2020年 スーパーフォーミュラ シーズンエンド
モタスポコラム その10 2020.12.25
何もかも信じられない世の中となった2020年も、あと1週間ほどで終わりを告げます。早かったですね…。私の今年の最後の現場はバタバタでしたが、スーパーフォーミュラの最終戦がお世辞ではなく良い内容で締めくくってくれて良かったと安堵の気持ちです。あらためて日本には世界に負けない素晴らしいドライバーが沢山いると…、アピールしたくなりました。
最終戦は、めちゃくちゃ寒かったなあ。お客様の方が本当に大変だったと思いますが。いらしてくださってありがとうございました。
コロナ過でいつも以上に健康に気を遣ったシーズン、私などは現場の方々の疲労に比べたら10分の1くらいだったかもしれませんが、それぞれの立場でやり切ったシーズンだったと思います。12月に開催された鈴鹿、富士ラウンドを振り返ります。
いきなりクライマックスから。
最終決戦第7戦(全7戦と言わずもっとやって欲しい…無理だけど)は、第5-6戦の鈴鹿ラウンドが終わった時点でランキングトップとなったITOCHU ENEX TEAM IMPUL平川亮選手と同ポイントで2位のDOCOMO TEAM DANDELION RACING山本尚貴選手の戦い。結果は、みなさんご存じの山本選手がドライバーチャンピオンに輝きました。今季の山本選手には、速さと強さしかありませんでした。平川選手はタイトル獲得ならず…と書くと何か悲哀ムードになりますが、沢山拍手を送りたいですし胸を張って良いと思います。あの山本選手をあそこまで強くさせたのは、もちろん、“亮”がいたからもあると思うんだよね。あ、力入ってしまった…。山本選手の方がキャリアは当然上ですが、若手(で良い?)で実力をしっかり積み上げて来た平川選手は好敵手になっていたと。シーズン前半をリードした平川選手、ターゲットになるのは当たり前だしそれだけ勢いがありましたしね。
決勝の話に戻りますが、平川選手、山本選手が直接対決するシーンもあり、逆に負けを平川選手も素直に認められる結果になったのかなと。これとても大切…。平川選手はスーパーGTもタイトル目前で逃してしまったので、あの悔しさから前を向いてのスーパーフォーミュラの連戦。短いスパンで心の振れ幅めちゃくちゃ大きかったと思います。それを乗り越え、最後、負けたけれども納得いくレースでシーズンを締めくくったのではないかなと。彼だけではなく、チームも来季に向けもっと頑張ろうと思ったことでしょうね。星野一義監督、ほんとさみしそうでしたから。
もちろん、平川選手が今回獲れば大団円と思ったのは事実。スーパーGTの悲しみも癒されるかなとか終わり良ければ…などという日本人の浪波節的な思考になったりもしました。でもね、そんな考えを超越する山本選手の強さがあったと…。そういうことですね。
平川選手、あなたが居るとベテラン山本選手の遣り甲斐にもなる、そして山本選手がいないと平川選手がチャンピオンになった時、サーキットで一番おめでとうを言って欲しい相手が居なく困ります。ですので、来季もぜひタイトル争いに山本選手と共に筆頭にいて、みんなを魅了し続けてください。平川選手、必ず山本選手を越えてください。もちろん、ドライバーのみなさんもその争いにガンガン入りましょう!来季もココロを揺さぶるレースに期待しています!
