 14 laps | YH | 20 |
22 | 55 | 500-10 | STPタイサンバイパー | 松田秀士 A.リード | 15 laps | YH | |
23 | 91 | 300-13 | コーセイ&バーディクラブ・セリカ | 松永雅博 藤原靖久 | 17 laps | YH | |
24 | 88 | 500-11 | ウェディングディアブロ GT-1 | 和田 久 古谷直広 | 17 laps | DL | |
25 | 910 | 300-14 | ナインテンポルシェ | 余郷 敦 木下隆之 | 20 laps | DL | |
26 | 117 | 300-15 | ホイールショップALTA・RX-7 | 深沢寿裕 古在哲雄 | 20 laps | DL | |
27 | 71 | 300-16 | シグマテック911 | 星野 薫 城内政樹 | 24 laps | DL | |
28 | 10 | 300-17 | アビリティポルシェ993GT2 | 麻生英彦 石川 朗 | 27 laps | DL | |
44 | 300 | アペックスDLモモコルセMR2 | 新田守男 P.ダンブレック | 46 laps | DL | ||
13 | 500 | エンドレスアドバンGTR | 木下みつひろ 藤村満男 | 31 laps | YH | ||
100 | 500 | RAYBRIG NSX | 高橋国光 飯田 章 | 31 laps | BS | 50 | |
39 | 500 | デンソーサードスープラGT | 土屋圭市 谷川達也 | 21 laps | YH | 20 | |
36 | 500 | カストロール・トムス・スープラ | 関谷正徳 N.フォンタナ | 12 laps | DL | 20 | |
5 | 500 | 5ZIGEN SUPRA | M.グーセン 田島栄一 | 11 laps | DL | ||
355 | 300 | イエローマジックF355GT | 袖山誠一 須賀宏明 | 11 laps | YH | ||
30 | 500 | 綜警 PORSCHE | 山田洋二 岡田秀樹 | 9 laps | BS | ||
777 | 500 | バルボリンディアブロDL | 和田孝夫 杉山正巳 | 8 laps | DL | ||
51 | 300 | コブラポルシェ | 池谷勝則 石原将光 | 7 laps | YH | ||
64 | 500 | Mobil 1 NSX | 山西康司 T.コロネル | 0 lap | BS | 90 | |
72 | 300 | オークラRX7 | M.ポーター 平野 功 | 0 lap | YH | ||
18 | 500 | TAKATA童夢無限NSX | 金石勝智 脇阪寿一 | BS |
目次ページ
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1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)
- 第10回:1997年 第6戦(最終戦)SUGO 諦めず走り続ける価値 (2015年4月24日公開)