1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
第5回:JGTC 1999年 第5戦 富士 決勝
栄光を獲得した男は、自信があった。だが、そのスタイルが上手くいかないとなれば、どうするのか? 栄光を汚さないためにも"辞める"という手もあったはず。だが、彼は走り続けた。日本で応援してくるファンのため、支えてくれるスタッフのため、そして自分のために。新しい走りを見つけ、我慢の末に得た勝利は、あまりにあっけないものであった。
大人気の世界チャンピオンがJGTCに参戦
4輪レースの世界と同様に2輪、オートバイの世界にもワールドグランプリがある。このグランプリの最高クラスGP500(現在はMotoGP)で世界チャンピオンとなり、その後に全日本GT選手権(JGTC)でも優勝を手にした男がいるのをご存じだろうか?
その男、ワイン・ガードナーは1996年にJGTCに参戦。TOYOTA TEAM SARDのスープラをドライブした。4輪ファンの間では「誰?」という知名度だったが、彼を応援するために2輪レースのファンが数多く来場し、関係者の間では「さすが世界チャンピオンだ」とも囁かれていた。そう、ガードナーは1986年に2輪グランプリの世界チャンピオンを獲得している。だが、彼の人気はそれだけではない。日本で行われる2輪の祭典「鈴鹿8時間耐久レース(通称:8耐)」で4度の優勝を飾っており、彼のメジャーデビューも日本の有力プライベーターと言うこともあり、日本での人気は他のトップライダーを引き離していた。
1992年に2輪グランプリから引退したガードナーは、故郷オーストラリアの4輪レースを経て、隆盛を迎えている日本のJGTCに誘われた。この年はマクラーレンF1GTRが席巻していたが、ガードナーとパートナーのアラン・フェルテは、参戦2戦の富士で3位表彰台を獲得。しかし、以後は思うような結果を残せずにいた。
JGTCドライバーとして自分の役割を見つける
そしてJGTC参戦3年目のシーズン。ガードナーは、TOYOTA Team LeMansに移籍して野田英樹と組む。そして、第3戦SUGOでは野田がポールポジションを獲得。レースでも野田がトップでガードナーにステアリングを渡し、スープラにとって1年半ぶりの優勝が目前になった。だが、無情にもマシンにトラブルが発生し、ガードナーはマシンをコースサイドに止めざる終えなかった。「ほんとうにほんとうに、ほんとうにガックリだよ。クルマの調子はどのセッションもよかったし、ノダも速いし。信じられない。すごくいいチームだし、クルマはすばらしいし、ドライバーも速い。勝てるチームなんだ。でも...」とアンラッキーを嘆いた。
しかし第5戦富士に、そのチャンスが訪れた。ポールポジションからスタートしたのは、カストロール・トムス・スープラの関谷正徳。だが、関谷のスープラはタイヤがコンディションに合わなかったのか、思うようにペースアップできない。これに対し、予選4位から確実に順位を上げた野田は11周目にトップを奪った。2番手に20秒近いマージンを築いた野田は、ガードナーにESSO Tiger Supraを託す。全車がピットインを済まし、再びトップに立ったガードナーは競り合う2番手集団を尻目に独走。最終的には30秒もの大差を付けて、野田と共にJGTC初優勝を飾った。
当初は2輪やオーストラリア時代の名残りか、荒っぽさからトラブルを呼ぶことが多かった。だが、この年はスープラのテストも手掛けていた野田をリスペクトし、元世界チャンピオンはセカンドドライバーに徹し、確実な走行に終始した。
「正直なところ、"やっと"というのが感想なんです。SUGOのレースとか何度も近いところまでいって手からすり抜けるということが多かった。今日の私の仕事は、ノダが作ったマージンを最大限に利用してクルマをゴールまで持ってくることだけでした。チーム全体、トヨタをはじめサポートしてくれたみんなの勝利だと思います」。初優勝に酔うことなく、ガードナーは静かに語った。
そして次のレース。パドックに現れたガードナーを見て、皆は目を見張った。「富士では本当に勝ちたかったから、チームのみんなと賭けをしたんだよ。勝ったら髪を短く刈るって」。そう言って、さっぱりした頭を撫でた。そこには過去の栄光を背負うライダーではなく、1人のJGTCトップドライバーが存在していた。
写真協力:GTアソシエイション
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レース序盤、先行する3台のトムス・スープラを追う4番手の野田のESSO Tiger Supra。背後にはデンソーサードスープラGTとRAYBRIG NSXが続いた。