今季は1勝のみで私は少し意外でした。それでも中嶋一貴選手も調子良かったし、そのピンチヒッターの宮田莉朋選手も頑張ったからかな。有効ポイント制のシーズン(戦績上位の5戦のポイントのみを換算)でしたね。舘信秀監督は、記者会見でピンと来ていない感じもありましたが、タイトルをしっかり獲得。強いチームは、どこかに何かしら爪痕を残すと思っていたら、チャンピオンでした。おめでとうございました。
その舘監督、山本選手が勝つと納得する…というような発言をしていました。これ同感。そう思わせる山本選手のような突き抜けたドライバーの存在は、業界のレベルアップにもなりますよね。とにかくリスペクト。また舘監督の話で恐縮ですが、そんな存在がいる中で、今回表彰台に立った3人に注目。優勝は、JMS P.MU/CERUMO・INGING坪井翔選手でしたが、2位TCS NAKAJIMA RACING大湯都史樹選手、3位Buzz Racing with B-Max松下信治選手については存じ上げないと(話せば絶対おわかりのはずですが…)おっしゃっていました。そうなんです、それだけ新しい世代が表彰台に上がったんですよね、たった数年で次の時代を担うに十分なドライバー、いや「今」とても速いドライバーがたくさん存在しているんですよ。でも、新時代の幕開けを感じました。ベテラン外国人勢が表彰台の常連だった時期もありましたが、本当に日本人がこれだけ速く熱い戦いをするとうれしくてしょうがないです。当時を否定する訳ではありませんよ。世界レベルの外国人ドライバーの存在は、近年海外にこのカテゴリーの存在を知らしめたり、海外から有力ドライバーが来日するきっかけにもなったと思いますからね。
タイトル争いの陰(失礼…)で、JMS P.MU/CERUMO・INGING坪井選手、2シーズン目に入りましたが、最終戦で今季2勝目を挙げました。今季誰も成し遂げていない最多勝。予選は、TEAM MUGEN野尻智樹選手の100分の1秒差の2位。ポールポジション目前で予選から速く、決勝ではスタートでトップに踊り出ると後続の猛追を振り切り勝利を手にしました。ロングの調子はあまり良くないといいつつ、守り切りました。
坪井選手ご担当の「俺は取材は一切受けないぞ」という菅沼芳成エンジニアをおばさん強引に騙すかのようにお話を伺いました。昔っから現場で菅沼さんのお姿も拝見して来ましたがなかなかお話を伺う機会がなくてね。私、エンジニアさんからお話を伺うのは大好きなんですよ。レースのシナリオを書く技術屋さん、興味あってね。ドライバーとの関係には個性が出たりするので、人となりも興味があります。当たり前ですが、ドライバーさんは常に「勝ち」に貪欲ですので、そこだけは良い人ではない(伝わるかな…)。一番になりたいですからね、そんなドライバーの手綱を握ってレースを戦う。これも仕事の一つ、尊敬です。
坪井選手は、入門カテゴリーのF4でも担当されていたとのことで、F3をトムスで過ごし、晴れてスーパーフォーミュラにステップアップして来た昨年は、ご担当となってもすんなり彼とタッグを組めたそうです。もともとあのようなタイプで…どのようなタイプですか?と私もいつもの調子でお話できレース後ちょっと楽しかったです。
坪井選手、慣れて来ると手がつけられないドライバーとのこと。確かに…。昨年は初めてで当然慣れてなく頑張ろうと思って空回りしていた節があるとのことで、とにかく慣れるのを待つしかないと菅沼さんは焦ってはいなかったご様子。ただ速いところはルーキーの昨年から見せていたので、数年ぶりに2勝をするドライバーが出たということで、来年はもっと上を狙っていけそうとの事でした。また、今まで預かった若手の中で2シーズンでここまで戦績を残して来たドライバーはいないと思うと彼の習得の早さも認識。坪井選手、逸材です。
かつてこのチームでチャンピオンになった国本雄資選手も担当は菅沼エンジニア。それは才能と言うより本人の頑張りだったと…。ドライバーが弱音を吐くことはありますか?の問に常にあるとのことで「隣でチャンピオンを獲っている横で(チームメイトの石浦宏明選手)、ふたりで凹んでいました。そこでみんなダメになって行くんです。でも彼は本当に頑張ったんですよ」と思い出しつつ称えていました。国本選手、私(聞いてない)、結構奔放な血液型(決めつけてはいけません)で、大変でした?と失礼な質問をしてみたら、菅沼さんも同じ血液型でした。だからそこは気にならないとおっしゃっていました(笑)。
来季は、最初からタイトルを狙うつもりで行くとのことです。予選など非常に僅差のカテゴリーですので、誰がどこで一歩頭出るかわかりませんが、ここにもタイトル争いのニューカマーがいましたね。ランキング3位、おめでとうございました。
〇第5-6戦鈴鹿ラウンド
最終戦の2週間前に開催された鈴鹿ラウンドを少し振り返ります。朝、コンビニに行くとおはようございます!と元気な声が聞こえて来て、私などにご挨拶してくださったのは、なんとスーパーGTチャンピオンとなったばかりのホンダ山本尚貴選手でした。こんな光栄なことはないですよね。記念に書いておきますよ! わっ!と思いつつ、自分のクルマが目の前にあるのにどこだっけと慌てていて、おはよ~と挨拶はしたものの(上からではないよ)、チャンピオンおめでとうを言い忘れてしまい、それを後悔してのレースウィークのスタートなりました。
