380LAP2025.01.22
「日本初のナンバー付き耐久レース」
日頃、通勤や通学に使用しているクルマで耐久レースに参戦できる…。そんな時代が訪れるなんて、夢にも思っていなかった方は少なくないのでは?知人の応援に駆けつけた木下隆之が、その楽しさを語ります。
厚い壁を破って
「ライセンスは、私でも取得できますか?」
「スポンサーは必要ですか?」
こんな質問を受けたことは一度や二度ではありません。
モータースポーツの世界は閉鎖的なイメージが強いようで、出場するには数多くの不安が積み重なります。
クルマの運転が好きだから…。そんな純粋な気持ちでレースに挑戦しようとしても、どこの門を叩きどこの扉を開ければいいのか、どれほどお金が必要なのか、アプローチの方法を想像することですら簡単ではありません。
事故の危険性のある競技ですから、とても不安です。それでもレースへの出場を希望してくれるというのですから、なかなか行動的な御仁だと推察しますが、それでも踏み出すには壁があります。門戸を曖昧にしているのは、自分を含めたモータースポーツ人の怠慢かもしれませんね。
ところが、じつはモータースポーツの扉は開かれています。ゴリゴリに改造したレース専用車を準備せずとも、マイカーでの参戦が可能な時代になっています。
かつてのクルマはとてもか弱く、サーキットを走ればトラブルが生じました。けして安価ではないクルマが故障するのは忍びない。コストも嵩みます。ですが、最近のクルマは、サーキットを攻めた程度でトラブルに陥る危険性はほとんどありません。マイカーをちょっと改造するだけで、すぐにでもレースに参戦可能な時代なのです。それを証明したのが「グッドイヤー・ドリームカップ2024」です。
ドリームカップは「日本初のナンバー付きJAF公認耐久レース」と呼ばれています。そのサブタイトルが語っているように、普段通勤や通学でドライブしているマイカーで耐久レースに参戦可能なのです。これは画期的ですよね。
参加車両はTOYOTA GAZOO RacingのGR86/BRZ Cupに参戦中のTOYOTA GR86とSUBARU BRZや、TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupに参戦可能な Yaris、Yaris CVT、そしてVitzや86/BRZ。あるいは富士チャンピオンレースシリーズとして開催されているロードスターカップ1.5チャレンジクラスが対象です。家族を駅まで送迎しているマイカーで、そのままレースに参戦可能なのです。
TOYOTA GAZOO Racing主催のレースマシンが基本ですから、安全装備が組み込まれています。ロールケージや6点式シートベルトなどを装備していますから、安全にレースに参戦できるというわけです。
「TOYOTA GAZOO RacingのGR86/BRZ Cup」や「TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cup」など、すでにナンバー付きモデルでのレースは存在していますが、JAF公認の耐久レースとしては日本初なのです。ここが最大の特徴です。
こう聞けば、レースに気軽に参戦できるような気がしてきませんか?
みんなでワイワイガヤガヤ
耐久レースですから、ドライバーは複数です。友達を誘ってレース参戦できるのですから、コスト的なメリットもありますね。ガソリン代やタイヤ代など消耗パーツをメンバーで折半すれば、一人当たりのコストは抑えられます。
先日、僕の友人がドリームカップに参戦するというので、応援してきました。富士スピードウェイは晴天に恵まれ、フルグリッドに及ぶマシンが楽しくレースをしている姿には、思わずホロリとしました。
TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupに参戦しているマシンに、4名の仲間が交代で乗ったわけです。僕の知人はレース初挑戦ですが、すでにTOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupに参戦しているメンバーがいるわけですから、不安は解消してくれます。エントリーやマシンの準備などで混乱することはないのです。
もちろん、十分に耐久レースの醍醐味が味わえます。ドライバー交代や燃料給油も経験できます。タイヤ交換なども必要かもしれません。6時間耐久レースですから、単純にドライバーの数で割っても、ひとり1時間や2時間も走行できるのです。
スプリントレースは一般的に8周や10周の競技ですから、20分ほどで終了してしまいます。せっかく準備を整えて富士スピードウェイにやってきたのに、20分は短すぎると感じるドライバーも少なくないようです。その点でも、耐久レースは走り甲斐がありますよね。
特殊な準備の必要もない
ドリームカップは給油方法に制限があります。本格的なレースのように、ピットでクイックチャージする必要はありません。
走行中にガス欠になりかけたのであれば、パドックに常設しているガソリンスタンドで給油するようになっています。プロレースで使用している高価な給油装置を準備する必要もありませんし、耐火スーツを纏った給油マンを雇う必要もありません。その点でも気軽なのです。
ただ、そこまで聞くと、パドック内の事故や給油タイミングの取り合いなど、コース外での殺伐としたバトルを想像するかもしれませんが、パドック走行の速度は30km/hに制限されています。しかも、ピットロード進入から給油を終えてコースインするまでに、7分以上を費やさねばならないと定められています。ですので、ドライバーチェンジを急ぐ必要はありません。プロレースは給油もドライバーチェンジもレース時間に含まれますから、飛び乗るようなアクロバティックな作業が求められますが、ドリームカップは牧歌的な雰囲気の中で競技が楽しめるようになっているのです。これはなかなかいい規則だと思いますね。
そもそも予選落ちはありません。せっかく準備をしたのに、決勝を走れないのは悲しいですからね。この点でも牧歌的です。
決勝と予選は一日で行われます。今年の開催は土曜日でした。休暇をとる必要もありません。日頃の生活があるアマチュアには助かりますよね。土曜日に予選と決勝を楽しんだ翌日は、家族サービスに充てられますから。
賞典も気が利いています。入賞チームにトロフィーが贈呈されるのはモータースポーツの醍醐味ですが、完走さえすれば全員表彰されるのです。
恵まれた時代
僕たちの時代は、レースはとても特殊な世界でした。僕はまず、レーシングチームに連絡を取り、レース参戦の糸口を探りました。
「レースに参戦したいんです」
「はあ?どのカテゴリーがいいの?」
「何も知らないので、教えていただけますか?」
「金はあるの?」
そんな剣もほろろな対応でした。その扉を強引にこじ開けてこの世界に踏み込んだのですが、不安ばかりで断念しそうでした。
まずは、レースマシンをレンタルするところから開始したのです。レーシングマシンの貸し出しをシステム化しているチームなどあるわけもなく、それでもマシンを借りることができたのは幸運だったかもしれません。
もし当時からこんなレースが存在していたら楽だったでしょうね。サーキットの門戸がこれほど開かれているのですから、腕試しでも思い出作りでも、ぜひ参戦して欲しいものです。
キノシタの近況
2025年シーズンもニュルブルクリンクに参戦します。今年は特に24時間レースに照準を当てて挑みたいと思います。応援よろしくお願いしますね。