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カストロール・トムス・スープラを抜き、トップに立った野田は後続を引き離して十分なマージンを得て、ガードナーにステアリングを渡した。
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後半にトラブルがあった第3戦とは違い、このレースはまったくのノートラブル。2位に30秒もの大差を付けて2人は初優勝の表彰台に上がった。
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「トムスは柔らかいタイヤだったのかな? 我々はパーフェクトでした」と野田。ガードナーも「本当にいいクルマだった」と満足げだった。
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チームと賭けをしたというガードナー。次戦のピットに現れた彼は、見事に短く刈り上げたヘアースタイルだった。
JGTC 1999年 第5戦 富士 決勝レース結果
順位 | No. | C-Po | 車名 | ドライバー | 所要時間/差 | タイヤ | ウエイト |
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1 | 6 | 500-1 | ESSO Tiger Supra | 野田英樹 W.ガードナー | 1:26'41.511 | BS | 20 |
2 | 18 | 500-2 | TAKATA 童夢 NSX | 脇阪寿一 金石勝智 | 0'30.577 | BS | 20 |
3 | 1 | 500-3 | ペンズオイル・ニスモGTR | E.コマス 本山 哲 | 0'32.212 | BS | 60 |
4 | 36 | 500-4 | カストロール・トムス・スープラ | 関谷正徳 黒澤琢弥 | 0'32.336 | MI | 30 |
5 | 12 | 500-5 | カルソニックスカイライン | 星野一義 影山正美 | 0'37.023 | BS | 10 |
6 | 38 | 500-6 | FK/マッシモセルモスープラ | 竹内浩典 立川祐路 | 0'39.255 | BS | 20 |
7 | 100 | 500-7 | RAYBRIG NSX | 高橋国光 飯田 章 | 0'43.417 | BS | 50 |
8 | 64 | 500-8 | Mobil 1 NSX | T.コロネル 光貞秀俊 | 0'47.911 | BS | 20 |
9 | 16 | 500-9 | Castrol 無限 NSX | 中子 修 道上 龍 | 0'52.828 | BS | 70 |
10 | 39 | 500-10 | デンソーサードスープラGT | 土屋圭市 影山正彦 | 0'57.575 | YH | 20 |
11 | 3 | 500-11 | ユニシアジェックススカイライン | 長谷見昌弘 田中哲也 | 1'12.102 | BS | |
12 | 2 | 500-12 | ARTAゼクセルスカイライン | 鈴木亜久里 M.クルム | 1'29.020 | BS | |
13 | 35 | 500-13 | マツモトキヨシ・トムススープラ | P-H.ラファネル 山路慎一 | -1lap | MI | 30 |
14 | 30 | 500-14 | 綜警 McLaren GTR | 山田洋二 岡田秀樹 | -1lap | BS | |
15 | 37 | 500-15 | カストロール・トムス・スープラ | 鈴木利男 片山右京 | -1lap | MI | 60 |
16 | 11 | 500-16 | エンドレス アドバン GTR | 和田孝夫 木下みつひろ | -1lap | YH | |
17 | 26 | 300-1 | STP アドバンタイサン GT3R | 松田秀士 D.シュワガー | -4laps | YH | |
18 | 88 | 500-17 | ノマドディアブロGT-1 | 和田 久 古谷直広 | -4laps | TY | |
19 | 7 | 300-2 | RE雨宮マツモトキヨシRX7 | 松本晴彦 山野哲也 | -4laps | YH | 20 |