鈴鹿も切ないシーンの連続でした。2連戦だったわけですが、第5戦の朝、ランキングトップだというのに予選前にクルマに乗りこめない平川選手の姿がモニターに映し出されました。あの時は、もうスーパーGT最終戦からの…でしたので、全米が泣くほどの悲しみに包まれたのではと思います。SNSでもかわいそうという声を拾いましたね。予選走れなくて決勝最後尾から頑張ったら、4ワイドからのスピン、リタイアと踏んだり蹴ったりな状況。冷静にフォーミュラカーだと視界的に見えないという方もいましたが、平川選手だけのことを言えば、どこまでこんな試練を味わうのでしょうと思いました。シェークスピアの悲劇超えた…と思いましたね。
スピンしてクルマが壊れたのは言うまでもないですが、翌日第6戦がまたワンデーで開催されるわけです。メカさんたち、現場でクルマを直さないわけにはいきません。夜遅くまでがんばって作業をされたそうですが、平川選手が夜9時頃、差し入れを持参してサーキットに現れたそうです。気持ちわかるドライバーじゃないけど…。自分のクルマを触ってくれているメカニックたちに命を預けていますし、タイトル争いにも絡んでいます。もちろん、タイトルに絡んでなくてもメカさんたちはグリッドにクルマを並べるために全身全霊で直してくれますが、メカさんたちは本当に裏で頑張っているんですよね。平川選手カラダも痛かっただろうにとスタッフの方は心配していましたが、そんなこともありました…。
翌日の第6戦では、平川選手はもちろん元気というか、決勝前、クルマに乗り込む前にバナナをなぜかこちらに向けてきたので、よしいつも通り(笑)だと思い安堵しました。
決勝では、ポールポジションを獲得したニック・キャシディ選手のクルマと第5戦優勝でランキングトップにたった山本選手のクルマがレース中に止まってしまうというアクシデント。まったくモータースポーツの神様(神様と魔物という言葉は何度もいうけど嫌い…)は、なんてことしてくれるんでしょうと投げやりな気持ち。矛先間違っているけど(笑)。。そこで最終戦を前に、ランキングトップは平川亮選手となった訳です。誰だよ…こんなシナリオ書いたの…と、やさぐれる言葉を何度も私は吐きました。レースで勝負してランキングが変わるから良いけどね。なんかやるせなかったな。チームは百戦錬磨ですぐ次の行動へ移るけどね。
鈴鹿ラウンドは、25年ぶり、このカテゴリーになって初めてのタイヤウォーマーの使用で、予選アタックの仕方も変わり、いきなりニュータイヤを2セット投入したりとこれまでと違い若干変化がありました。決勝では、思いの外セーフティーカーが出て、レースの半分はセーフティーカーランでしたね。
ちなみに、最終戦の富士は鈴鹿と違いさらに気温が低く、予選は各セッション1セットのタイヤをしっかり温める方法で、そしてアタックラップの2ラップ目がさらにタイヤが温まり、タイムの出方も鈴鹿と違っていました。モニターからも目が離せず、数字ばかり見ていましたね。
全チームが登場したエンディングの写真です。TRDエンジンチームを掲載。長いコラム、ご覧くださりありがとうございました。長い長いテキストはスクロールしつつ、一言でも何か残る部分があればと思います。今シーズンの現場は終了! 健康なまま終われることに感謝。そして、テキストのこの部分まで読んでくださるみなさまにも感謝です。書き足りないけど良いお年を!
大谷幸子の近況
SFLの事も書きたかったけど、またいつか。今季はなぜかサーキットで知らない方、とくに中の人に話しかけられることが多くなりました。面積デカいので仕方ないですが、ここで言えばトヨタ関係以外の方も多くて、わたしの視野はだいぶ広がったかもしれません。さまざまな角度でモノをみないといけないですが、いろんな立場でモノ書きをしているので、人と話すのは勉強になります。
若いコ(母ちゃんだから許してね)に話しかけられるのも非常にうれしいです。もうね、お父さんお母さんと年齢一緒なんてことはザラにあります。となると、母目線でみんなを応援したくなる訳です。ドライバーさんだけではなくね。
また、最終戦というのは独特の雰囲気もあります。すでに去就の決まっている方もいるかもしれませんし、業界関係者でもこれを最後に去る方がいたりします。そんな方にルーティンの仕事に追われ挨拶できなかったり、また本人の性格からか黙っていてお知らせがなくというのもあったりして、あとで嗚呼…と思うことがあるのがこの日。今季はもうクリスマス?という時期までサーキットにいて、まったく気に掛ける余裕なしでした。
お正月休みで残り5箱の段ボールを開け整理することが目標ですが、すでに視界に入ってなく…(ほっといても生活できちゃうのがダメなのよね)。庭いじりもやりたいけど、冬だし。山の上は結構寒いですが、リビングの陽だまりでのんびりもしたい。トレッキングってほどでもないけど、自然の中で過ごしたい、焼きたい(笑)もまだ実現せず。七輪でも買おうかとやりたいことがいっぱい。とにかくパソコンを閉じてお休みを満喫したいですね!
それでは、みなさま、良いお年を!