レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

368LAP2024.07.24

「完全女性オンリーチーム」

日本でも遅ればせながら男女雇用機会均等法が叫ばれていますが、世界はもっと進んでいます。世界のジェンダー・ギャップ指数で日本は大きく遅れています。一方ドイツは先進国です。そんなドイツで、女性だけのレーシングチームが活躍しているのです。

ジェンダー・ギャップ指数、世界で118位

世界のジェンダー・ギャップ指数ランキングが話題になっています。
ジェンダーとは、文化的かつ社会的に構築された性差の概念のこと。生まれつきの身体の性によって、社会的な評価の隔たりを、国別に指数化したものを「ジェンダー・ギャップ指数ランキング」と呼んでいます。
持続可能な開発目標(SDGs)として、全世界で最優先に取り組むべき課題のひとつに挙げられています。男女の差別をなくして平等な世界を作りましょう、というわけです。

世界フォーラムが発表した2024年のジェンダー・ギャップ指数ランキングで、日本は、調査した146カ国中の118位でした。
韓国は105位、中国は107位です。日本は131位のサウジアラビアや133位のカタールなど、宗教的に性差があるイスラム系国家とほぼ同等だというのですから、驚くばかりです。先進国の中では圧倒的に下位にランキングされているのです。衝撃的ですね。
トップはアイルランド、2位がノルウェー、3位がフィンランドと北欧の国が上位にランキングしています。

ジェンダー・ギャップ指数ランキングは、「経済」「教育」「健康」「政治」によって評価されます。具体的には、労働参加率や賃金、経営者や管理職の数などで「経済」を評価。「教育」は、識字率や高校大学の進学率がランキングに影響します。「健康」は健康寿命、「政治」は女性議員の割合や閣僚職の女性比率、過去50年の男女別国家元首在職年数などがカウントされるそうです。

女性だけのレーシングチーム

僕は今年、ニュルブルクリンクのシリーズ戦に全戦エントリーしており、生活の大半をドイツで過ごしていますが、そこで感じるのは男女の性差が少ないことです。特にレースの世界でそれを感じます。
ドイツのジェンダー・ギャップ指数は世界7位にランキングされていますから、118位の日本とは比較にならないことは明白です。
ただ、モータースポーツはこれまで、男女の隔たりはなく開催されてきました。つまり、他のスポーツのように男子と女子とでクラス分けされることなく歴史を積み重ねてきたのです。体力的には男子よりも女子のほうが不利であるにもかかわらず、レディスクラスが設定されないままきていたのです。最近になって徐々に、レディスクラスが始まったようですが、まだまだ黎明期です。スポーツとしては稀な男性型競技なのです。ですから、ジェンダー・ギャップ指数世界7位のドイツであっても、サーキットでは女性は少ないように感じますね。
ただし、ニュルブルクリンクでは、女性だけのチームが話題になっています。中国やシンガポールを拠点に展開するグローバルタイヤブランド「Giti」が、レディスチームを構成、全面的にサポートしているのです。
といっても、女性ドライバーを起用するだけではありません。

ニュルブルクリンク耐久レースを戦うその女性チームは、女性ドライバーがステアリングを握っている…というささやかなものではなく、メンバー全員が女性なのです。
コクピットに収まりマシンを走らせるドライバーはもちろん女性ですし、チーム運営を司るプロデューサーからチーム監督、エンジニアやメカニックに至るまで、ピットの中に男性は一人もいません。
彼女たちが走らせているマシンは、BMW・M4GT4です。耐久レースですから、数多くのレーシングタイヤが必要ですが、タイヤサービスからタイヤをピットまで運び、タイヤウォーマーで管理し、マシンがピットインすればジャッキアップし、タイヤを組み込む。その一連の作業のすべてを女性メカニックが担当しているのです。
ヘッドセットをして指示を出すストラテジストも女性です。クラッシュ等の緊急時にも、マシンを修理しエンジンを積み替えるのは女性メカニックです。当初、女性だけのチームがあると聞かされたときに僕は、表面上の作業だけを女性に担当させるだけの、プロモーション的なレディスチームかと穿った見方をしていましたが、実際に、作業のすべてが女性なのです。ピットに男性の姿を見かけることはありません。

チームの女性戦略家

実は2022年にニュルブルクリンク24時間に参戦したとき、BMWワークスともいえるシューベルトモータースポーツで僕らの指揮を執っていたのが女性でした。聞けば、トップチームでチーム監督をするために、シューベルトの門を叩いたとのこと。モータースポーツのプロフェッショナルになるために大学で運動力学を専攻し、数学的にレースを組み立てているというのです。
日本のチーム監督は一般的に、メカニックがその延長線上で担当することが少なくありません。長いレース生活で得た経験を元にレースを指揮する。それが古くからの日本のレーススタイルです。
ですが、モータースポーツ先進国ドイツでは、チーム戦略家はメカニック出身ではなく、戦略家としての数学的知識が求められます。マシンを整備できなくても、レース展開が理解できていればいいのです。専門的になっているのです。ですから、むしろ女性の方が的確な判断ができるのかもしれませんね。

実際に彼女の指揮の元、ニュルブルクリンク24時間レースを戦ったのですが、目まぐるしく変化する天候へ迅速に対応したばかりか、燃費やタイヤの消耗などを加えた複雑な戦略を正しく遂行しました。高度な戦略を組み立てたのです。日本ではこれほどのストラテジストにお目にかかることは滅多にありません。
これはもう、女性だから男性だからというのとは異なり、ドイツのモータースポーツのレベルの高さに感心させられたのです。

Gitiのレディスチームは今年最終戦まで、共に戦うことになります。僕は個人的に、日本人初のシリーズチャンピオンを目標に戦っていますから、なかなかライバルチームの動向を観察する余裕もないのですが、それでも意識しておきたいと思います。

キノシタの近況

NLSニュルブルクリンク耐久レース第7戦は、8月3日開催です。シーズン後半ですから、日本人初のシリーズチャンピオンを獲得するためには優勝しなければなりませんね。応援よろしくお願いします。

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