20 | 61 | 300-3 | テイボン・トランピオ・FTO | 中谷明彦 R.ファーマン | -4laps | TY | |
21 | 81 | 300-4 | ダイシン シルビア | 福山英朗 大八木信行 | -4laps | YH | 50 |
22 | 25 | 300-5 | モモコルセ・アペックスMR2 | 新田守男 高木真一 | -5laps | YH | 80 |
23 | 14 | 300-6 | ホイールショップアルタシルビア | 古在哲雄 小宮延雄 | -5laps | YH | |
24 | 55 | 300-7 | アドバンタイサンポルシェRSR | 須賀宏明 田嶋栄一 | -5laps | YH | |
25 | 910 | 300-8 | ナインテンアドバンポルシェ | 余郷 敦 D.マラガムア | -5laps | YH | 20 |
26 | 21 | 300-9 | BP-トランピオ-BMW | 一ツ山康 伊藤大輔 | -6laps | TY | |
27 | 86 | 300-10 | BPアペックスKRAFTトレノ | 田中 実 雨宮栄城 | -6laps | TY | |
28 | 70 | 300-11 | 外車の外国屋アドバンポルシェ | 石橋義三 P.ヴァン・スクート | -6laps | YH | |
29 | 355 | 300-12 | イエローマジックF355GT | 井上隆智穂 高橋 毅 | -8laps | YH | |
30 | 72 | 300-13 | オークラRX7 | 石川 朗 平野 功 | -8laps | YH | |
31 | 911 | 300-14 | ダイヤモンドポルシェ | 石原将光 野地廣行 | -8laps | YH | |
32 | 10 | 300-15 | アビリティ・マリオポルシェ | 麻生英彦 桧井保孝 | -9laps | YH | |
33 | 111 | 300-16 | JIM GAINER F355 | 井倉淳一 真希遊世 | -9laps | YH | |
34 | 99 | 300-17 | 大黒屋ARCぽるしぇ | 吉富 章 日置恒文 | -11laps | DL | |
35 | 77 | 300-18 | クスコスバルインプレッサ | 小林且雄 谷川達也 | -13laps | YH | 20 |
36 | 71 | 300-19 | シグマテック911 | 城内政樹 河野尚裕 | -17laps | YH | 10 |
20 | 300 | オートレット セリカ | 松永雅博 佐藤久美 | 30laps | YH | ||
15 | 300 | ザナヴィARTAシルビア | 土屋武士 井出有治 | 24laps | YH | 80 | |
32 | 500 | cdma One セルモスープラ | 木下隆之 近藤真彦 | 9laps | BS | ||
19 | 300 | ウエッズスポーツセリカ | 織戸 学 原 貴彦 | 3laps | YH | 70 |
目次ページ
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1994-2013 SUPER GT/JGTC PLAY BACK
- 第1回:2000年 第4戦 富士 GT最速の男が刻んだ はじめの一歩(2014年7月4日公開)
- 第2回:2009年 第6戦 鈴鹿 フレッシュコンビの若手らしくない初優勝(2014年8月15日公開)
- 第3回:2002年 第3戦 SUGO 「強い脇阪」を誕生させた混乱のレース(2014年9月9日公開)
- 第4回:2007年 第6戦 鈴鹿1000km チャンピオンナンバーは諦めない(2014年10月16日公開)
- 第5回:1999年 第5戦 富士 栄光の向こうにあった勝利(2014年11月10日公開)
- 第6回:2005年 第8戦(最終戦)鈴鹿 記録男が持つ数奇な巡り合わせ(2014年12月11日公開)
- 第7回:2004年 第3戦 セパン(マレーシア)マレーシアを興奮させた12台抜き(2015年1月9日公開)
- 第8回:1998年 第7戦(最終戦)SUGO GT300最強チームの輝き(2015年2月12日公開)
- 第9回:2006年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 衝撃のデビュー戦!鈴鹿おろしを切り裂く(2015年3月23日公開)
- 第10回:1997年 第6戦(最終戦)SUGO 諦めず走り続ける価値 (2015年4月24日公開)